第179話 大森林の中?。カール・ライネッケ9、迎撃準備
渦の前に到着した俺たちはさっそく呪文を唱えた。
「「われを称え唱えよ。青き夜明けの神ミスル・シャフー」」
それで何かが変わったようではなかったが、試しに渦に向かって手を出したら、渦の中に手が消えた。
「抜けられるみたいだ。
それじゃあ、俺から順に渦を抜けよう。前回同様俺が迎えに来るまで渦を抜けないように」
「「了解」」
渦を抜けた先は、えーと、森の中? しかもそうとう薄暗い。
目の前には見渡す限りものすごく太い木の幹が並び、かなり上の方から葉が茂っていて、空はその葉に覆い隠されて全く見えない。
地面は落葉に覆われていてところどころの緑はシダのようだ。
俺の立っているところからまっすぐ上を見上げても枝葉が邪魔して木の高さがどれくらいあるのか分からなかったが、幹の太さからすれば数十メートルでは足りないような。下手すれば100メートルを超えるのではないか?
振り返って渦を見たら、渦は木の幹にくっ付いているように見えた。
とにかく危険はなさそうだったので、エリカたちを迎えるため渦をくぐった。
「エド、外はどうだった?」
「危険はないみたいだった。あとは自分の目で確かめてくれ。
先に出ておくから順に渦に入ってくれ」
「「了解」」
渦から少しずれて立っていたら、エリカが渦を抜けてきた。
「なにここ! すごい!」
こんな大木を見たことないよな。
次にケイちゃん。
「ここは? ……。
いいところですねー」
さすがはハーフエルフ。森や木に心が安らぐのだろう。よくは知らないけど。
次にドーラ。
「ひゃー!」
実にドーラらしい。
最後はペラで、感想はなかった。
「ここも人がいなかったなー。
いったいここはどこなんだろ?」
「こんなに大きな木があるってことは、大森林の中かもしれないわよ」
「確かに。大森林の奥ならこういった巨木があってもおかしくないものな。
前回の岩山じゃどこにも行けなかったから、今度はちゃんとこの辺りを調べてみないか?」
「そうね」
「そうしましょう」
「何か面白いものがあればいいわよね」
「そうだな。
それはそうと、森の中だから周囲の警戒を怠らないように。頭上も忘れず」
「「はい」」
「頭の上はすっかり忘れてたわ。さすがはリーダー」
エリカにほめられてしまった。ちょっとうれしいぞ。
「人もいないみたいだから、用心してリンガレングも連れ歩いた方がいいだろう」
出でよ、リンガレング!
収納キューブからリンガレングを外に出したところ、俺にしか聞こえないのだが『リンガレング、登場!』とか言って8本の足を屈伸させた。妙にノリがいいな。
木漏れ日すら地上には届いていないので、方向はよく分からない。それでも自動地図があるから迷子にはならず、渦にも戻って来られる。
周囲が開けているので今回のフォーメーションは若干変化させてみた。
「俺が先頭を歩いて次がリンガレング。その後ろをエリカ、ドーラ、ケイちゃん。
ドーラの後ろをペラ。で行こう」
「「了解」」
「エド、あっちの方に行ってみませんか?」と、珍しくケイちゃんが移動方向を提案した。
「そっちに何かありそう?」
「いえ、そういうわけではないんですが何となく」
「どっちに向いて歩いても同じだからそっちに行こうか」
リュックに入れていた自動地図を取り出して広げ、ケイちゃんの示した方向に歩き始めた。
そうやって歩くこと2時間。巨木の森は途切れることなく続いていた。
この2時間何もなかったが、期せずして森林浴をしたせいか、今まで以上に体調がいいような気がしないでもない。
スー、ハー。スー、ハー。
おっと、あからさまなことをしてたらエリカにまた何か言われるからな。
「そろそろ昼にしよう」
昼食は落ち葉の上に座ってサンドイッチとスープで済ませ、少し休憩した。
「何もななったなー」
「動物もいないわよね。鳥の鳴き声も聞こえないし」
「わたしの言った方向が悪かったみたいで済みません」
「ケイちゃん。そんなのケイちゃんのせいじゃないから。気にしないでくれよ」
「エド、ありがとう」
チームとして行動した結果は、基本的にリーダーの責任なんだよ。わざわざ口にはしないけど。
「大森林の中だとしても相当奥だよな」
「でしょうね」
「午後からはどうする?」
「ここから引き返したとしても13階層には夕方までに戻れないからそのつもりでここを探検しない?
