第161話 湖再び。帰省


 ゴルドマンさんにワイバーンを2匹あずけた俺たちは家に帰ってきた。

 家での仕事もないので、いつぞやの湖に行ってみようということになった。


 防具は身に着けていないが、武器は腰に下げている。ケイちゃんのウサツだけはキューブに入れている。何かあればすぐに矢筒と共にケイちゃんに渡せる。


 俺たちは準備ともいえないような準備をし戸締りをして家をでて、ダンジョンギルド前の大通りを南に向かって歩いて行った。


「この前湖の中に何かいたじゃないか」

「魚のこと?」

「魚もいたけど、そうじゃなくって、鳥が湖の中に突っ込んだままそれっきりだったろ?」

「そうでしたね。大きな魚がいるってことなんでしょう」

「それ、全然覚えていない」

「ほんとか?」

「うん。わたしの頭、大丈夫かな?」

「とりあえず病気用の黄色い水薬1本いっとく?」

「そこまではしなくていいけど」


 街の門を抜けて、しばらく街道を歩いてから街道を外れて森に向かって歩いていく。前回は森の中に入ったら薪を集めたりしたのだが今はウーマの中で調理した方が断然便利なので薪を集めるようなことはしなかった。


「13階層も歩くとこんな感じなのかな?」

「あそこは草原だからちょっと違うんじゃない?」

「ワイバーンを回収する時くらいしか外を歩いていないから実感がないんだよ」

「ワイバーンがいたということは他のモンスターもいるってことなんでしょうが、全然見ていませんし」

「いずれにせよ、ペラが見つけてしまえばそれでおしまいだものな」

「確かに」

「あの鉄の塊があの速さで飛んで来たら、まず避けられませんものね」

「あれって、当たれば即死間違いなしだものね」

「今回、もし湖の中の大物がいたら、ペラで仕留められるかな?」

「水面に近ければ簡単なんじゃないかな? ペラどう思う?」

「見てみなければ分かりませんが、水上に一部分でも浮いていればおそらく仕留められると思います。浮いていない場合は水面で鉄塊が弾かれるかもしれませんので難しいと思います」

 なるほど。

 四角手裏剣はいくらでもキューブの中にあるから何とでもなりそうだ。

「ペラが仕留めたとして、それをどうやって回収するつもり?」

「岸から近ければ直接キューブ行きだけど、岸から遠いようならウーマで近くまで行って回収かな」

「どうせあそこには誰もいないでしょうからそれでいいのか」


「そういえばワイバーンだけど、買い取ってくれるのあと8匹だって言われたろ?」

「そうね」

「2匹ずつ卸して4日。8匹卸したら、ちょっと俺、早いけど一度田舎のうちに帰ってみようかな。妹がまだサクラダに来たいと言って、俺の両親が許したら連れてこようと思う」

