第178話 青の階段へ2。カール・ライネッケ8


 青の階段に到着するまでに料理を作っていったのだが途中で野菜系統が底をついてしまった関係で、肉を焼いていった。

 赤の階段前から青に階段前に到着するのは移動を始めて3日目の午前4時ごろの予定だ。2日目の午後8時過ぎにベッドに入った俺が目覚めたのはちょうど午前4時あたりで、朝の支度をしていたらウーマが停止した。

 支度を終えてリンガレングの隣りに立って前方スリットから外を見たら、青い階段が正面に見えた。


 そうこうしていたらみんなが起き出してきたので、ペラに手伝ってもらって朝食をテーブルに並べていった。


「「いただきまーす」」


「今日もおいしいー! サクラダに出てきてよかったー!」

 俺の料理の腕も上がってきてはいると思っているが、ほとんどはウーマの中にあった食材と調味料のおかげなんだけどな。それでもおいしいと言ってもらえれば、張り合いは出るよな。

 俺もうちにいたころ、素直においしー! とか言った記憶がほとんどないので、今度ロジナ村のうちに帰ったらちゃんとおいしー! って言わないとな。


 ……。


 朝食を終え、後片付けも終えた俺たちは装備を整えてウーマから降り、青の階段を上っていった。(3日目5:00)


 5時間少々の移動で、俺たちは何事もなく渦の前に到着した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 カールが王都に向けて物見を出した翌日。エドモンドたちが青の階段を上って行き渦に到着したころ。


 カールの部隊は移動することなく側道から少し外れた野営地で停止したまま、王都に向け送り出した物見の帰還を待っていた。旗指物は適当に地面に突き立てているものの無風なこともあり、領軍旗の紋章は隠れてしまっている。


 カールは手持無沙汰だったこともあり、副官のヨゼフを連れて側道の脇から王都方面を眺めていたら、こちらに向かって流れてくる荷馬車や人の先に、騎馬を先頭とした馬車列が見えた。

 なんだか悪い予感がしたが今さら逃げ出すわけにもいかず、その場で彼らが近づいてくるのを待った。


 それほど待つことなく、馬車列から離れて騎馬が1騎カールの前にやってきた。

 そして馬上から。

「お前たちはどこの部隊の者だ?」

「われわれはヨルマン領軍、王都派遣隊、第1、500人隊です。それであなた方は?」

「われらは、禁軍騎兵隊でやんごとなき方々を護衛している。

 お前たちの指揮官を連れてこい」

「指揮官はわたしです。王都派遣隊、第1、500人隊隊長、準男爵カール・ライネッケです」

「貴官が隊長なら話が早い。われわれの指揮下に入りやんごとなき方々を護衛せよ」

「われわれは王都に移動し、そこで国軍の指揮下に入るよう命令されていまして、このような場所で、はっきり言ってどこの誰かも分からない人たちの指揮下には入れんのです。あなたも軍人ならそれくらいのことお分かりでしょう?」

「つべこべ言っていると大変なことになるぞ!」

「そう言われましても。わたしの500人隊、今は400人ですが、やり合いたいとおっしゃるわけですか?」

「えーい、待っておれ!」

 そう言って男は馬を返して去っていった。


「隊長。あの馬車列はどう見ても王都から逃げてきた王族とか貴族ですよ」

「だろうな」

「あんな連中にこき使われたくはありませんが何かいい方便はないですかね?」

「そうだなー。まっ、とりあえず部隊を整列させておいてくれ」

「了解。

 全体整列ぜんたーい、せいれーつ!」

 野営地の各所でヨゼフの声が復唱され、いつものごとく部隊は100人隊ごとにだらだらと整列した。


 そうこうしていたら、今度は騎馬が5騎やってきて、5騎とも下馬して隊長然として立っているカールのところまでやってきた。

 その中で一番華美な軍装の初老の男がカールに向かい、

「貴殿がこの部隊の隊長だな?」

「はい。ヨルマン領軍、王都派遣隊、第1、500人隊隊長、準男爵カール・ライネッケです」

「わたしは、禁軍騎兵隊隊長、男爵ミュンヒ・ホウゼンだ。

 貴殿の言葉はもっともなのだが、どうかわれわれの傘下に入りやんごとなき方々をお守りしてくれぬか?」

「だいたいのことは察しますが、われわれはタダの陸兵です。われわれがお供した場合移動速度はかなり落ちるでしょう。そうすれば、王都側から放たれた敵の追手に捕捉される可能性が高まるのではありませんか? それくらいなら、われわれがここに陣を構え、追手を迎え打つ方がよいではありませんか?」

「ほう。なるほど。貴殿の言はもっともではあるな。

 それでは貴殿らの健闘を祈る。それでは」

「みなさんの無事をお祈りします」


 騎馬にまたがり5人の騎士たちは去っていった。


「隊長さすがです。

 それで、どうします? ホントにここで敵を迎え打ちますか?」

「そうだな。もし敵が追手を出したとすれば、おそらくは騎馬だろう。数は多くても50騎じゃないか?」

「でしょうね」

「50騎程度簡単とは言わないが、何とかなるんじゃないか?」

「どうでしょう」

「俺たちの部隊の兵隊たちは各部隊のアブレものではあるが、できない。ってわけじゃないからな」

「そうですね。

 それじゃあ、いっちょ頑張りますか?」

「格好だけでもな。敵に追撃を諦めさせられれば俺たちの撤退にも役立つだろ?」

「確かにそうですね」

「詳しい説明をするから、隊長たちを集めてくれ」

「はい。

 各100人隊隊長、集合!」


 隊長たちが集まってきたところで、騎兵に先導された馬車列がカールたちの前を過ぎ去っていった。馬車の扉にはそれっぽい紋章が描かれていたが、先頭馬車の扉に描かれていた王家の紋章以外カールは判別できなかった。


 カールが先ほどの騎士との話を集まった隊長たちにかいつまんで説明した。

「それじゃあ陣地を作るんですか?」

「資材もないし、斧もない以上何もできないだろう」

「そうですね。それじゃあどうします?」

「道の横に並んで石を投げる」

「えっ? そんなのでいいんですか?」

「相手はおそらく騎兵だ。馬を狙って道の両側から石を投げつける。そうすれば馬は暴れて乗り手は落馬する。そうしたらこっちのものだろ?」

「確かに」

「そういうことだから、適当な石を集めて道端に並べておくんだ」

「両側から投げつけたら外れた石が味方にあたりませんか?」

「そうならないよう、向かってくるところを斜めに投げればいいだろう」

「確かに」

「それでだ。部隊の配置だが、第2から第5までの100人隊を2隊ずつ左右に並べて投石班とする。残った第1、100人隊は50人ずつ投石隊の後ろに控えて、落馬した敵兵を討ち取る。いいな?」

「「はい」」


「練習できる時間は十分あるから、何とかなるだろう。それじゃあ、石集め始め!」

「「はい!」」


 少なくとも5人の100人隊長たちは自分の命令を素直に聞くのでカール自身はいい部隊だと感じ始めていた。




[あとがき]

今回は映画『バロン』から名まえを借りてきました。ハウゼンは使っていたのでちょっと変形しました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る