第142話 リンガレング


 女神像の裏に空いた階段を下りてその先の部屋に入ったら、神滅機械リンガレングと自称するクモ型ロボットがいた。


 言葉にするとその通りなのだが、俺はこのクモをどうすればいいんだ?

「このクモどうすればいいと思う?」

「ここに置いておくくらいなら、階段が現れたはずないと思うんだけど」

「連れていけ。って、女神さまが言っているのではないでしょうか」

「連れて行くの? クモを」

「はい」


「連れて行くとして、結構大きいから通路は通れても階段は無理じゃないかな?」

「キューブに普通に入るんじゃない?」

 言われてみれば目の前のクモはどう見ても機械なんだし収納できそうだ。

「それじゃあ、収納してみるか。おい、クモ、これから収納するからそのつもりで」

『はい。大丈夫です。それからわたしの名まえはリンガレングです。神滅機械リンガレング。お忘れなきよう。マスター』

 俺ってクモ改めリンガレングのマスターになっちゃたの? ペラのマスターってのも人前だと相当マズそうだけど、クモのマスターってどうよ? 今さらだけど。


 とにかく収納だ。

「それじゃあ、収納」

 簡単に収納できた。


 この部屋は機械室のようだからリンガレングの整備室か何かなのだろう。機械だから故障することはあるだろうし。そういえばウーマも広義には機械なんだろうけど故障なんかしそうもないな。もし故障したら直せそうもないから、捨てるしかなくなる? それも嫌だ。少なくとも俺が死ぬまでは故障しないでくれよ。


「収納できたことだしとりあえずウーマに戻ろうか?」

「そうね」「はい」「はい!」

 いつもペラは元気いっぱいだ。



 俺たちは部屋から出て引き返し、四阿あずまやを出てウーマに戻った。


「とりあえず、夕食の準備でもしておくか。

 エリカとケイちゃんは風呂に入ってきていいよ。今日は作り置きの料理がたくさんあるから手間がかからず済むから」

「うん。分かった」「それじゃあ、お願いします」


 スープの他、昨日の残りのトカゲの唐揚げでいいだろう。あと何か付け加えたいが、ちょっと食料庫を見てみるか。


 壁を通って食料庫の中に入って行き、何かないかと探していった。

「あれ?」

 ちょっ前に持ちだしてまだキューブの中に残りを入れている食材が補充されている!

 他の食材を調べたところ、使った記憶のある物が全て補充されていた。

 仕組みは分からないが、俺たちはウーマの中にいる限り食べ物は無尽蔵らしい。

 足りないものは野菜と新鮮な肉くらいか。野菜はないが果物はジャングルの中に沢山生ってるし、野菜くらいならここで栽培できるかもしれない。


 気になって雑貨倉庫の方も確認したところ、どの棚も何も使った形跡がなかった。

 雑貨に関しても無尽蔵ということか。

 ふー。


 今日は簡単にキャベツとベーコンで唐揚げの付け合わせに野菜炒めを作ろうと思った俺は再度食料庫に戻り、ベーコンの塊りを取り出した。

 帰り際、ふと塩や砂糖の入った瓶の置かれた棚に目をやったところ、塩や砂糖の大きな瓶と香辛料の中瓶の他、今までなかったハズのもう少し小さな瓶があった。フタを取って中を見ると、謎の白い粉が入っていた。何だろうと思い、ちょっとだけ指に付けて舐めたところすごく妙な味がした。これってもしかして化学調味料では? いや、きっと化学調味料だ!


 ベーコンをスライスして、それをもう少し小さく切ったあと、キャベツをザクザクと切っていく。

 大型フライパンを加熱板の上に置いて加熱してから油を垂らし、ベーコンを入れてヘラでかきまわして火が軽く通ったらキャベツを入れてやや強めの火力で炒めていく。


 ある程度炒めたら、塩コショウ。今まではここまでだったが、今回は化学調味料がある。先っちょに穴の空いた容器があればよかったが、ないので化学調味料の入った瓶に手を入れて少量摘まんでパラパラと振りかけた。

