第149話 13階層反対側


 12階層からの階段下の反対側までウーマで移動したところ、予想通り階段があったのだが予想に反してその階段は上り階段だった。


 装備を整えウーマを下り、階段の近くまで歩いて行いき壁に空いた階段の入り口に近寄って階段を見上げたところ、階段の天盤も壁も、階段そのものも白い石でできていた。

 12階層から13階層へ続く階段は黒い石でできていたが、こっちは白石だ。何か意味があるのか?


 見上げた感じ階段はどこまでも続いているように見えたので、60段ではないことは確かだ。おそらく300段ではなかろうか。


「白い階段って何だか嫌だわね」

「そうかい? それより、どこに続いていると思う?」

「下りじゃなくって、上りだものね」

「もしこの階段を上って行った先を探したらまた上り階段があって、最後に渦があって地上に出たら面白いですよね」

「それって、新しいダンジョンってことにならないか?」

「新しいダンジョンかもしれませんし、どこかよその国にあるダンジョンかもしれませんよ」

「確かに」


「階段を上ったらそれなりのモンスターが待ち受けてるのかな?」

「モンスターがいるとすれば今度は階段の前というか階段の先じゃなくて扉の前にいるんじゃない?」

「なるほど。

 とにかく上ってみるか」

「そうね」「はい」

「上る順番は、リンガレング、俺、エリカ、ケイちゃん、ペラの順でいいか」

「うん」「はい」「了解」

「リンガレングはもし敵がいたらたおしてくれ。その際、敵をバラバラにしないようにな。もちろんたおすことが優先だからバラバラにしないとたおせないなら遠慮せずバラバラにしてくれて構わない」

『了解しました』

「敵かどうかの判断がつかない場合は、俺が指示するから攻撃は控えてくれ」

『はい』

「ペラは鉄塊を2つ手にしておいてくれ。攻撃は俺の指示があってからな」

「はい」

 ペラに鉄の扉を加工して作った四角手裏剣を二つ渡しておいた。


 準備が終わったところでウーマはキューブに収納して、俺たちはリンガレングを先頭に階段を上って行った。


「やっぱり300段みたいだな」

『そのようです』

 前方、階段の出口が近づいてきたところで独り言のように呟いたら、リンガレングが答えてくれた。


 さらに出口に近づいたが階段の先で何かが待ち受けている気配はなかった。

 これは用心しすぎたかな。っと、思ったらいきなりリンガレングが階段を駆け上がってそのまま見えなくなり、何かを叩きつけるような音が重なって聞こえ、そのあとばらばらと何かが床に落ちる音が響いてきた。最後に重量物が床に落ちる音が振動と共にやってきた。


 急いで階段を駆け上ったら、そこは天井の高い大広間でリンガレングが銀色の塊の前で停止していた。よく見ればその塊は頭部がなくなった巨人像だ。


 この感じ、向うの12階層で13階層の階段前にいた黒い巨人像をたおした時と同じだ。ただ、ここにいたのは銀で出来た巨人像っぽい。


 エリカたちも階段をかけ上ってきて、みんな揃っている。


「リンガレング、よくやった」

『はい』

 リンガレングは8本の足で体を上下させた。


「銀の巨人がいたんだね」

「そうみたいだな」

「わたしたちが以前たおしたのは青銅の巨人で見た目は黒かったけれど、銀色は白く見えないこともないわ。まるで階段の色に合わせたよう」

「そう言われれば、青銅の巨人の先の階段は黒っぽかったな。

 それにしても俺たちがあれほど苦戦した巨人と同等と思える巨人をリンガレングはほんの一瞬でたおしてしまった。これから先、俺たち戦わなくても良さそうだ」

「そうね。少し物足りないけど、それはそれで良いんじゃない」

「まあな」「そうですね」


 部屋の中には罠を示す赤い点滅はなかった。点滅がないことはありがたいが、部屋の中を見渡したところどこにも扉がない。ここで行き止まりなのか?


