第180話 青い神殿。カール・ライネッケ10、待ち伏せ


 青の階段の先の渦を抜けたらその先はいきなり巨木の森林だった。


 巨木の間を縫うように3時間ほど歩いて行ったところ、岩壁から突き出たような形で作られたトンネルの出入り口に屋根を付けたような青い建物を見つけたので、ここからはリンガレングを先頭にしてその建物の中に入っていくことにした。



 建物の出入り口には扉などなく、短い階段を上った先はいきなりまっすぐ奥に続く通路だ。通路の入り口近くは落ち葉などが舞い込んでいたが、床は手入れされているように見える。今現在人の気配は全くないが、誰かが手入れしていると考えて間違いない。

 警戒レベルを1ノッチ上げておく。


  通路の天井は高く、左右の壁には、レリーフ画が彫り込まれていた。レリーフは森での狩をしている場面から、狩った動物の解体、そして祭り。といったものが描かれていた。言ってしまえばどこかの洞窟の壁画をレリーフにしたようなものだ。ただ、俺の目から見てもかなりの値打ち物に見える。


「ここって何なのかしら?」

「ただの通路にしては立派だよな」

「……」


 100メートルほど通路を歩いて行ったところ、外からの明かりが入り口からのものしかないためだいぶ暗くなってた。もちろん俺たちは夜目が利くので、色の見分けが難しくなるだけで移動には差支えない。


「右の壁に扉がある」

 50メートルほど先の右の壁に扉あるのが見えてきた。


 扉の前まで歩いて行き扉を観察したところ、扉は両開きで高さが通路の天井まであった。扉は金属製に見えるので、かなり重そうだ。

 それでも何とか開けることくらいできるだろう。と、思ったが、両手を使って扉を開けた途端に何かが飛んで来てはマズいので、今まで通りキューブに収納してやろうと思ったところ。

「ここはダンジョンではありませんから扉を外してしまうと、マズいかもしれません」と、ケイちゃんに言われてしまった。

「となると。

 リンガレング、この扉を壊さないで*****開けられるか?」

『はい。可能です』


 リンガレングが前に立つわけだから問題ないとは思うが、俺は一応レメンゲン鞘から抜き、エリカ、ケイちゃん、ドーラには、壁際に寄ってもらった。


「リンガレング、開けてくれ」

 リンガレングが後足?で立ち上がり、体重をかけて前足?で扉を押したら、弓の弦の鳴る音もなく扉は向う側にゆっくり開いた。

 

 その扉の先には大広間が広がっていて、部屋の奥には、左右に大きなかがり火を挟んで青い巨像が立っていた。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 こちらはカール。


 午後に入って野営地の前を通り過ぎていく荷馬車や通行人も減ってきてたので、カールは路上での整列投石訓練をすることにしたのだが、横方向の展開が何もないので、敵に左右に展開されて回り込まれる恐れがあることに気づいた。


 そこで、最も王都側に位置する第2、第3、100人隊のうち半数だけ立たせ、残りの投石部隊と、襲撃部隊である第1、100人隊は地面に伏せさせることにした。

 馬防柵もない100人程度の歩兵相手なら簡単に蹴散らせると敵騎兵は思い、路上をまっすぐ突っ込んでくるはずだ。


 この態勢で何度か訓練を行ない、手ごたえをつかんだ。兵たちのキビキビした動きは訓練の最後まで続き、カールは大いに満足した。


 日も傾き、カールの部隊は夕食の準備を始め、炊事の煙が上がり始めていた。

 通常なら、防具は外しているのだが、準臨戦態勢のため、全員ヘルメットと手袋を外しただけでその他の防具は身に着けての炊事である。

 もちろん、王都方面へ見張りは継続しているが、今では路上を通行する者は誰もいなくなっていた。

 


「もうすぐ日が暮れますから、今日はもう敵は来ないんじゃないですか?」

「そう願いたいが、撤退途中で後方から迫ってこられたらいやだから、もう少しここで粘ってみた方がいいだろう」

「でも、輜重隊の食料も何日も持ちませんから、早めに補給しておかないと」

「そういえばそうだった。あと何日もちそうか、輜重隊に聞いてきてくれるか?」

「はい」


 ヨゼフが、野営地の中で輜重隊の荷馬車が集まっているところまで駆けていき、輜重隊の隊長と話をしてカールのもとに戻ってきた。


「あと5日は大丈夫だそうです。街道に出ず、田舎道を移動していけば途中買い出しも可能だろうとのことでした」

「そうだな。ちょっと待ってくれよ」

 そう言ってカールは出発前に渡された地図を開いて、帰還ルートを確かめた。


「いいルートがあった。少し大回りになるがいったん北上してヨルマン領を目指そう。これなら敵の追手もやってこないだろう。

 明日の朝、予定通りここから撤収だ」

「はい」

 

