第198話 カール・ライネッケ13。再会
昼少し前にゲルタに到着したカールたちは守備隊の兵士たちに先導され、北市街にある守備隊本部の前の広場で整列した。
カールと副官のヨゼフは本部の守備隊隊長室に案内された。
椅子から立ち上がって二人を出迎えた守備隊隊長にカールは帰還報告を行なった。
「王都派遣隊第1、500人隊は王都が敵に占領されていたため、任務未達で帰還しました」
「いや、ご苦労さま。
実はきみたちのことは諦めていたんだよ。400人もの兵隊たちと輜重隊を連れ帰ってくれてありがとう。詳しいことは後で聞くとして、きみにうれしい知らせがある」
「何でしょう?」
「きみの息子さんと娘さんがこの街に来ている」
「娘は一人なので分かりますが、息子というと?」
「エドモンドくんだ」
「エドが。それをなぜ守備隊長がご存じなんですか?」
「今朝、敵の大軍が攻め寄せてきたんだが、エドモンドくんの傭兵団が敵を文字通り殲滅してしまった」
「息子のエドはダンジョンワーカーだったと思いますが」
「そのようだが、きみのことが心配で先日傭兵団を作って傭兵ギルドに登録したんだそうだ。
たった5人、しかも子どもに見えるような傭兵団だったので、何も期待などしていなかったのだが、きみの御子息だと思って自由にさせていたら、見事というか、何というか。わたしとしてもはっきりとは理解できないのだが、とにかく敵はエドモンドくんの傭兵団によって殲滅されたんだよ。
エドモンドくんたちには昼食後ここに来るように言ってあるからそこで対面すればいい。
それと、きみたち派遣隊員たちの食事はここの大食堂に用意してあるから、そこでゆっくりしててくれ。急だったものだから大したものはないが、夕食は期待しててくれ。
エドモンドくんが来たら食堂にきみを呼びにやるから」
「ありがとうございます」
カールは守備隊隊長に礼を言って退出し、守備隊本部を出た。
玄関口で待っていた守備隊の兵士に案内されたカールは、広場に整列していた部隊員たちを引き連れて守備隊の大食堂に向かった。
ゲルタ守備隊の大食堂は1000人は入れる大食堂で今は200人ほどが食事しており、カールたちが大食堂に入って行ったら食事中の全員が立ち上がり拍手を送った。その彼らに向かってカールたちが笑顔で手を振ったら、彼らから歓声が上がった。
「やっと帰ってきたんですね」
「そうだな。
途中で逃げだした連中のことはどうなったか知らないが、とにかく兵隊たちを連れ帰ることができた。これで一安心だ」
「隊長。ご苦労さまでした。
それはそうと、エドくん、一体何をしたんでしょう?」
「先ほどの守備隊長の話だと、傭兵団として敵を殲滅したという話だったが、はっきり言って意味不明だったな」
「どういうことなんでしょう? 守備隊長が冗談言うとは思えませんし」
「そうだよな。
一度エドからサクラダで順調にやっているという手紙がうちに来てたんで安心していたんだが、何がどうなっているのやら」
「迎えがくればすぐにわかりますよ。それまでゆっくりしていましょう」
守備隊の当番兵が食事をテーブルの上に置いてくれたので、カールとヨゼフは食事を始めた。他の隊員たちにも順に食事が届けられ、各所から朗らかな笑い声が聞こえてきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
昼食を宿の食堂で終えた俺たちは、北の市街地にある守備隊本部に向かった。
本部前に到着したら、入り口前に立っていた衛兵に守備隊長室まで案内された。
「「失礼します」」
5人そろって部屋に入ると、机の席に座っていた守備隊の隊長が立ち上がって迎えてくれた。
「ご苦労さま。
まずは、これが今回の感謝状だ。これを持ってブルゲンオイストの領主城に行ってくれ。そうすればヨルマン公から報奨金が貰えるはずだ」
エリカの予想通りだった。
「はい」
「それと、この紙は傭兵ギルドへの契約書だ。事後契約になるが、これを持って領軍本部にいき、契約料を受け取ってくれたまえ。
もし何かの手違いで報奨金が支払われなかったら大ごとだからな。
きみたちの働きから考えればわずかだが、わたしの裁量ではそれが限度だ」
渡された紙を見たら契約金額:フリッツ金貨100枚と記されていた。
今の俺たちからすれば大金というほどではないが、守備隊長の心遣いがうれしい。
「ありがとうございます」
「領主城から5人全員に何がしかの沙汰があるだろうから、全員の名まえをフルネームでここに書いてくれるか?」
とりあえず、渡された紙に渡されたペンで俺から順に名まえを書いていった。ペラに名字はないのでペラとだけ記入したようだ。
「そうそう、契約料と一緒に支払い証明書(注1)を渡されるはずだから、その支払い証明書を傭兵ギルドに持っていくときみたちの傭兵団の実績となるはずだ」
「どうも」
「エドモンドくんたちにいい知らせがある。
少し待っていてくれ」
何だろうと思って立っていたら、部屋の外から聞いたことのあるような声がした。
『カール・ライネッケです』
「入ってくれ」
『失礼します』
扉が開いて鎧を着た父さんが現れた。ドーラは目を丸くして両手で口を押さえていた。
「エド、ドーラ!」
「「父さん!」」
「積もる話もあるだろうから、別室を用意している。
この部屋を出て左の部屋を使ってくれたまえ」
「「はい。ありがとうございます」」
守備隊長の部屋を出て、右隣の部屋に入ったらそこは会議室のようで長テーブルが置いてあり、その長テーブルの一番奥の短い辺に1脚と長い辺に椅子が5客ずつ合計11脚ほど椅子が置かれていた。
父さんに一番エラそうな席に着いてもらい俺とドーラが父さんから見て右側に並んで座り、左側にエリカ、ケイちゃん、ペラの順に座った。
「まず父さん、無事に帰還できてよかった」
「ほんと、心配したんだよー」
「二人とも済まなかったな。俺はこの通り無事だ。
ところでどうしてロジナ村にいるはずのドーラがここにいるんだ?」
「父さんに借りてたお金を返すためと、ドーラをサクラダに連れて行くって約束してたこともあって、俺、一度ロジナ村に帰ったんだ。
そしたら父さんは領都に呼ばれて行ったってことだったからお金は母さんに渡して、ドーラについては母さんと父さんの代理のアルミン兄さんの許しを貰ってサクラダに連れて行って、それで今現在ドーラがここにいるわけ」
「母さんとアルミンが許したんならそれでいい。ドーラのことは了解した。
それじゃあ、お嬢さんたちの紹介をしてくれないか?」
「うん。
俺たちはもともと、サクラダダンジョンのチームなんだけど、今回はそのまま傭兵団として傭兵ギルドに登録したんだ。
それで、最初が、副団長のエリカ・ハウゼン」
「エリカ・ハウゼンです。オストリンデンの商家の娘ですが、今はエド、エドモンドくんと一緒に活動しています」
「次がケイ・ウィステリア」
「ケイ・ウィステリアです。エルフと人との混血で、エドモンドくんにはよくしてもらっています」
「最後がペラ」
「ペラです。マスター・エドモンドのため粉骨砕身一層奮励努力します」
ペラが訳の分からないことを言ったが、誰も突っ込まなかった。
「エドとドーラの父親のカール・ライネッケです。皆さんエドとドーラを助けてくれてありがとう」
「紹介はこんなところ」
注1:支払い証明書
これは支払い側が契約先に料金を支払ったことを証明するための書類で一般的な支払い証明書とは異なります。
通常、傭兵ギルドから斡旋された仕事の場合、契約書があるためこういった物は必要ありませんが、何かの都合で契約書がない場合など先方から支払い証明書を発行してもらうことでその代りにしています。どちらの場合でも先方が「公」であれば評価は高くなります。傭兵ギルドの評価が上がると契約金の基準額が上がるようになっています。
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