第182話 領都へ
[まえがき]
特に章分けしてはいませんが、前話でダンジョン編が終了し、ここから新章となります。
章名は、ヨルマン軍務編といった感じになります。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ミスル・シャフー像の部屋を出た俺たちはエリカの言葉に従ってリンガレングを先頭に通路の奥に向かって歩いて行ったところ、200メートルほどで行き止まりになった。
「おかしいなー。抜けられると思ったんだけど」と、エリカ。
「バトンを入れる穴がどこかにあるかもしれません」今度はケイちゃん。
ここを昔から知っているはずのケイちゃんがこう言った以上、バトンを入れる穴などないのだろうが、格好だけ俺も手伝って穴を探したが、もちろんそんなものは見つからなかった。
「おっかしいなー。
赤の階段もハズレだったし、こっちもハズレだったわね。こんなことなら、ベルハイムに行って新鮮な魚介類を仕入れに行けばよかった」
「ベルハイムにはそのうち行ってみよう」
「そうね。ここで愚痴を言ってても仕方ないから、出ましょうか」
そういえばさっきからおとなしいドーラはどうなんだ?
「ドーラ、何かあるか?」
「何もない。でもね、ダンジョンワーカーってこんなにいろんなことが立て続けに起こるような仕事なのかなーって」
「普通はこうじゃないはずだけど。俺たちが特別なんだろう。嫌か?」
「嫌じゃないけど、なんだかすごいなーって」
「そのうち慣れるから」
「そうかなー」
「渦に入っていくのだって慣れただろ?」
「それはね」
「そういうものなんだよ」
「ふーん」
俺たちは通路の行き止まりからUターンして巨木の森に外に出た。
そこから渦に向かって3時間ほど歩き、渦の近くの比較的開けた場所でウーマをキューブから出して乗り込んだ。時刻は午後5時半くらい。
女性陣、俺の順に風呂に入り、その後夕食になった。夕食は大量に作り置きがあるのでテーブルに並べるだけで済んだ。
「「いただきまーす」」
食事しながら。
「一応ここまで来ておそらく全部の渦を抜けたんだけど、これからどうする?」
「そうねー。これからベルハイムに行く気にもなれないし。サクラダに戻る?」
「野菜を補充したいから、戻ってもいいな」
「じゃあ、戻ろ。
ケイちゃんと、ドーラちゃんは何かある?」
「いいんじゃないですか」「わたしもそれでいい」
「いちおうペラにも聞いておくか。ペラは何かあるか?」
「サクラダに戻ったあと領都に行ってみてはどうでしょう? 何か面白いものがあるかもしれません」
「そういえば、俺の父さんも領都に行ってるって話だったし」
「じゃあ、領都に行きましょうよ」
「ウーマで街道を進むわけにはいかないから、領都に行くとなると乗合馬車だよな」
「サクラダから領都までなら3日くらいじゃないですか?」
「3日なら大したことはないな」
いちおう話はまとまった。
食事を終え、デザートも食べてお腹いっぱいになった。
手分けして後片付けをたらもう何もすることがなくなったので、リンガレングを見張りに残してみんな早々にベッドに入った。ペラはメンテナンスボックスの中だ。
何もすることがないと言えばその通りなのだが、さすがに今日の神さまとの邂逅のことを思い出し、すぐに寝付くことはできなかった。
なんであれ、俺がこの世界の王さまになるというところがブッ飛んでいる。
確かに、リンガレングが自分で言うような性能を持っているなら、相手がどんな軍隊だろうと無敵だ。だからと言って相手を簡単に皆殺しにしていいのか? と、言えばそんなことはないだろう。逆に、相手が攻めてきた場合、味方を守るためならためらう必要はない。とは言える。
いずれにせよ、なるようになったところを乗り切っていけば道は自ずと開ける。
などと考えているうちに眠ってしまったようだ。
翌朝。
