第162話 湖面遊覧。帰省2


 ウーマに乗って湖面を遊覧。遊覧と言ってもスリットからしか外の様子が見えないので、景色はそれほど楽しめない。

 階段を上ってハッチを開けて外に出ればステージから周囲360度見渡せるのだが、そこまでする必要もない。なのでお茶会を終えた俺たちはソファーに移動してゆっくりしていた。そしたら、いきなりペラが立ち上がって階段を上ってハッチを開き外に出て行ってしまった。

 ペラは手ぶらなので、俺もついて行き、ペラが立つステージの脇に四角手裏剣を4つ置いておいた。

 もし大物が水面近くに現れたらペラが仕留めてくれるだろう。というかペラは何かを感じたのかもしれない。

 いったん俺は階段を下りてウーマの前方スリット前に行きそこから前方の水面を眺めていたら、エリカたちもやってきた。


「何かいるの?」

「わかないけれど、ペラが何かを感じたみたいだから、水面を見てるんだ」


 しばらく3人で何か起こらないか水面を見ていたら、50メートルほど先で水面が黒く盛り上がった。

 その盛り上がりが収まる前に何かの高音がした。これはペラが四角手裏剣を投げた音だ。

 それと時間差なく水面の盛り上がりが膨らみ小爆発が起きた。

 その後水面の盛り上がりは消えたのだが水面に赤い何かが広がり始めた。

 何かを仕留めたわけではないのだろうが、深手を負わせたようだ。


 その何かは、そのまま湖底に沈んで隠れてしまうかもしれないがおそらくまた水面に浮かんでくる。



 そう思って水面を見ていたら、水面が揺れそして黒く盛り上がり、ペラが四角手裏剣を投げた音がした。と、同時に水の盛り上がりで小爆発が起き、今度は見る見るうちにその辺りが赤くなり、そして黒くて巨大な何かが浮かびあがってきた。その何かの一部は薄ピンク色でそこから大量の血が流れ出て湖を赤く染めている。


「ウーマ、前方に何か浮いているから近寄って手前で停止してくれ」


 ステージに上がっていたペラが戻ってきたので、ほめておいた。

「ペラ、見事だったぞ」

「ありがとうございます」


 ウーマの鼻先に背を上にして浮いているのは、おそらくナマズだ。

 長さにして10メートルくらいある。ペラの四角手裏剣の命中個所は2カ所とも背中なのでどう見ても急所ではないが、のたうち回るわけでもなく静かに浮き上がってきたところを見ると、ペラの投げた2発目の四角手裏剣の衝撃でショック死したのではないだろうか?


「エド、これどうするの?」

「おいしそうには見えないけど、ここに放っておくわけにもいかないし、回収だけはしておくよ」

「それは仕方ないけど。ギルドじゃ買い取ってくれそうもないしね」

「だろうなー。だからと言って自分で解体できるとも思えないし。

 どこかで大不作になって食べ物が無くなったら供出するくらいが関の山なんだろうな。むやみにペラをけしかけたのがまずかったか」

「だけど、こんなのがいたんじゃ怖くてこの湖を利用できないでしょうから良かったんじゃないですか」

「これから、ここも少しずつ開発されるかもな。

 とはいえ、ヨルマン領には開発する土地は山ほどあるから、いつになるかは分からないか」

「景気はいいんだから人さえいればどんどん開発されるじゃない?」

「どこも人手不足ですしねー」

「だよなー」


 などととりとめもない話をしながらも巨大ナマズをキューブに収納した。ナマズって泥抜きしないと臭いし、うちでもナマズを捕まえたら泥抜きしてたけど、これほどのナマズを入れる入れ物なんてない以上泥抜きもできないし、そもそももう死んでるから泥抜きなんてできないし。俺が死ぬまで死蔵しそうだ。


 そういえば、この世界。どこの家庭でも子どもは3人以上が当たり前だし、寿命もそんなに長くないので少子高齢化はあり得ない。国民年金制度も破綻せずにやっていけると思うが、それには少なくともコンピューターが必要だよな。夢のまた夢だ。