「いいんじゃない。それならわたしも一度オストリンデンに帰ってもいいかな」


「それで、ケイちゃんはどうする? 帰らない?」

「わたしの実家はかなり遠いので遠慮してここの家の留守番をしておきます」

「じゃあ、ペラはこっちに置いておけばいいな」

「はい。マスター」

「その時、ペラのメンテナンスボックスたからばこは置いておいた方がいいな」

「はい。お願いします」


「5日後の朝、最後のワイバーンの代金を受け取ったらその足で駅舎に行って乗合馬車に乗るとするか」

「それじゃあ、わたしも途中までエドと一緒の馬車に乗るわ」

「片道3日、1泊して7日で戻ってこられると思う」

「うちは片道4日だから10日かな」

「分かりました。ペラがいるのでこっちのことは心配せずもう少しゆっくりしていてもいいんですよ」

「向こうですることが何もないんだよ」

「わたしも」

「それならお早いお帰りをお待ちします」


 そんな話をしながら歩いて行くと、やっと森を抜けて例の湖に出て、芝生のような緑の草の上に4人並んで座り寛いだ。


 青空を反射して青い水面が陽光を反射してキラキラと輝いている。


「スー、ハー。スー、ハー。やっぱり、ここはいいねー」

「何も言わないけど、ここはいいところだわ」

「天気もいいし、気持ちいですものね」


「この前クマをたおしたけど、あれってはぐれグマだったのかな?」

「うん?」

「つがいとか、子どもがいなかったのかって意味」

「少なくとも親グマはいたんでしょうから、家族はいたかもしれませんね」

「だよなー。悪いことをしたとは思わないけれど、少し複雑だな。その点モンスターはいいよな。何も考えなくて済むから」

「しかもこのごろはペラとリンガレングで、わたしたちの出番なんてないし」

「そうですね。でも不思議と腕がなまる感じはないんですけどね」

「それ言えてる。わたしもそんな感じ」

 確かに俺もそうだ。これもレメンゲンのおかげなのだろう。


 しばらくそうして寛いでいたら、前回のようにどこからともなく鳥が飛んできて、湖の上で旋回し始めた。

 そしていきなり湖の水面に突っ込んでしばらく見えなくなり、浮かんできたと思ったらくちばしに魚をくわえて飛び立っていった。


「やっと思い出した! そうそう、浮かんでこなかった鳥がいたんだった」

 エリカも前回のことを思い出したようだ。


「ここなら、ウーマを出してもだいじょうぶだから、寝室に置いてあるペラのメンテナンスボックスたからばこをキューブにしまい直しておこう」

「それならついでだから、テーブルと椅子も出しておいてよ」

「そうだな」


 芝生?の上にウーマを出して、俺だけ乗り込み、テーブルと椅子を回収し、それから寝室に入ってペラのメンテナンスボックスを回収しておいた。


 作業が終わった俺はウーマから降りたが、ウーマはキューブに入れず出したままだにしておいた。


「せっかくだから、ウーマに乗って湖の向こう側まで行ってみないか? ウーマがもし誰かに見られたとしても、遠くからなら本物の巨大ガメってだけだろうし」

「それもそうね。

 っていうか、湖の向こう側の森の中に入ってしまえば、もう人なんて誰も来ないんじゃない?」

「そうだろうな」

「それなら、ウーマの中で1泊した方がよくない?」

「明日の朝にはギルドに行かないといけないからなー」

「そうかー。そうよね。向こう岸の先まで行ってしまうと帰ってくるのにだいぶ時間がかかるものね」

「いずれそういうことをしてもいいんじゃないか? それこそ田舎から帰ってきてからで。その時は俺の妹もいるかもしれないけどな」

「それもそうね」


「そういえば、サクラダの借家よりウーマの中の方が快適なわけだから、エドの妹さんもダンジョンワーカーに登録した方がいいカモね。渦の出入りにダンジョンワーカーである必要はないわけだから、どうしてもってわけじゃないけど」

「妹を一人で家に置いておくのも心配だし、登録しておいて損はないから、妹がサクラダに来るようなら登録させるよ」

「うん。その方がいいよ」


「そうするとウーマの中のベッドを増やさないといけなくなるな」

「マスター。わたしはメンテナンスボックスがあれば十分なのでわたしのベッドを使ってください」

「それならそうするか。だけど、ペラ、遠慮しているんじゃないよな?」

「そういうわけではありません」

「ならいいけど。

 そう言うことだから、ウーマに乗って湖の上の遊覧しよう」

「うん」「「はい」」


 4人で乗り込み、ウーマには向こう岸に向けて湖をゆっくり移動するように指示を出したおいた。ウーマが岸から湖に乗り入れた後、先ほど収納したテーブルと椅子は元の場所に戻しておいた。

 

 白鳥はくちょうは優雅に水の上を移動するが水中では足をバタバタせわしなく動かしているということを生前聞いたような。ウーマの陸ガメの足が今現在どうなっているのか分からないが、ウーマは揺れることなく湖面を滑るように進んでいく。


 そんな中、俺はお茶の準備を始めた。

 お茶菓子は焼きリンゴが上にのっかったパイだ。アップルパイと言えないこともない。ただパイ生地はバターが少ないのか生前のものと比べるべくもないが、それでもちゃんとおいしい。

 ホールを8等分して、一切れずつ4枚の小皿に取って残りは収納しておく。

 お茶をポットからカップに注いでお茶会の準備完了。

「それじゃあ」「いただきまーす」「「いただきます」」


「おいしー。しあわせー」

「ほんとです」

「おいしいです」


 空腹にすぐるソースなし。とか言うが、違うんだよなー。人前では決して言ってはならない言葉だし、ちょっと表現的に卑猥ではあるが、美少女にすぐるソースなし。と言うのが今の俺の心境なんだなー。


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