ウーマから降りて、巨木の渦を抜けた俺たちは、その次の日の午後3時ごろにサクラダダンジョンギルドに帰り着いた。
その間、ケイちゃんと特別な話はしていない。成り行き任せなんだから特に打ち合わせするようなこともないのだろう。
13階層を移動中、またワイバーンを5匹ペラが仕留めている。その結果、キューブの中には都合30匹のワイバーンの死骸が眠っていることになる。
ギルドに到着したのが夕食には中途半端な時間だったので、俺たちはそのまま商店街に回って野菜類を買えるだけ買った。
「ちょっと野菜の値段が上がってたよな?」
「そうね」
「わたしは分かりませんでした」
「ロジナ村からすればものすごく高いって事しか分からなかった」
「そういえばそうだな。そもそもロジナ村だと、野菜をわざわざ買うことって滅多にないし。
時間があるから肉も買っておこう」
肉屋に回ってそれなりの量の肉を買ったのだが、やはり値段は上がっていた。主夫としては気がかりなところではある。
買い物を終えた俺たちは、いったん家に戻って防具を外して普段着に着替え、時間調整して反省会のためギルドに向かった。
雄鶏亭ではいつもの席が空いていた。今日は最初から5人分の椅子が置いてあった。
俺たちサクラダの星は俺だけ男で残りは女子4人。そのおかげで4人席を5人で囲んでもそれほど狭いわけではない。
テーブルに定食が届けられ、飲み物とつまみが揃ったところで、
「「かんぱーい!」」
大した回数乾杯しているわけではないが、今ではドーラは俺たちと同じエールのジョッキだ。
「それで領都へはいつ出発する? 準備に明日1日時間を取って明後日にする?」
「特に準備することはないんじゃない?」
「わたしもありません」
「ドーラは?」
「わたしも全然へいき」
「それじゃあ明日。
ディアナ行きの最初の馬車は8時だろうから、それに乗る?」
「空いていればいいですけどね」
「そうねー。わたしたち5人だし、きついカモね。
そう考えると、ウーマで行けたら楽なんだけどね」
「早めに駅舎に行けば何とかなるだろ」
「それもそうね」
レメンゲンの力も働くだろうし。そういえば、俺って神さまから加護をもらったんだけど、今のところ加護の効能は不明だ。おそらく悪魔であろうレメンゲンでさえあれだけの効能を発揮しているわけだから、モノホンの神さま直々の加護なわけだからきっとすごい効能があるはず。だよな?
翌朝。
旅支度というほど大げさではないが、とにかく支度を終えた俺たちは、家の戸締りをして朝食のためギルドに向かった。8時の馬車に乗る関係で雄鶏亭に入ったのはいつもより30分ほど遅い。
それでもいつものテーブルはちゃんと空いていた。
朝食を食べ終え、少し休んでから席を立った。時刻は7時。
ギルドを出て乗合馬車の駅舎に入り、そこでディアナまでの切符を買い、待合の椅子に座ってディアナ行きの馬車がやって来るのを待った。
30分ほどそうやって待合で馬車を待っていたら2頭立ての乗合馬車が待合の前に回ってきた。
俺たちが最初の客だったので奥の方から詰めて5人座った。乗合馬車はどれも8人乗りなので後3人しか乗れないのだが、結局俺たち5人で貸し切り状態のまま新しい客は現れず、8時の街の鐘がなり、御者のおじさんがカラン、カランと鐘を鳴らして馬車は出発した。
今回の旅程はディアナまでの途中で宿場町に1泊し、翌日の馬車でディアナに到着後、領都のブルゲンオイスト行きの乗合馬車に乗り換える。ブルゲンオイストまでの途中で同じように1泊し、翌日目的地のブルゲンオイストに到着することになる。
……。
領都ブルゲンオイストへの旅は予定通りで、サクラダを出発して3日目の昼に俺たちの乗った乗合馬車はブルゲンオイストの駅舎に到着した。
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