 少なくとも俺は既に年金制度に頼らなくても死ぬまで困らないお金を手にしてる訳だし、どうでもいいって言えばそれまでだし。病気用のポーションもケガ用のポーションも数えきれないほど持っているから、年に1回、病気用のポーションを飲んでおけば医療費負担はまずゼロだし。


 いったんソファーに座り寛いでいたら、スリット越しに前方を警戒していたペラが向う岸が近づいてきたと教えてくれた。自動地図を開いてどれくらいの距離があるのか見たところ、岸から対岸まで10キロほどだった。結構広い。1時間くらいかかっているので時速10キロでウーマは泳げるようだ。船の速さは分からないが、この世界の船は風力か人力なんだろうから、結構速い部類かもしれない。全速力では及ばないかもしれないが24時間進み続けられるのは強みだろう。その気になればハグレアのベルハイム島まで海経由で移動できる。1000キロ丸4日。何千キロあるのか分からないが3000キロで12日間。移動は適当に方向だけウーマに指示すれだけであとは任せておけば済むので大したことない。


 最初にワイバーンを撃ち落とした時のことを思い出したので、ウーマの前半分の天井を開けてもらった。

 景色もいいし、そよ風も入ってきて実に気持ちがいい。波が高いところだとこんなことはできないけれど、波がおだやかな湖限定だ。


 ……。


 そんなこんなで3時近くまで湖を遊覧し、帰りは帰宅前に直接ギルドの雄鶏亭で食事した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ワイバーンを卸しては翌日その代金を受け取る日課の5日目の朝。朝食を食べ終えて買い取りカウンターに回って前日のワイバーン2匹の代金を受け取った。この5日間でワイバーン10匹分の代金金貨1000枚で、一人金貨330枚。チームの財布に10枚とした。



 ドーラ用の家での寝具などの用意も終わっているのでドーラの受け入れ態勢は万全のハズ。


 帰省するにあたって俺とエリカはそれぞれお土産用のポーションを黄、赤それぞれ10本、詰め物をした小箱に入れそれをリュックに入れている。キューブを預かっている俺自身はなにもそこまでしなくてもよかったのだが、お土産でもあるので小箱を用意した。ちなみに小箱は雑貨屋で売っていた。


 さらに俺は、妹のドーラがサクラダに行けなくなったとしても、おいしいお菓子をうちで食べられるよう、お土産としてパン屋で、クッキー、バウムクーヘン、アップルパイなどを買い込んでいる。それも箱に詰めリュックに入れている。もちろんリュックはキューブの中だ。エリカの荷物も俺が預かっている。



 ギルドを出た俺たちは、乗合馬車の駅舎に向かい、俺とエリカはケイちゃんとペラに見送られて中間点のディアナ行きの乗合馬車に乗った。


 俺たちの服装はいつもの防具を着けて腰には武器を下げた剣帯を巻いている。

 馬車の中では武器ごと剣帯を外して座ることになる。

 サクラダに来るときはエリカと向かい合って座っていたが、今回は隣り合って座った。特に話すこともないのだが、それで気まずくなるようなこともない。仲間というのはそういうものだ。


 ディアナまでに一泊した。

 宿はエリカと同室だ。最初にエリカと同じ部屋に泊った時はドキドキしたのだが、もちろん今回はそういった感動はなかった。素人童貞記録を更新中の俺だが、ずいぶんスレてきたようだ。


 乗合馬車は翌日午前中の早い時間にディアナに到着した。そこで、オストリンデン行きの乗合馬車に乗り換えて、更に途中一泊し、ここも午前中早い時間にロジナ村に近い宿場町に到着した。

 そこで預かっていた荷物リュックを渡してエリカと別れた。そこからロジナ村まで徒歩で2時間。到着は昼少し前になる。昼食の邪魔はしたくないので、昼食が終わったあたりでうちに到着するよう駅舎で作り置きのサンドイッチを食べたりして時間調整し、それからうちに向かって歩き始めた。


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