第181話 青き夜明けの神ミスル・シャフー


 リンガレングに開けてもらった扉の先の大広間の奥に、かがり火を挟んで青い巨像が立っていた。


「この像って、……」

「青き夜明けの神ミスル・シャフーじゃないか?」

「……」


「ただここに立っているだけの像なのか? 何か意味があるのか? とにかく近寄ってよく見てみよう」


 俺たちは、青い巨像に向かって歩いて行った。

 その時、突然、大きな声が大広間に響いた。いや、俺の頭の中に響いてきた。

『ケイ、よくやった』

 巨像の声だよな。その巨像がケイ?


 ケイちゃんを見たらその場で片膝をついてこうべを垂れてかしこまっていた。

 なに?

 ケイちゃんの近くに立つエリカとドーラを見たら、微動だにしていないし、リンガレングもペラも動いていない。さらに言えば巨像を挟んで燃えていたかがり火の炎が凍り付いたように止まっている。


『異界からこの世界に生まれかわりし黒髪の者よ。

 わが名はミスル・シャフー。夜明けを司る神だ』


 俺、これに対してどう受け答えればいいの?

 相手は神さま。どう見てもなんちゃって神さまではなく本物の神さまだ。そうなってくると真摯な受け答えをしないとマズい。


「はい。エドモンド・ライネッケ。異界での名はタロウ・ヤマダでした」

『うむ。

 われは、ケイを使い、われの願いをかなえさせるためなんじを招いた』


 ケイちゃんて、この神さまの使い走りだったって事? そうとしか取れないけど。


『われの望みは、この世界に夜明けをもたらすことだ』


「夜明けとは?」


『この世界を未開から文明へと引き上げたい』


 現代文明と比べれば劣っている面も多いかもしれないけれど、未開ってほどひどくはないと思うけれど。

「それでわたしは何をすれば?」


『この世を統べよ』


「えっ?」


『この世を統べて、世の中を目覚めさせ時代を進めるのだ。よいな』


 ははー。って、言わなければいけないの?

「はい。出来る限り頑張ります」

 こう答える以外にないよな。

 確かに俺が世界の王になれば、国民は全て俺の仲間のようなものだ。何かのスキルはレメンゲンの力で伸びていく。確かに時代を進めることができる。ような気がする。しかし、いくらレメンゲンだからと言って、全ての国民が恩恵を被るのか? と問えば少し疑問ではあるが、それを俺が言っても始まらない。


『汝の前に立ちはだかる者に立ち向かえるよう、汝にわが加護を与えよう』


 何かが背骨の中に入って来たような、そうでないような。


 とか考えていたら、ケイちゃんが立ち上がった。エリカたちは不動金縛り状態のままだ。

「エド。いままで隠していてごめんなさい」

「まあ、なんだ。人生いろいろだし、人それぞれの事情もあるわけだし」

「エド。ありがとう」

「それで、ケイちゃんは俺のこと知ってたの?」

「はい。わが主から聞かされていたわけではありませんが、だいたいのことは」

「そうだったんだ」

「これでわたしの役目は半分終わりました」

「半分?」

「はい。残った役目はエドをこの世界の王とすることです」

「神さまには頑張りますと言っちゃったけれど、そう簡単じゃないと思うよ」

「リンガレングがエドの手足である以上、武力は既にこの世界のいかなる国をも超えています」

「ケイちゃんはリンガレングのことを知ってたの?」

白金しろがねのクモがこの世の王の手足になると予言されていましたから、もしやと持っていましたが、今ではリンガレングこそ予言の『白金のクモ』であると確信しています」

 予言ってあるんだ。その中の『この世の王』が俺なのか。


「武力だけでは国は成り立たないんじゃないか?」

「はい。国を統治するための組織がなければ国は成り立ちません」

「だよな。だけど俺の仲間はケイちゃんの他、エリカとドーラしかいない。

 エリカだって、今の話を聞いて俺について来るかもわからない。だろ?」

「エリカは大丈夫。エドについていきます。エリカだけでなく、ドーラちゃんも、もちろんペラも」

「そうなの?」

「はい大丈夫です。

 あと、人材のあてはあります」

「どこに?」

「エルフの里に」

「どういうこと?」

「わたしは今まで自分のことを人とエルフの混血と言っていましたが、実はわたしはハーフエルフではなくエルフの上位種ハイエルフです。そしてエルフの里の女王であり、ミスル・シャフーの巫女でもあります」

「ほんと? いや、ほんとなんだろうけど、女王さまが自分の国ほっぽいて、俺のところにいて良かったの?」

「里のことは長老たちに任せていますから大丈夫です」

「それならいいけど。それで、そのエルフの人たちを俺が使えるって事?」

「はい。その通りです」


「それで、そのエルフの里というのはどこにあるの?」

「エルフの里は岩山に囲まれた一種の***盆地です。この部屋の前の通路を通り抜けた先がエルフの里です」

「なるほど」



 俺は転生する時、神さまに会わなかったし、チートももらえなかったし。それがここにきてこれだ。

 頭が混乱するぞ。


「それで、俺はこれから何をすればいいか分かる?」

「わたしでは分かりませんが、エドは今まで通り成り行きに任せていれば自ずと道が開けて行くはずです」

 確かにいままで成り行きに任せてきてここまできたし、これたんだけれど。

「そんなのでいいの?」

「いいんです。そろそろエリカたちの時間が動き始めますから、この話はこれくらいで」



 ケイちゃんのその言葉が終わると同時に巨像改めミスル・シャフーの像を挟んでいたかがり火の炎が揺れ始め、エリカが何事もなかったように話始めた。


「この像、青いところと顔がちょっとが変だけど、それ以外はタダの像なのかしら?」

 再起動したエリカが像についてのバチ当たりな感想を口にした。

 エリカの問いの答えを知っているけど、いずれエリカにさっきの話をするとしても今はまだ時期尚早のような気がするので黙っておいた。

 その代りおそらくここの用事は終わったはずなので、撤退しようと提案した。

「ここには何もないみたいだから、そろそろ帰らないか?」

「あらエド、今日は嫌にあっさりしてるのね」

「どう見てもここは神殿のようだし、めぼしいものと言ったらそこのかがり火だけだろ?

 持って帰れないことはないと思うけど、さすがにかがり火を持って帰っちゃマズそうだし」

「ここはもういいけど、通路の先に行ってみない?」

 通路の先、すなわちエルフの里に行っていいのだろうか? 女王さまが帰還したとなると飲めや歌えやの大どんちゃん騒ぎが起こるのではなかろうか?

 ここは行かない方がいいと思うのだが。


「それじゃあ、行ってみましょう」

 なぜかケイちゃんがエリカの話に乗ってしまった。何か理由があるのか? エルフの里を公開して自分のことをエリカやドーラに名乗る気になったのか?

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