第143話 リンガレング2


 デザートを食べ終え食事の後片付けも終わり、居間に移動した俺はソファーの先の比較的広く開いた床の上にキューブからリンガレングを出してやった。エリカもケイちゃんも俺の横に立って様子を見ている。ペラだけは外の警戒を続けている。


 そんな中、床の上に現れたリンガレングの8個の目が一度明るく輝き、すぐに暗い赤色に戻った。

 リンガレングは頭を動かしてはいなかったが周囲を観察し状況を確認したのだろう。


「リンガレング。ここはウーマと言ってカメ形をした移動住居の中だ」

『了解しました』

「それで、お前のことをもう少し詳しく知りたいのだが、リンガレングは何ができる? 神滅以外で」

『破壊です』

「破壊なのか」

『はい。破壊です』

「ほかには?」

『ありません』

 こいつ言い切っちゃったよ。いいけど。

「そうか。だいたい分かった。それじゃあ、スリットの先に木が沢山生えているのが見えるだろ?」そう言って俺は前方のスリットを指さした。

 リンガレングは俺が指さした方向に体の向きを変えた。

『はい。見えます』


「あの木々を破壊できるかい?」

『単純な切断であれ粉砕であれ簡単です。また、神滅機能である「神の怒り」をロードし発動すれば素粒子レベルまで破壊可能です。その場合、爆心地のみならず周囲は超高温と有害放射線にさらされるため発動時には爆心地から十分距離を取る必要があります。安全距離については都度マスターに警告します』

 爆心地って言っちゃったよ。それってもう核兵器ってレベルの話だろ。素粒子レベルに分解ってことは、水爆超えてるんじゃないか? まあ、相手が神さまならそれくらいしないとだめかもしれないが。いやいや、やっちゃだめだろ。

「単純な切断というのは、お前の手だか脚で切り飛ばすということか?」

『はい』

「分かった。ところでお前と女神さまとの関係は?」

『以前、女神さまがわたしのマスターでした』

 ほう。そういうことか。って、女神さまが実在したってことじゃないか!

「今、その女神さまはどこにいる?」

『分かりません』

「リンガレングは神をめっしたことがあるのか?」

『はい。女神さまがまだ女神さまでなかったころ邪神を滅ぼしました。その結果女神さまは神化を果たされました』

 神化して女神さまってことは? まあ、ここではそれはいいや。

「じゃあ今は滅ぼすべき神さまはいないんだ?」

『はい』

 それはよかった。

 大体聞きたいことは聞けたと思う。


 俺はリンガレングから聞いたことをかいつまんでエリカとケイちゃんに説明しておいた。もちろん素粒子とか有害放射線といった言葉は使えないのでそれなりに大変だった。


「リンガレングは破壊しかできないようだけど、モンスターの首を斬り飛ばすくらいはできるんじゃないか。ここからの帰り道で試してみよう」

「そうね」


「リンガレング。周囲の警戒はできるか?」

『可能です』

「それなら、そこに立っているのがペラというんだけど、ペラと代わってくれ」

『はい』

「ペラ、警戒はリンガレングに任せたから自由にしていいぞ」

「はい。それでは部屋に戻っています」

「分かった」


「リンガレングのことはそういう風にするとして、結局明日はどうする?」

「一度家に帰る? ケイちゃんはどう?」

「そうですねー。一度帰りましょうか」

「今からでも戻れるけれど、明日の朝食を食べたら戻ろうか」

「そうね」「そうしましょう。家に戻ったらこれからのことを考えましょう」

「そうだな」


「そういえばエドはまだお風呂に入っていないでしょ。入ってきたら?」

「そうする」

「わたしは悪いけど先に寝てるね」

「わたしも」


 ……。


 風呂に入って湯舟に浸かり、美少女エキス×2を再注入した俺は、風呂から上がって下着を身に着けドライヤーで髪と体を乾かした。下着姿のまま寝室に入ったらエリカもケイちゃんもぐっすり寝ていた。

 ペラはベッドに横たわっていたが目は開いていた。寝ているわけではないのだろうが文字通り微動だにしていない。ペラには心臓もないだろうから死んだふりをしたら見抜けないと思う。

 俺もベッドに潜り込んで目を閉じたらすぐに意識が飛んでしまったようだ。



 翌朝。体内時計で午前4時半。


 目覚めて服を着たりしていたらエリカたちを起こしてしまったようだ。

 二人も着替えるのだろうから、俺は寝室を出て洗面所で顔を洗ったりした。


 朝の身支度ができたところで、朝食の準備だ。

 今朝はご飯を炊こう。


 最初に鍋に入れた米を流しで研いで水に浸しておく。

 味噌汁が飲みたいが味噌がないので諦めざるを得ない。しかし、化学調味料が新たに補充された今、味噌、醤油が補充されないとは言いきれないのだ!


 それはそうと、ご飯はいいけど、おかずに何を作ろうか?

 朝だし、スープはあるわけだし、ハムステーキと野菜炒めでいいか。

 キューブから残っていたハムの塊りを取り出してスライスしていく。一人2枚も食べればいいだろう。

 そのあと、野菜炒め用にブタ肉を薄くスライスし、最後にキャベツとズッキーニを切って下ごしらえは完了。


 最初に野菜炒めを作って大皿に盛って収納しておく。もちろん化学調味料で味はバッチリだ。

 そこで思いついたのだが、炒め物には中華鍋ではないだろうか? フライパンがあるのだから中華鍋がどこかにあるかもしれない。なければ鍋とかフライパンを作っている工房に頼めば何とかなるだろう。あの中華鍋用のおたまもあれば便利そうだよな。

 うにゃうにゃ考えていても手を動かし野菜炒めは完了した。

 そこで鍋の中の米を見たら水を吸ってすっかり白くなっていたので初めチョロチョロで火にかけた。


 エリカとケイちゃん、それにペラが朝の支度を終わったようだったのでソファーで休んでおくように言った。

 それじゃあ悪いよ。とかエリカに言われたので、それなら後片付けをお願すると言っておいた。

 そしたら、ペラが。

「マスター、わたしにできることがあったら言ってください」と、言ってくれた。

「ペラは俺が料理を作っているところをよく見て料理ができるようになってくれ」

「はい!」


 ペラが見守るなか、俺はハムステーキを焼くことにした。先ほど野菜炒めを作ったフライパンにハムを並べて焼いていく。

 フライパンが大きいのでちょうど8枚並べられた。

 俺はペラに一々自分のやっていることを話しながら作業を進めていく。

 ペラの表情はいつも変わらないのだが、真剣そうな顔をして俺の話を聞き、俺の手元を見ている。


 ハムステーキは熱が通りさえすればいいのであっという間に焼き上がった。

 平皿4枚にハムステーキを2枚ずつ置いていき、先ほどの野菜炒めをその脇に盛っていく。

 盛り終わった順にキューブに収納し、次に大鍋をキューブから取り出してスープを深皿によそい、よそった順にキューブに収納していった。


 準備オーケー。あとは火加減を見ながらご飯が炊けるのを待つだけだ。

 ペラの場合はキューブを使えないのでその辺りのアレンジは必要になるだろう。食材なんかは食料庫からたいていは調達できるのだが、野菜や肉類は収納キューブに入っているので、ペラが本格的なシェフになったら調理前にそういった食材を渡す必要があるし、余ったら収納する必要もある。全部任せられれば良いのだが、そうはいかないようだ。


 調理台の上を片付けたりしていたら、そのうちご飯が炊けた。10分程度蒸らせば出来上がりだ。


 ペラにはナイフとフォーク、それにスプーンのカトラリーをテーブルに並べさせた。


 ご飯もそろそろというところで、エリカたちを呼び、俺はテーブルの上に料理を並べていった。

 最後にご飯を人数分深皿に盛ってテーブルの上に並べた。

「うーん。いい匂い。白麦最高だわ!」

「「いただきます」」


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