第159話 モニュメント跡。戦況
柱の4階層の中心までやってきたのだが、そこにあったはずのモニュメントが無くなっていた。
俺たちはモニュメントの跡地を調べるべくウーマを降りてモニュメントが建っていたところを見れば、そこには磨かれた御影石で出来た四角い石板が置かれていた。
石板の上には例の言葉が刻まれていたので、前回同様4人で呪文のように唱えてみた。
『われを称え唱えよ。黒き常闇の女神サルム・サメ』
『われを称え唱えよ。青き夜明けの神ミスル・シャフー』
『われを称え唱えよ。白き太陽の神ウド・シャマシュ』
『われを称え唱えよ。赤き黄昏の神アラファト・ネファル』
呪文を唱えているうちに思いついたのだが、ひょっとして渦の前で対応する神さまの名まえを唱えろってことじゃ?
いちおう今思いついたことを3人に伝えておいた。
「石板の前で唱えはしたけど、ここでは何も起こらないみたいだから、できることはエドの言ったことくらいだし、確かめに行く?」
「確かめに行かざるを得ないかなー。また渦まで戻らないといけないとなると、体は何ともないけど、気持ちの上ですごく疲れるのは確かだよな」
「それはわかるけどね」
「どうします?」
「そろそろ、サクラダに帰ってもいいんじゃないか? 渦を抜けたところで何か変わったことが起こるとも限らないし」
「魚が買えるなら行ってもいいけど、買えるとは限らないしね」
「そうですね」
「引き返そうか」
「うん」「そうしましょう」「了解」
それで結局俺たちはサクラダに引き返すことにした。
ウーマに乗り込み1時間。そこで階段を下って行き3階層に到着したのが17時。
3階層を横断したところで1泊して、翌日5時から階段を下って2階層に。
2階層を横断して階段を下り、柱の1階層を横断して12時。
そこからサクラダに続く13階層の階段まで720キロ。丸1日。
翌日正午に12階層への階段下にたどり着きそこからサクラダの渦を目指して歩いていった。
途中一度小休止を入れて、午後5時過ぎにダンジョンギルドに帰り着いた。
その足で買い取りカウンターに回ってゴルトマンさんと裏の倉庫に行き、そこでワイバーンを2匹卸した。
「いったい何匹ワイバーンを持ってるんだ?」
「あと28匹です」
「そんなにか。あと8匹は問題ないが、残りの20匹については皮革工房の方に確認してみる」
「分かりました」
加工能力は限られているわけだから、どんどん原料を買い付けられない。特に相手は生ものなんだし。
俺たちはゴルトマンさんに「よろしくお願いしまーす」と言って倉庫を後にし、家に帰っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
エドモンドたちが13階層である意味右往左往している間に、ヨルマン辺境伯の一行は王都に到着している。
辺境伯は数日待たされたものの、なんとか国王フリッツ4世に拝謁を許された。
「陛下にお願いがあり、こうしてまかり越しました」
「申してみよ」
「先日陛下よりの援軍依頼の件ですが、わが領軍には8000の陸兵しかおりません。その中から半数近い3000の兵を出すことは困難を極めます」
ヨルマン辺境伯のその言葉のあと、国王のそばに控えていた一人の廷臣貴族が、国王に発言の許しを求めた。
「陛下、よろしいですか?」
「許す」
「わたくしは陛下の補佐をしておりますケストナーと申します。ヨルマン辺境伯どの。ヨルマン領は海軍をお持ちではありませんか?」
「ありますが、それが?」
「海兵の数はいかほどでしょうか?」
「3000ほどですが」
「海兵は敵船への切込みとか行なえるのではありませんか?」
「もちろん、訓練していますから可能です」
「切込みができれば十分陸でも働けるのではありませんか?」
「あなたは、何が言いたいんですか?」
「いえ、3000の陸兵の穴は海兵でも埋められるでしょう?」
「海兵は陸兵と違い一朝一夕では育てられません」
「言い換えれば、陸兵なら一朝一夕で育てられるということではありませんか?」