 そうこうしていたら、輜重隊から夕食が届けられたので、カールとヨゼフは礼を言って食事を始めた。


 食事をあらかた食べ終えて食器を返しに輜重隊までヨゼフをやろうとしたところで、見張りの伝令が「騎馬隊接近! 距離500」と言って駆けてきた。

 騎馬と言っても並足での移動だろうから、ヘルメットをかぶり手袋をはめて迎撃位置に着くのに十分時間がある。

「全隊、戦闘準備、急げ!」


「全隊、戦闘準備、急げー! 全隊、戦闘準備、急げー!」各所で復唱され、兵隊たちは食事の手を止めて、各自の持ち場に駆けて行った。

 訓練通り第2から第3、100人隊の半数は立ったまま両手に小石を持って騎馬の接近を待っち、その他の兵隊たちは道のわきで伏せて攻撃の号令がかかるのを待った。

 第1、100人隊だけは石の代わりに短槍を持ち二手に分かれて投石部隊の後ろで伏せている。


「ひるまず十分ひきつけて、石を投げるんだぞ」


 カールの位置からも近づいて来る騎馬がはっきり見えてきた。数は分からないが騎馬は2列で向かってきている。馬上の騎兵が馬上槍を構えその騎馬が速度を上げた。


 左右に展開されるとマズかったが、敵はこちらの目論見通り馬鹿正直に路上を突っ込んでくる。

 ざっと見、敵の騎兵は20騎、2列。予想通り、4、50騎だった。


 敵を十分引き付けたところで、各100人隊の隊長が「投げろ!」の号令をかけた。

 伏せていた兵隊たち立ち上がり投石に参加する。

 短槍を持った第1、100人隊の兵隊たちも立ち上がった。


 騎馬隊の先頭から10騎ほどが最初の投石で暴れる馬から落馬し、その後に続いた騎馬も大混乱した。最後尾だけはその場に停止できた、馬首をめぐらすことができた。


 停止した敵の騎馬をカールの兵隊たちが取り囲み、情け容赦なく石を投げつけた。なんとか最後尾の数騎だけは逃げ出せたものの、残りの騎兵は短槍に貫かれる前に馬ともども投石によって無残に打ちたおされ、最期に短槍で急所を突かれ止めを刺された。

 見たところ、味方の損害は、味方の石を顔で受けたと思しき数名が顔を腫らしている程度で、亡くなった者はもとより、回復不能なケガを負った者もいないようだ。



「攻撃止めー! 攻撃止めー!」


「いやー、大勝利だったが、むごいことになってしまったな」

「投石の威力は予想以上でしたね」

「そうだな。

 馬については、輜重隊に任せて解体してしまおう。数日は馬肉だな」

「武具などはどうします?」

「輜重隊に余裕があれば回収しよう。物々交換に使える」

「はい」

「敵兵の死体は俺が検分するから道端に並べさせて、それが終わったら兵隊たちは休ませてやれ」

「はい。

 全隊、戦闘態勢解除。

 敵兵の死体は道端に寄せろ。作業を終えたら各隊は野営地に戻り休息!」


「「全隊、戦闘態勢解除。敵兵の死体は道端に寄せろ。作業を終えたら各隊は野営地に戻り休息!」」


 死体を片付け終えた兵隊たちはばらばらと野営地に戻って行き、ヨゼフから指示された輜重隊から10人ほどの隊員が道にやってきて敵兵の武器、馬具などを回収た後、馬の解体を始めた。


 輜重隊員たちが馬を解体する横でカールとヨゼフは投石によって顔面や手足を砕かれたうえ、槍で止めを刺された敵騎兵の検分を始めた。

 懐をあらためたところ、どこの国の騎兵なのかを示すものは何もなかったが、騎兵隊の隊長らしき死体からかなりの量のフリッツ金貨の入った袋を見つけた。さらに一般騎兵の懐からも硬貨が見つかったので、ヨルマン領への帰路、部隊員たちへの嗜好品の購入、具体的には酒の購入にあてるよう近くで馬の解体を指示していた輜重隊の隊長に手渡した。



 翌朝、朝食後。


 道具がないため手間取ったものの、何とか道端に穴を掘り敵兵を埋めてやったあと、カールの部隊は撤収開始した。


 これまでの行軍は後方に伸びきっただらしないものだったが、ヨルマン方向への行軍は見違えるほど見事なものだった。


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