「これで行き止まりって事なのか?」

「12階層の時は女神像の部屋でバトンを穴に入れたら壁が動いたじゃない。

 この部屋の中にもバトンを入れる穴があるかもしれないわ」

「巨人が立っていた向こう側が怪しいんじゃないでしょうか?」


 巨人の残骸をとりあえず回収した俺たちは、巨人のいたその先の壁を調べてみた。そうしたところ、正面の壁と右側の壁との境目近くにバトンを入れると思われる穴が見つかった。


「ね。あったでしょ」

 エリカの笑顔が眩しい。


 さっそくバトンを穴に突っ込んだところ、バトンは10センチほど残して穴の底で突き当り、カチリと底から音が響いた。いつもの反応だ。


 間をおかず、足元からの重いものがこすれるような音と一緒に正面の壁がゆっくり下に沈んでいった。


 壁が下り切った先には白い石で組まれた石室で、手前に白い祭壇が置かれていた。

 その祭壇の上には何も置かれていなかったが、その代り祭壇の真ん中に例の穴が空いていた。

 部屋の床が白いせいで数カ所の赤い点滅が良く見える。


「部屋の色も祭壇の色は違うけれど、12階層で女神像が置いてあった部屋と一緒だな」

「そう見えるわ」

「ということは、ここを出てすぐ先に上り階段があるということでしょうか?」

「あり得るな。そして、10階層分上がれば渦がありそうだ。

 それでどうする?」

「せっかくここまできたんだし、行けるところまで行ってみない?」

「だけど階段のある位置は分からないぞ」

「今までと同じで階段を上がってまっすぐ進めば次の階段に出るんじゃない? この階層だけはそうじゃないけど、向うの12階層と同じ感じで階段があると思って歩いて行けば何とかなるんじゃない? 自動地図もあることだし、迷子にはならないんじゃないかな」


「ケイちゃんもそれでいい?」

「はい。わたしも興味がありますから」


「それじゃあ、行けるところまで行ってみようか」


 ここからは俺が先頭に立ち、俺のあとをリンガレング、エリカ、ケイちゃん、四角手裏剣を2つ手に持ったペラと続く。ウーマはそのままキューブの中だ。

 部屋の扉は12階層のものと同じだったので、赤い点滅を避けて部屋を横切り同じようにキューブに収納してやった。


 出入口の先は石造りの通路で、路上に赤い点滅がそれなりにあった。リンガレングは気にせず床石を踏み抜いていくので赤い点滅を意識できないペラの役には立っている。


 俺は12階層のつもりで階段部屋はこっちだろう。と適当な方向に歩いて行った。

 そんなに歩くこともなく、通路の突き当りの扉を回収したところ、部屋の奥に上り階段が見えた。微妙に12階層と造りが違うのかもしれないが、ほぼ同じ感じで階段部屋が見つかったということは、階段を上った先は11階層とほぼ同じ作りの可能性がある。ということはまたあのスライムが水の中から湧き出てくる可能性があるということだ。


 それはそうと、階段前のモンスターっぽいのをたおしたけど今回は宝箱がなかった。もう誰かが回収した後なのかもしれないが、どうもそんな感じではない。遡行した場合宝箱はないのかもしれない。そうであるならちょっと損した気になるぞ。エリカがそのことに思い至ると絶対何か言うぞ。


 そう思って赤い点滅を避けながら階段前に向かっていたら、後ろからエリカが俺に話しかけてきた。

「ねえ、エド。さっき銀色の巨人をリンガレングがたおしたじゃない」

「そうだな」

「あれって、階段前のモンスターと考えていいんじゃない?」

「だろうな」

「じゃあ、宝箱があってもよかったんじゃない」

「そうかもしれないけれど、なかったものは仕方ないだろ」

「誰かほかの人が宝箱を取ったって感じじゃなかったわよね」

「そうだな」

「もしかして、下から上がっていったら宝箱は出ないのかな?」

「そうかもしれないな」

「なんだか損した気がしない?」

「仕方ないから諦めよう」

「まあね。

 気をとり直して階段を上りましょうか。またあのスライムが出てくるかもしれないけれど、出てきたらリンガレングに任せればいいわよね」

「そうだな。

 リンガレング。上に上がってゼリー状のモンスターが現れたら遠慮せずにたおしてもいいからな。ただ、そいつを潰してしまうと毒液が出てそこいらじゅうが汚染されてしまうんだ。俺たちには薬があるから大丈夫だが、リンガレングは毒とか平気なんだよな?」

『了解しました。わたしのボディーは毒を含め化学物質の影響は一切受けませんから大丈夫です』

「それじゃあ、ここからのフォーメーションは、リンガレング、俺、エリカ、ケイちゃん、ペラ。でいいな」

「「はい」」「了解しました」『了解』

「そういえば、ペラは毒の影響を受けるのか?」

「わたしは生物学・化学BC兵器耐性を持っていますから、生物が体内で生産する程度の化合物でわたしの体が影響を受けることはあり得ません。問題ないです」

 かなり難しい言葉をペラは返したのだが、エリカもケイちゃんもスルーしてくれた。説明が面倒以上に俺が説明できることを二人に説明できないからな。



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