第177話 青の階段へ。王都。カール・ライネッケ7
久しぶりにダンジョンの坑道で野営した。
目ざめたら午前4時。朝の支度をしながら、ペラから夜間何もなかったとの報告を受けた。
「ペラ、ありがとう」
「はい」
すぐにエリカたちも起き出し、ドーラも目覚め朝の支度を始めたので、俺は桶に水を溜めてタオルを浸け良く絞ってから各人に渡した。
「「エド、ありがとう」」
われながらよく気が付く。俺以外女子のチームだから俺が気を使わないとな。それに俺はリーダーだし。
各人が顔を拭いたタオルを受け取ってキューブにしまい、俺は朝食の準備に取り掛かった。
準備と言ってもテーブルだけは昨日キューブにしまわず出したままだったので、俺はそこでソーセージを炒め始め、ペラにはキャベツの千切りを作ってもらった。
そういうことで朝のメニューは、スープと、平皿にソーセージ何本か載せ、キャベツの千切りを添えたものを出した。キャベツの千切り用にマヨネーズを平皿の上にのっけている。
「「いただきます」」
スープにパンを浸けて食べながらドーラに洞窟での毛布の寝心地を聞いてみた。
「ドーラは初めての本格的なダンジョン内での野営だったけどよく眠れたか?」
「うん。よく眠れた」
「そいつはよかった。慣れないとなかなか寝付けないものだが、ドーラは根っからのダンジョンワーカーかもな」
「そうかなー。エヘヘヘ」
俺もすぐに眠れたし、エリカもケイちゃんも最初の野営の時からあっというまに眠ってたけどな。
隊員の心の管理のためリップサービスは大切だ。
「それで13階層に下りたら、どうする?」
「ここまできたから、青の階段を上ってみましょうよ」
「ケイちゃんはそれでいい?」
「はい」
「ねえ、青の階段って?」
「13階層ってものすごく広い丸い階層なんだ。それでここは300階段が赤いから赤の階段って勝手に呼んでるんだけど、この赤の階段の反対側に青い階段があるんだ。
その先にも通れなかった渦があるんだけど、呪文を唱えれば通れそうだということが今回分かったから通れるか確かめに行こうという話だ」
「よく分かった」
朝食を食べ終え、後片付けをしたところで時刻は5時だった。
ここは3階層なので、13階層まで休憩を含めて5時間弱かかる。10時前には13階層に到着できる。
途中1度の休憩を挟み、予定通り10時前に13階層に到着した。
キューブから出したウーマに乗り込み、俺は先にウーマに移動先の指示を出してから装備を解いた。
山並みを旋回しながらの13階層の横断距離は約2000キロ。66時間=2日と18時間。
青の階段下への到着時刻は3日後の午前4時ごろになる。
俺はその間ドンドン料理を作り置きしておくつもりだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そのころ王都では。
南から数万のドネスコ軍が。西からも数万のフリシア軍が王都に向けて進軍中であるとの報が相次いで王宮にもたらされた。
王都防衛の戦力は禁軍5000と王都周辺の国軍を駆り集めてせいぜい1万2000。
現在ズーリから王都に帰還中の部隊は今どこを移動中かも不明。
防衛線を築くため南と西に移動中の各部隊の現在位置も不明。
王宮のある王城は城壁で囲まれてはいるが、王都は外壁で囲まれているわけではないため防衛側が断然有利というわけではない。
数万の兵に囲まれてしまえば、王城がいかに堅牢であろうといずれは陥落する。つまり完全に詰んだ状態である。
となれば、早急に国王以下の王族と王都在住の有力貴族の脱出を図る必要がある。脱出先はドネスコ、フリシアから最も距離のあるヨルマン領しかない。そのため王宮からヨルマン領に向け受け入れ準備をするよう早馬の使者が出立した。
そして王城では王都からの脱出準備が進められた。
ドネスコ軍とフリシア軍が王都に接近中であることと、国王を含む王族と一部貴族の王都脱出計画は都民には伏せられていたが、すぐに情報は漏れ出て王都防衛の任に着く部隊の士気は最低限にまで低下し脱走者が続出した。
