第184話 ブルゲンオイスト2。カール・ライネッケ11
領主城に父さんを訪ねたのだが、父さんは騎士から準男爵にレベルアップして現在兵隊を率いて王都に行っているという。それで俺とドーラはやむなく領都見物を始めた。
見物と言っても何を見物していいのかも分からなかったので、結局二人で喫茶店風の軽食屋に入ってパンケーキクリームイチゴ添えなるスウィーツを食べてしまった。
生前の日本でも十分通用する味だった。
お値段はそこそこだったが、既に金に糸目はつけない状態の俺からすればなんてことない値段だった。
あっという間に食べ終わったのだが、ドーラは物欲しそうにしている。ちょっと足りなかったか。
俺は店員を呼んで、お菓子の持ち帰りはできるのか? と、聞いたところ可能とのこと。
その代り入れ物代がそれなりにかかるということだった。この世界、前世と違って安価な紙の箱などないからそれは仕方ないことだし当たり前のことだ。
今食べたパンケーキ云々だと、持ち運びがそれなりに難しいので、メニューを見せてもらって中から焼きリンゴのパイ包みを5つ持ち帰りでお願いした。焼きリンゴのパイ包みはおそらくアップルパイだ。
先ほどの味から考えて、サクラダで買っていたアップルパイより格段においしいに違いない。
ワクワクしながら待っていたら、木箱を持って先ほどの女子店員が帰ってきた。
女子店員がフタを開けて中身を見せてくれた。そしたらいい匂いが漂い、確かに小ぶりの薄茶色のパイが5つ入っていた。
木箱のフタをして女子店員が帰っていったので、俺たちは木箱を大事に持って席を立ち店を出た。店を出たところで木箱はキューブに入れた。
夕食後、エリカたちに見せてやろう。きっと驚くぞー!
「ほかに何か面白いものはないかな?」
「エドはいつもその胴着だけど、他に買わなくていいの? それにもう秋も終わりそうなんだけど、寒くないの」
「そういえば、今年の夏は暑くなかったし、秋になっても少しも寒くならないなー」
「今はいうほど寒くはないけど、今年の夏は暑かったじゃない」
「ロジナ村じゃ暑かったのか。
今のところ暑くもなく寒くもないし、胴着は丈夫だし、何より着てて楽なんだよ。言っておくけどいつも同じ胴着じゃなくて、胴着は何枚も持ってるからたまには着替えてるぞ」
実際ホントにたまにはだけどな。
「エドは見た目を全然気にしないよね」
「これで十分じゃないか?」
「それが見た目を気にしないって事でしょ」
確かに。
「服の話をするってことは、ドーラは服が欲しくなったのか?」
「ううん。この前エリカさんたちと買ったからいらない」
「それくらいは買ってやるから、遠慮しなくてもいいんだぞ」
「欲しくなったらその時はね。でもその頃には自分で買えるようになっているはずだから」
「分かった」
俺たちは、どこにも行く当てもなかったので、結局宿に帰ることにした。
「領都に来たけど、さっきのお店以外見るところなかったね」
「探せばそれなりにあると思うけど、探すことが難しいものなー」
「父さんはむかし領都に住んでたんだよね?」
「うん。そうみたいだな」
「父さんが帰ってきたら、案内してもらおうよ」
「そうだな」
いつ帰ってくるのか、無事に帰ってこられるのかさえ分からない現状、ドーラは父さんが無事に帰ってくると自分に言ってるんだろう。
騎士爵から準男爵に手柄を立てたわけでもないのに
宿に帰って受付でカギを受け取って部屋の戻った。
カギがあったということは、エリカたちは観光名所でも見つけたのかまだ戻っていないということだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王都脱出組への敵の追撃騎兵隊を撃破したエドモンドの父親カールは、部隊を率いていったん北上し、北から東に回り込むようにヨルマン領を目指していた。現在位置はヨルマン領の領境の城塞都市ゲルタまで10日の位置だった。なお、ゲルタからその先の領都ブルゲンオイストまでは1日の距離である。
帰還途上、物価は上がっていると輜重隊の隊長から報告を受けてはいたが、敵騎兵から回収した金品で物資の調達は順調とも報告を受けていた。
敵騎兵の撃破時に味方の投石を受けて負傷した兵隊たちもほぼ完治している。部隊の士気は高い。
「隊長、一皮むけていい部隊になりましたね」
「そうだな」
「あの投石での完勝が利きましたね」
「各部隊が持て余した連中が集められたわけだが、もともと能力がないわけじゃなかったんだろうからやる気が出さえすればちゃんとした兵隊になるってことだ。
今回はうまくいったが、逃げ帰った敵の騎兵は当然上に報告するだろうから、今度は歩兵を連れてくるだろな」
「そうなると厄介ですね」
「とはいってもそのころ俺たちはヨルマン領だ。味方もいるし何とかなるだろう。俺たちだけで何とかしないといけないわけじゃないからな」
「第2、500人隊は王都のことを知らずに王都に向かっているかもしれませんね」
「第2、500人隊は俺たちの5日後の出発だったはずだから、知らずに王都に向かっていっただろう。とはいえ、王都からの非難民に途中で出くわすはずだから、引き返しているんじゃないか?
敵がヨルマン領に向かってくるとすれば街道を必ず通る。引き返してないと、第2、500人隊は街道で鉢合わせだ。そうなればへたすると全滅だしな。なんであれ、俺たちにできることは何もない」
「敵はヨルマン領に攻め寄せますかね?」
「王族がヨルマン領に逃げ込んだ以上、追ってくるだろう。それにヨルマン領はヨーネフリッツの中で一番裕福だ。是が非でも手に入れたいと思うんじゃないか」
「王族がヨルマン領に逃げ込んだ証拠はないんじゃないですか?」
「中途半端な場所に逃げ込めない以上、行き先はヨルマン領しかないと思うぞ」
「確かにそうですね。
わたし思うんですけど、隊長は部隊指揮官じゃなくって奥の方に引っ込んで500人隊を何個も従える将軍の隣りで作戦を立てる方が似合ってるんじゃないですか?」
「そんなことあるわけないだろ」
「そうかなー? ロジナ村の村長もそつなくこなしてたわけだし。
そう考えると、将軍の隣りも何も、将軍が似合っているような」
「ヨゼフ。おだてても何もでないぞ」
「いやだなー。おだてて言ってるんじゃないですよ」
「そうだな。俺が将軍になるのは、ヨルマン領軍がほとんど壊滅状態になったあとじゃないか?」
「そうかなー。
それはそうと隊長」
「なんだ?」
「わたしたちが無事帰還中であることを領都に知らせなくいていいですかね?」
「もちろん知らせた方がいいが、知らせる
「どこかから馬を調達して伝令を走らせるとか?」
「うちの部隊に馬が扱えるのはそんなにいないんじゃないか? 情けない話だがちゃんと伝令が務まる兵隊も心当たりがないぞ。俺が伝令に走ったんじゃそれこそおかしいし」
「確かに」
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