第190話 傭兵団4、ゲルタへ


 例の軽食屋でスウィーツを食べながら、これからのことについて話し合った。まずは俺たちがこれから行こうと考えているゲルタについて俺はほとんど何も知らないので誰か知っていないかたずねてみた。


「適当なところでゲルタに移動するとして、ゲルタってどういったところか誰か知ってる?」

「わたし、一度行ったことがあるから」

「そうなんだ」

「うん、領都見物のついでに家族で一度行ったことがあるの。だいぶ前なんだけどね。

 それで、ゲルタは山と山に挟まれた谷のようなところに造られた街で、ヨーネフリッツ本土とヨルマン領を結ぶ街道が街の真ん中を通っているの。

 ヨーネフリッツとヨルマン領を行き来するには山越えは不可能じゃないけど大軍の移動は無理だと言われてるわ」

 だいぶ前ということは、エリカがまだ小さかった頃だったんだろうけど、良くそこまで観察して話も聞いていたな。そういった方面の才能があるんじゃないか?


「つまり敵がヨーネフリッツを攻め取るためにはゲルタを通らないといけない?」

「そうなんだけど、門を壊しただけじゃダメなの」

「?」

「ゲルタは城壁に囲まれてて門の先は壁に囲まれた通路になっているの。それでその壁の上から通路に向かって矢を射かけられるようになってるのよ。左右から射かけられるから通路上には死角はないわ。あと通路の上には何本か橋が架かっているから、守備隊も物の行き来も自由なの」

「ということは、門を破壊するより城壁を破壊する、ないしは城壁を乗り越えて街の中に侵入して守備隊を除く必要があるということ?」

「そう」

「左右の山によじ登って側面から街に侵入するのは?」

「城壁の左右には櫓がいくつも立ってて、山側から近寄ってくれば大軍でもない限り簡単に撃退できるのよ」


「今まで戦争していたわけじゃないから今現在のゲルタの兵隊はそこまで多くはないんでしょうけど、これからどんどん増員されるでしょうからかなり長時間敵の攻撃に耐えるんじゃないかな。ただ、ゲルタはヨーネフリッツ側というよりヨルマン側の方が城壁が厚いんだって。昔はヨルマン側からの蛮族とかの侵入を防ぐために造られた城塞だから当然でしょうけど」

 エリカの話を聞くかぎりゲルタは相当固い城塞のようだ。

 敵方は攻城兵器を運んでくるか梯子を用意するしかないわけか。

 どういった敵であれ、ペラとリンガレングがいる以上簡単に撃退できそうではあるが、ペラはともかくリンガレングがなー。あいつを動かしてしまうとオーバーキル過ぎてタダの虐殺に見えるものなー。


「ヨルマン領の食料は2割から3割他領から買い付けているんだけど、問題は、ゲルタの前を塞がれてしまうとそういった物がヨルマンに届かないわけ。

 さっきの話だと海路も海軍が壊滅したっていうし、ヨルマンの領軍海軍じゃ商船を守れそうもないし」

「つまり、あまり長いこと戦いが長引くと食料が不足するってことか」

「そういくこと。実際のところ、2、3割食料が不足したところで飢えることはまずないんだけど、少し不足しただけで食料の値段って信じられないくらい高くなっちゃうのよ」

 しかし、エリカってやっぱりこっちの才能があるよな。この才能も能力の一種だろうからレメンゲン効果で増強されてるとか。そこまではさすがにないか。

「エドって、わたし並みにそういった話が分かるのね。驚いた」

 逆に俺がエリカに驚かれてしまった。エリカ自身、こっち方面に自信を持っているようだ。

 これはひょっとして、もしかして。エリカは覇王エドモンドの軍師ポジションキャラだったのか?


 覇王への道の第1歩として、ゲルタで俺たちの名を轟かせてやろうじゃないか。

 敵がやってこなければどうしようもないが、敵がやってきたら派手に暴れてやるもよし。

 父さんにもしものことがあれば、覇王エドモンドの名に懸けて報復してやるからな。


 ケイちゃんとドーラは俺とエリカの話を黙って聞いていた。こういう時はペラに意見を聞くと面白い意見を出してくれる気がする。

「ペラ、なにかないか?」

「自分が敵中に踊り込んで敵の司令官を捕まえてくるのはどうでしょう?」

 確かにペラならその程度朝飯前のような気がする。ただ、戦争というある種神聖な行為に対する冒とくのような。それこそ盤面をひっくり返す行為のような。


「面白い意見だ。考慮しておく、ありがとう」

 いちおう、ほめておいた。

 ペラと一緒にリンガレングを使おうものなら、戦場がワヤになる予感がひしひしとする。

 傭兵団『5人』の前途は違った意味で洋々とはしていない気がする。


「それじゃあ、ゲルタにはいつ頃行く?」

「さっきも言ったように、もし敵が攻めてきてもゲルタはそう簡単に陥ちないから、急ぐ必要はないと思うわ。でも遅れっちゃったら目も当てられないから余裕を持って早めに移動しましょ」

「ここの宿を3日分取ったからそれまでいて、それからゲルタに向かおうか」

「それでいいんじゃない」

「ほかの3人は?」

「それでいいです」「うん」「はい」


「エリカ。ゲルタはここからどれくらい離れてるか知ってる?」

「朝馬車に乗ればその日のうちにゲルタに着くくらい」

「そうなんだ」

「そう。だからもし馬車が出なくてもわたしたちなら歩いても何とかなるじゃない?

 あとは、そうねー。

 向こうに行って、勝手に敵を撃退しちゃったらそれはそれで問題になるかもしれないから、向うの守備隊の隊長さんにひとこと言っておいた方がいいかも」

「たしかに。敵を迎え撃とうと必死に準備してたのが訳も分からないうちに敵がいなくなったら驚くものな」

「でしょ? それにわたしたちの名まえもちゃんと売らないといけないし」

 エリカの言っている俺たちの名まえってサクラダの星じゃなくって、傭兵団『5人』の名まえだよな。傭兵団『5人』の名まえを売るのか。売ってしまうのか!?


 将来、覇王エドモンドの伝記が刊行された時、傭兵団『5人』の名は必ず登場してしまう。いいのかそれで?


「エド、どうしたの? 考えこんじゃって。今日はいつものニヤニヤ笑いと違ってたからちょっと変よ」

「いや、何でもない」

 俺はいつもニヤニヤ笑いしていないと注意される立場なのか!?


 ケーキを食べ終えお茶も飲み終えたところで、お土産にナシのタルトを注文した。

 すぐに箱に入ってやってきたので礼を言って俺たちは席を立ち店を出た。


 お土産はクリームパンケーキイチゴ添えとアップルパイとナシのタルトの3つになった。

 ウーマの中で寛いで食べたいぞ。


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