場所を選べばウーマも出せそうだし」
「それもそうだな。なら本格的に探検してみようか」
「うん」
昼休憩を終えて、外していた装備を付け直し午後からの探検を開始した。
当てはないので、移動方向はこれまでと同じ。
午後から歩き始めて約1時間。巨木の森は今まで通りで途切れる気配はない。
渦を出て3時間歩いたということは最低でも15キロは進んでいる。本格的に探検しようと思ってはいたのだが、こうも単調で代り映えがしないと飽きて来る。それでもリーダーがそんなことは言えないので、黙々歩いていたら、巨木の先に青い建物のようなものが垣間見えた。
「何かあるぞ」
「ホントだ。建物じゃない?」
そこから少し速足で巨木の森を抜け出たら、岩壁から突き出るような形で青い建物が建っていた。
建物の入り口に扉などなく、入り口の先は通路で、奥の方まで続いている。通路の奥の方は暗くてはっきり見えない。建物と言えば建物だがトンネルの入り口に屋根を付けたような感じの建物だ。
「この先に何があると思う?」
「山の中に入っていく通路だから、単純に向こうに抜けられるとか」
「青い色というのが引っかかるな。ここって青の階段の先の渦からやってきた場所だし、階段の石と似たような色だし」
「もしそうだとすると、あの呪文の『青き夜明けの神ミスル・シャフー』がなにか関係してるって事かな?」
「そこは分からないけど。関係あろうがなかろうが、俺たちには関係ないけどな」
「入ってみればすぐに分かりますから、入ってみましょう」
「そうだな」
「お宝があるかかなー?」
「お宝があっても、神さまに関係あるかもしれないから、むやみに持ちだしたら悪いことが起こるかもしれないぞ」
「そういえばそうだったわね」
「神聖そうに見えるものはなんであれ持ち出すのは控えよう」
「うん」「そうですね」「うん」
俺たちは正面に見える建物の手前の数段の石段を上ってその先の通路の中に入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カールは部隊の兵隊たち全員に投石用としてこぶし大の小石を集めさせた。野営地は草地だったがもちろん耕作地ではないので容易に小石が見つかった。
集めた小石を道の脇に並べて置いていく。
兵隊たちが訳の分からないことをしているのを横目で見ながら王都から逃げ出した連中が側道を通り過ぎていく。
昼までに大量の小石を道端に確保したので小石拾いは終了し、部隊は昼休憩に入った。
投石の予行演習を道で行ないたかったが、王都から流れてくる連中が途切れそうもないため、野営地の草むらで投石訓練を行なった。
投石訓練はあまり効果があったとは思えなかったので、次は道の両側に展開する訓練を行なった。
最初のころはもたついていたが、何回か繰り返していたら、まとまってきた。
展開訓練を見ながら、今までの行軍の時とはちがい、兵隊たちの動きがきびきびしてきたようにカールは感じていた。
「なかなかいい動きじゃないか?」
「そうですね。やる気が出たんでしょうか?」
「そうだろうな。続けてくれ」
「はい。
今まで道の両脇に並んでいた兵隊たちが野営地の草むらに駆け足で戻り、そこで整列した。
「
整列していた兵隊たちがバラバラになって自分の持ち場に駆けていきそこで直立不動の体勢を取った。
「いいじゃないか。思った以上だ」
「不思議ですね」
それから何度か動きを繰り返していたら、王都に放っていた物見たちが戻ってきた。
彼らによると、国軍は戦闘することなく敵方に降伏し王都では戦闘はなかったそうだ。
そして、その敵軍だが、王都周辺で野営しており、王都内への一般兵の立ち入りは禁止しているという。
「なかなか規律の取れた軍隊で王都民も救われたな」
「今のところはですね。
そういえば、われらの派遣隊総指揮官閣下はどうなっているのでしょう?」
「午前中通り過ぎて行った馬車の中にいたのなら顔ぐらい出したはずだし、王都に残っているのかもな。いずれにせよ、これで俺たちは大手を振ってヨルマン領に戻れるぞ」
「敵の追手については?」
「今日一日待って、明日の朝ここを引き払おう。
迎撃が間に合うよう、見張りは少し先の方に配置して、中継員を途中に置くか。それなら余裕を持って配置に着けるだろう」
「了解しました。各隊長に知らせてきます」
「頼んだ」
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