 そのあとヘラでかき交ぜながら、キャベツに火が通ったところで加熱板を止めた。



 大き目の平皿を4枚調理台の上に並べてトカゲの唐揚げを数個ずつ置いていき、唐揚げの脇に野菜炒めを盛った。盛り付けが終わった順にキューブに収納しておく。


 スープを深皿によそってこれも収納。パンもスライスして、ケチャップも小皿に用意して収納しておく。

 これでエリカたちが風呂から出たらすぐに食事できる。

 彼女たちが風呂から上がるまで俺は台所の後片付けをしておいた。


 片付け終わってソファーで休憩していたらエリカたちが風呂から上がって髪の毛も乾かし俺のところにやってきた。

「ふー。気持ちよかったー」

「準備は終わっているから、フォークとスプーンだけ用意してくれるかい?」

「うん」「はい。エド、ありがとう」


 俺は一度収納していた料理をテーブルの上に出していくだけなので、あっという間に食事の準備は終わった。


 スリットから外を警戒していたペラも呼んで「「いただきます」」


 食事しながら、これからの方針を話し合おうと思ったのだが。


「なにこのベーコンとキャベツの炒め物! なんでこんなにおいしいの!?」

 俺も少し食べてみたが、確かに一線を画するおいしさだ。

「食料庫の中に、変わった味がする粉があったんだ。試しにちょっとだけ振りかけたらおいしくなった。ホントにちょっとだけなんだけどな」

「そんな不思議な粉があるんだ。売れるほどあればものすごく儲かるはずだけど、残念だわ」

「売れるほどで思い出したんだけど、二人が風呂に入っている時、食料庫を点検したんだ。

 そしたら使ったはずの食材なんかが全部補充されていた。

 今話した粉は新しく補充されたみたいだ」

「それホント?」

「ホント。雑貨倉庫も調べたんだけど、雑貨も補充されてた」


「つまり、わたしたちウーマの中にいれば働かなくても一生食べていけるって事だよね」

「多少の不便はあるかもしれないけれど、そうだと思う。それでなくてもあの金貨があれだけあるわけだから働かなくてもいいとは思うけどな」

「そうだったわ」


「それはそうと、これからどうしようか?」

「この柱の上に上っていくのがこのダンジョンを潜っていくことになるんでしょうけど、モンスターがいるわけじゃないし、つまらないわよね」

「まだ見ていない階層にはモンスターがいるかもしれないけど、似たような階層が続くのは確かだろうな」

「真面目に次の仕事を探す?」

「どんな仕事?」

「そうねー。うちのお父さんのような仕事はしたくないし。

 大森林の開拓でもする?」

「それならこの階層の開拓の方がいいんじゃないか?」

「確かに。エドが木をどんどん収納していけば土地はいくらでも広がるんだものね。

 それにモンスターはおろか猛獣なんかもここにはいないみたいだし」

「うーん」


「話は変わりますが、今度のエドの指輪はどうです?」

「今のところ何の効用もないんだけど、どうもこの指輪はあのクモにとって主人の象徴みたいで、指輪の主人が交代したとか、俺のことをマスターと呼んでいた」

「ということは、それが効用いうことなんでしょうね。言い換えるとあのクモは相当役に立つ」

「今のところ海のものとも山のものともつかないけどな。

 そうそう、あいつは自分のことを神滅機械リンガレングって呼んでた」

「神滅機械?」

「神さまを滅ぼすカラクリって意味だと思う」

「女神像の下にいたのに?」

「女神さまの敵の神さまをたおすんじゃないか?」

「あー。なるほど。

 でも、もしそうなら、わたしたち、女神さまの敵の神さまと戦うことになるんじゃない?」

「そういった神さまが本当にいればな」

「それなら安心だわ」

 エリカは無神論者だったのか。しかし、神滅機械が現に存在しているわけだから、たおすべき神さまがいる可能性は否定できないのも事実。


 こういった真面目な話をしている間にも各人ちゃんと食事している。

 その中でペラだけは何も話さず食べている。それでいいんだぞ。


「なんだか大層な名まえだけど、リンガレングが何の役に立つのかは確かめた方がいいだろうな」

「エドはリンガレングクモと話ができるんでしょ?」

「うん。指輪のおかげだと思うけど話せるな」

「それなら直接聞いた方が早いんじゃない?」

「食事が終わって後片付けしたら聞いてみるとしよう」


「ところで、エド。今日のデザートはなに?」

「何も考えていないから、エリカの好きな物でいいよ。何食べたい?」

「そうねー。久しぶりに焼き菓子かな? 最近果物のこと多いし」

「了解」


 ……。


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