「……」
「ヨルマン伯、それなら3000と言わず4000程度出せるのではないか?」
「……」
「4000の陸兵となると維持費は金貨1万6000枚。ヨルマン領は裕福でしょうからそれくらい供出できるのではありませんか?」
「……」
「ヨルマン伯、何か不満でもあるのか? ヨルマン領に不満があるようなら、どこか別の王領と交換しても良いぞ」
「……。分かりました。陸兵4000、兵の維持費フリッツ金貨1万6000枚供出させていただきます」
ヨルマン辺境伯は肩を落とし、王前から退出した。
辺境伯は国王との失敗に終わった交渉とも呼べない交渉結果とそれにかかわる指示を書面にしたため領都ブルゲンオイストに馬を走らせており、辺境伯は失意のうちに随員を連れ領都ブルゲンオイストに向け王都を発っている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ヨルマン辺境伯が王都を発った翌日。
ドネスコ軍が南の国境を越えたとの報が王宮に届けられた。
ヨーネフリッツにできることは可及的速やかにズーリから遠征軍を撤退させドネスコ軍にあたることだが、王宮内ではズーリ戦の戦犯、すなわちズーリ開戦を主導した軍部と一部廷臣貴族ら主戦派への批判が高まっていいるさなかであったため、王宮内が混乱し遠征軍への撤退命令の発出ができないでいた。
そしてその翌日。フリシア軍が西の国境を越えたとの報が王宮にもたらされた。
これにより王宮はさらに混乱を呈することになる。
国軍の陸兵総数はズーリ戦前で10万。ズーリ戦に投入した国軍の総数は3万。
数字上国内には7万の国軍が存在するが、これは王都防衛の任にあたる禁軍5000を除き他国の精鋭と比べるべくもない二線級の軍である。また、最精鋭と称される禁軍も華美な軍装だけは目立つものの指揮官のほとんどは廷臣貴族の子弟でその実力については多くを期待できない。
ヨーネフリッツ国内には国軍の他にもズーリ戦前で領軍が約10万存在していたが、ヨルマン領の例でも分かるように国の意向だけで簡単に動かすことはできない。
ヨーネフリッツは軍事的に相当苦しい状況であり、国境を侵したドネスコ軍およびフリシア軍の規模によっては、国が亡ぶ可能性すらあった。
示し合わせたようなドネスコ軍とフリシア軍の動きに対して王宮の出した結論は、南側は南部諸侯の抵抗によりドネスコ軍の侵攻を足止めすることで時間を稼ぎ、その時間で西から東に流れるハルハ河の北岸の渡河可能地点数カ所に国軍3万を投入し防衛戦線を構築。西側では同じく西部諸侯のフリシア軍への抵抗により時間を稼ぎその間に南から北に流れるヨルべ河の東岸の渡河可能地点数カ所に国軍3万を投入し防衛するというものだった。
この方針は明らかに南部諸侯と西部諸侯を切り捨てるものであるため各諸侯に対し徹底抗戦を呼びかけるとともに速やかに援軍を送ると偽っている。
ただ、南部諸侯、西武諸侯はズーリ戦への領軍派遣によりすでに疲弊しており、彼らがドネスコ軍とフリシア軍へ抗戦できるのか? 抗戦するのか? という不安は中央でも抱いていた。
国軍の投入であるが、ただ投入すると言っても国内各所の駐屯地からの移動になるため現場に軍が揃うにはかなりの日数がかかると見込まれている。いずれの防衛線も軍が間に合わなければ防衛線は構築できずそのまま無傷の敵軍に突破されることになり、突破されれば王都への道を遮るものはなくなる。
ヨーネフリッツがズーリ戦に投入た兵力のうち残存兵力3万(領兵はほぼ壊滅しており実質1万5千だが軍中央は把握していない)については速やかに撤退させることとしたが、中央での廷臣貴族たちの駆け引きの結果、撤退後は対ドネスコ、対フリシアに直接投入するのではなく王都防衛のため王都に呼び戻されることになった。この命令はフリシア軍の越境の報が王都にもたらされて4日後ズーリ派遣軍に向け発出されたものである。
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