第189話 傭兵団3、情報
傭兵ギルドの窓口で最新のヨーネフリッツの情報を聞かなくちゃいけないんだけど、傭兵ギルドには受付嬢なんか一人もいなくて、代わりに俺たちの目の前にいるのは、いかついギルド長。
とはいえ、俺はリーダー。勇気というほどではないがしっかりと務めを果たすべくおっさんにヨーネフリッツの情報を聞いてみた。
「詳しいことはもちろんわからないが、東方艦隊、北方艦隊ともに壊滅したとの話が伝わってきている。そして、ドネスコ、フリシア両軍がそれぞれ上陸し、王都を目指しているらしい」
「それって、大変なことじゃ」
「相当大変だ。お前さんも知ってるかもしれないが、昨日国王がここブルゲンオイストに逃げ込んできた。おそらく王都はすでに陥ちている」
父さん、大丈夫だろうか? 敵の手に落ちている王都にひょっこり現れたら良くてそのまま捕虜、悪くすれば全滅。相当マズいぞ。
ドーラの顔を見たら口にぎゅっと力を入れている。こっちもマズいぞ。
「これから大変なことが起こるはずだ。傭兵といっても命あったの物種だから、安易に仕事を引き受けない方がいいぞ。かくいう俺は仕事だからお前たちに仕事を斡旋するがな」
「分かりました。ありがとうございます」
もう少し話を聞きたかったが、ドーラが心配なので礼を言ってホールの脇の方に移動した。
「ドーラ。父さんのことを心配するなとは言わないが、ここで俺たちがどうこうできるわけじゃないし、悩んでも仕方がない。父さんだってそんなことは望んでいないはずだ」
「うん。分かってる」
「それならいい」
これでドーラが元気になったかどうかはわかないが、エリカがフォローしてくれた。
「ドーラちゃん、お父さんのことは心配だろうけど、元気だそ。もう少ししたらお店も開くでしょうからおいしい物でも食べに行こ?」
「はい」
「たしかあの店は8時に開店だったと思います」
「それじゃあ、このままあの店に行っちゃおうか」
「そうだな」「「はい」」
俺たちは傭兵ギルドから通りに出て昨日の軽食屋に向かった。
「きのうの馬車に王さまが乗っていたとは驚いたわね。だけど昨日ケイちゃんが言ってたことが本当に起こったなんて。ケイちゃんすごすぎじゃない?」
「深く考えたわけじゃないので、偶然ですから」
「実質ヨーネフリッツがお終いってことは確かだろうな」
「ヨーネフリッツが無くなって、このヨルマン領はこれから先どうなると思う?」
「普通なら、王さまがここにいるわけだから、こここそがヨーネフリッツだ。って、名乗るんじゃないか?」
「そうなると、領主さまを追い出すって事?」
「宰相とかに取り立てる? とか?」
「簡単に王都を捨てて逃げ出すような王さまの下にいるくらいなら、王さまを捕まえて自分が王さまになった方が早いんじゃない」
「そういうことも有り得るだろうな。上が誰になろうが、今一番大切なことはいずれドネスコだかフリシアがここに攻めてくるということだろ?」
「でしょうね。鉱山が沢山あっておまけにダンジョンまである土地を放っておくはずないもの」
「となると、俺たちは何をすればいい?
俺たちの場合、サクラダに帰ってダンジョンに潜ってしまえば安全だから、一つ目はこの事態を傍観する。
二つ目はここに攻めてくる敵を叩き潰す。
三つ目はここにとどまって成り行きを見守り、何か起こった後、一つ目か二つ目の判断を下す。
こんなところか」
「ねえ、エド。父さんが大変な時、すごく冷静なんだね」
「ドーラ。何が言いたい?」
「ううん。エドとわたし三つしか違わないのにすごく大人に見える」
人生経験がドーラと比べ50年近く長いわけだから当たり前だ。だけどドーラが俺のことを冷血だとか思っていないようで助かった。
「エドはわたしたちのリーダーだしね」
「そうですね」
「ありがと。それで、俺たちの方針なんだけど」
「わたしとしたら、家族のことを考えてもこのヨルマン領が安泰でないと困るから、もし敵が攻めてきたら戦うわ」
「そういう意味だと、俺も戦うしかないな」
「わたしも同じです」
ケイちゃんの場合は家族云々は方便の可能性があるけどな。そういえば、ハイエルフって長命種族のエルフの中でもさらに長命だという設定をどこかで読んだか聞いたかした覚えがある。
前世のそういった知識といやに合致しているこの世界のことだから、そういった設定も生きている可能性がないではない。そうすると、俺の後ろを歩いている自称18歳のケイさんは実は180歳くらいの可能性もある。いやもう一桁上がって1800歳の可能性すら否定できないのだが。が、が、が。
何かを感じた俺は、そっち方向の思考を慌てて停止した。危なかった。ような気がする。
「うっほん。それじゃあ、俺たちは攻めてくる敵を蹴散らすとして、具体的には何をしようか?」
「敵が攻めてくる可能性は、辺境伯さまだって分かってるでしょうから、おそらく領軍は領境にあるゲルタで敵を迎え撃つんじゃないかな」
「となると、そこを抜かれないようにすればいいってことだな」
「じゃない」
「俺たちは、ゲルタに行かなきゃいけないってことか」
「そうなるわね」
「それじゃあ、今日中に向かう?」
「そこまで急がなくてもいいんじゃない。街の感じを見ても募兵の看板が目立つぐらいであわただしいって感じはどこにもないし」
「そういえばそうだな。
まずは、軽い物でも食べながらゆっくり考えようか」
「そうね」
街の壁を抜けて例の店に入ると、開店して間もないというのに、かなり客がいた。それでも俺たち5人が一緒に座れる席はあり、4人席のテーブルを2人席のテーブルにくっつけてもらった。
メニューを見て俺は桃を添えた甘いケーキ、現代風に言えばおそらく桃のタルトを選んだ。そしたら全員俺と同じものを選んだ。お茶はエリカがみんなの分を適当に選んでくれた。もちろん代金はチームの財布からだ。
昨日のパンケーキはその場で作ったもののようで10分ほど待たされたが、今回は作り置きだったようで、すぐにお茶ともども運ばれてきた。
「これも、お・い・し・いー」
いち早く桃のタルトを口に入れたエリカが昨日のドーラのようなことを口にした。
これって、女子の間で流行ってるのか?
「おいしいです」「おいしいー」「おいしいです」
そうでもなかったようだ。
俺も一切れ口に入れてみたが、周りは固いビスケットで中の生地がしっとりしていて軟らかい。生地の上に乗っていた桃は砂糖漬けのようで甘酸っぱく、缶詰の桃のような感じがした。前世だと生の桃の方が缶詰の桃より高級そうだが、今の俺は、この缶詰感が懐かしい。
そして、確かに、お・い・し・いー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます