第148話 13階層の反対側へ。カール・ライネッケ2、領都集合2
柱の4階層の中心部に建っていたモニュメント前で一泊した。
ベッドに入った時間が早かったせいで、目覚めは午前1時だった。ここで起き上がってしまうとマズいと思い、目を閉じて魔力操作をしていたら何とか眠れたが、2度目に目が覚めたら午前4時だった。
音を立てないようにベッドから起き上がり、寝室を出たところでキューブから取り出した服を着た。
顔を洗ったり朝の準備を一通り終えた俺は、朝食の準備に取り掛かった。
台所でガタガタやっていたら、ペラがやってきたのでご飯の炊き方を教えることにして、まずは米を計って研ぐ、水の分量を決めてしばらく水を吸わせるところまでやってみせた。
「どうだ?」
「理解しました」
「だいたい10分もすれば米は水を吸って白くなるからそしたら火にかける」
「はい」
そこから後は実際に炊いて見せた。
……。
「こんなところだ。一人で出来そうか?」
「はい」
ご飯はペラに任せても良さそうだ。
炊きあがった鍋に入ったご飯は10分ほどそのままにして、そのあとキューブに収納しておいた。時刻は5時。
エリカとケイちゃんも起き出して朝の支度を始めた。
今日の朝食は、昨日の残りのハンバーグだ。ハンバーグは一人1つしかないので、ベーコンを焼くことにした。
玉子があればよかったのだがない物は仕方ない。
朝食は昨日の残りのハンバーグとコーンにベーコン。スープとご飯。という取り合わせになった。
朝食前にエリカとケイちゃんにことわってウーマを階段方向に向けて発進しておいた。食べ終わって後片付けをする頃には5階層へ続く階段前に出られるだろう。
「「いただきます」」
……。
朝食の後片付けを終え装備整えたところでちょうどウーマはジャングルを抜けて階段下にやってきた。
俺たちはウーマを降りて階段を上り始めた。
上り始めて1時間半。何事もなく5階層の気密室にたどり着いたのだが、バトンを穴に突っ込んでも気密室が開かなかった。
「バトンの挿入口があるということは、この先にちゃんと階層があると思うんだけどなー。
どうする?」
「エドが扉を収納してしまえばいいんでしょうけど、それはやっちゃいけないような気もするのよね」
「俺もそんな気がする。何かをどうにかすれば開くと思うんだけどなー」
「モニュメントで唱えたアレが関係するのかもしれませんね」
「どうだろーなー。アレを唱えたせいでここが通れなくなったと考えるのかい?」
「ここが通れないことがわたしたちにとって結果的に良かったのかもしれません」
「つまり、俺たちが5階層に入ると何かマズいことが俺たちに起こるということ?」
「はい」
「それはそれとして、それだと俺たちにとってサクラダダンジョンはこれで終わりってことか?」
「結果的にそうなるような」
「わたしたち柱があったから上に向かっているけれど、本当はどこかに下り階段があったかもしれないわよ。なにせ13階層はとんでもなく広いわけだから」
「そうだなー。
下り階段があるとして、やみくもに探しても見つからないよな」
「そうよね」
「そうですね」
「この階層だけを見る限り、階段がある場所というと、階段の反対側じゃないか?」
「うん」
「ありえます」
「となると、12階層からの階段の出口の反対側が怪しくないか?」
「うん、すごく怪しい」
「そのことを教えるためにこの柱で階段を上らせたのかもしれないぞ」
「さすがに、そこまではないんじゃない?」
「そうかな。
いずれにせよ、ここでこうやっていても始まらないから下りよう」
「そうね」
「はい」
そこから1時間半かかけて4階層に下り立ち、さらに2時間かけて4階層を横断した。朝が早かったこともありその前に昼食を済ませていたのでそのまま3階層に下りて行った。
3階層に下り立ったのが13時。
2時間かけて3階層を横断して15時。
1時間半かけて2階層に下り立ったのだ16時半。
そこで1泊。
翌朝。5時から移動を始め7時に横断。
1時間半かけて1階層。
1時間かけて
「うーん。一仕事終わってまたどかに行ったって感じだな」
「また会えば、お願いできると思っていましょうよ」
「そうですね」
そこから1時間かけて柱の出入り口の洞窟坑道にたどり着き、そこでウーマに乗り込んだ。
「山並みの出入り口はさすがにあそこの洞窟だけだよな?」
「ほかにもあるかもしれないけれど、ウーマが通れるような場所はあそこだけなんじゃない?」
「探せばあるかもしれませんが、無難にあの洞窟を抜けませんか」
「あとはウーマに乗っているだけだし、そうしよう」
山並みの洞窟まで420キロ、14時間。今の時刻は10時半過ぎだから、洞窟を抜けるのは深夜になる。そこから山並み沿いに左回りで回って行き、洞窟の反対側に到着したら右に向かって進むだけだ。山並みの直径を900キロとすると半周進むには約1400キロ進むことになる。時速30キロで46時間。丸二日と考えていい。
13階層が真ん丸としてそこから壁まで300キロ。10時間。到着は3日後の午前8時ごろになる。
丸々3日間ウーマの中で食って寝て風呂に入っての繰り返しが続くわけだが、美少女と一つ屋根の下どころか時間差はあるものの同じ風呂のお湯に浸かり、寝るときは同じ部屋! 不満などあろうはずもなし。
そして3日目の午前8時過ぎ、ウーマは12階層からの階段下の反対側に到着した。
そこには予想通り階段があったが、スリットから見えるその階段はなんと上り階段だった!
「どう見ても上り階段だよな?」
「うん」
「どこにつながっているんでしょう?」
「上って見るしかないだろうな」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
こちらは領都ブルゲンオイストに到着したエドモンドの父カールとその従者ヨゼフ・シュミットの二人。
領都の駅舎から領主城に向かい、そこから領主城の裏手の堀の先の練兵場の他、領都守備隊の兵舎や厩舎、倉庫なども並んだ駐屯地内にある領軍本部に向かった。
駐屯地の入り口で衛所の兵がカールの馬を預かってくれたので、カールたちはそのまま本部本館に入っていった。もちろんカールの荷物などは従者であるヨゼフが持っている。
入り口の受付で集合命令書を見せ、名まえを告げたところ係の兵に3階の奥の一室に案内された。
そこは領軍本部長ヘプナー伯爵の執務室である。
「カール・エドモンド騎士爵が従兵1名を伴い到着されました」
『入れ』
ヘプナー伯爵の副官の声で案内の兵が扉を開け、カールとヨゼフは部屋の中に入っていった。
「ヘプナー伯爵、ご無沙汰しています」
「カール、久しぶりだな。元気そうで何よりだ。そこに座ってくれ」
カールは勧められた席に着き、ヨゼフはカールの後ろで控えた。
ヘプナー伯爵はカールの向かいに座った。
「命令書には何も書かなかったが、わが領から兵を出すことになった」
「どこを攻めるのですか?」
「ズーリのことは聞いているか?」
「国軍が攻め込んだといううわさだけは耳にしています」
「それなんだが、大苦戦をしているようで、わが領にも兵を出せと王都から催促が来た。期間は6カ月。兵の数は3000だ」
「まさか」
「そのまさかだ。さらに兵の損耗に対して一切の保証をしないうえ、わが方に兵の維持費として月あたり金貨2000枚。6カ月で1万2000枚出せと来た」
「言葉もありません」
「それでヨルマン閣下は国王陛下に無茶な要求を考え直していただくよう直談判するため、今王都に向かっておられる。
金はまだしも供出する兵数を何としても減らしたいが、最低でも1000は出さねばなるまい」
「そうでしょうね」
「つまりは最低でも500人隊2つ派遣することになる」
「はい」
「それで、カールにはその500人隊の一つを隊長として任せたい」
「わたしがですか?」
「そうだ。今日からおまえは準男爵待遇だ。そういった肩書もある程度は役立つだろうからな。とにかく1兵でも多くヨルマンに連れ帰ってくれ」
「勝手に陞爵できるんですか?」
「年金はヨルマン領で持つわけだ。肩書を国から買うだけなので辺境伯の名まえで何とでもなる。今は準男爵待遇だがすぐに正式な準男爵だ」
「分かりました。兵のこと全力を尽くします」
「もう一つカールに知らせることがある」
「はい」
「派遣兵は領軍各隊から抽出することになる。今回領軍各隊から抽出する兵は、まずは妻子のない者が第1条件。そして第2条件が問題兵、そして弱兵だ」
「つまりは国軍にすりつぶされることが前提ということですか?」
「済まない」
そう言ってヘプナー伯爵がカールに深々と頭を下げた。
「伯爵、止してください。
それで派遣部隊の総指揮はどなたが執られるのでしょうか?」
「わたしが指揮を執りたかったが、ヨルマン閣下に止められてしまった。指揮官はボーア子爵が執ることになった」
「わたしはボーア閣下を存じ上げませんがどのような方ですか?」
「ボーア子爵に軍歴はないのでわたしも良くは知らんのだが閣下の推薦だ。なんでも国軍のお偉方に親戚がいるそうだ」
「分かりました。
それで、兵はもう集合しているのですか?」
「まだだ。そろうのは3日後の予定だが、もう少しかかるかもしれない。詳しいことは明日わたしの副官がきみに説明する」
「了解です」
その後カールたちはヘプナー伯爵が呼んだ従兵に案内されて兵舎に向かった。
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