王都に向かう途上にあるカールは、少なくとも禁軍をはじめとした王都近郊の国軍は王都を守るため侵入軍と交戦する。と、考えていたが、ここにきて防衛部隊は抗戦することなく降伏する可能性が高まっていた。
もちろん軍からの脱走者にとどまらず、そういった情報をいち早くつかんだ一部商人たちも王都脱出を開始した。
脱出準備に丸2日かかってしまったが、こういったなか王族と一部貴族たちを乗せた馬車は警護の騎兵20騎ほどに守られて王都を脱出しヨルマン領に向かった。もちろん街道を進むドネスコ軍と遭遇しないよう、街道を使わず側道を使うことになる。
側道は王都を脱出する馬車や、荷物を背負った者たちのせいで混雑していたため、先導する騎馬が道を開けるよう大声で彼らをしかりつけるが、一時しのぎに過ぎず、王族たちの移動は思った以上にはかどっていない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カールの率いる500人隊は側道に入り王都に向けて移動を続け、既に3日経っていた。実数を400人ほどに減らしてはいたが、それ以降脱走者を出ていない。
現在の部隊の位置は王都近郊まであと1日半ほどだった。
午後に入り急に側道に荷物を山積みにした荷馬車や大きな荷物を背負った男女が王都方向から流れてくるのが目立ち始めてきた。
「王都からの避難民だな」
「そうみたいですね。話を聞いてみますか?」
「そうだな。王都の状況を聞いてみてくれ」
副官のヨゼフが王都側から歩いてこちらに向かってくる男を捉まえて少し話を聞き、すぐに
カールのもとに戻って先ほど聞いた話を報告した。
「何でも、南東からドネスコ軍。西からフリシア軍が王都に迫っていて、国軍の兵隊たちからも脱走者が続出してるとか。王族や貴族たちも逃げ出す準備を進めているとうわさになっているそうです」
「フリシアまで王都に迫ってきているとすると、王都はもたないだろうな」
「ドネスコとフリシアが示し合わせて攻めてきたってことですよね」
「そうなんだろうな。
いったん停止して、100人隊長たちを集めてくれ」
「はい。
いつものようにヨゼフの声が後方に伝わっていき、部隊はゆっくりと停止した。そのあとヨゼフが、第1、100人隊の隊長にカールの命令を伝え、伝令が後方に走って行き100人隊長たちがカールの下に集合した。
カールは集合した隊長たちに先ほど得た情報を伝えた。
「王都に迫っているのはドネスコ軍だけでなく西からフリシア軍も迫っているようだ。
それで王族や貴族が王都から逃げ出す準備をしているらしい。それに加えて王都を守る国軍からも脱走者がだいぶ出ているらしい」
「それじゃあ、王都は絶対もちませんよね」
「そうだろうなー」
「このまま王都に向けて移動するのは無意味ではありませんか?」
「無意味というか、そうとう危険だろう」
「隊長、引き返した方がいいんじゃないですか?」
「それはそうなんだが、俺たちが受けた命令は王都に移動して国軍の指揮下に入れで、勝手にここから引き返すわけにはいかんのだ。せめて国軍との合流が不可能だったと言えないと。俺たちだけで口裏合わせることもできないしな」
「つまりは、王都の国軍が負けていることを確かめれば良いということではありませんか?」
「そうだな」
「われわれはこの辺りで停止して、物見を出して様子を見させ、国軍が破れたのを確かめたらすぐにヨルマン領に引き返したらどうでしょう?」
「そうだな。足が速くて目端の利く兵隊を物見に出したいが、あてはあるか?」
「はい。何人か」
「物見が逃げ出してしまうとマズいが、その辺は丈夫なのか?」
「おそらく。王都が落ちれば部隊はヨルマンに戻ると物見に話しておけば逃げ出さないでしょう。一人で逃げ出すよりここにいる方がずっといいですから」
「わかった。物見は任せた」
「はい」
「それじゃあ、俺たちはもう少し野営に向いた場所を探して野営準備だ」
「「はい」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます