第138話 柱3
大好評のうちに本日の夕食を終え、片付けも終わった。
それで、今日の夕食のデザートとして柱の中で見つけて取っておいたバナナを出すことにした。
俺自身まだ一口も食べていないので味の保証はできないのだが、テーブルの真ん中に置いたバナナの一房から十分甘い香りが漂ってくる。
「この前柱の中で見つけたんだ。おいしそうだったから取っておいたんだ」
「おいしそうに見えるけど、これどうやって食べるの?」
「黄色い皮をむくんじゃないか。こんな感じかな」
俺はさも初めてバナナの皮をむくような「振り」からバナナを皮をそれっぽくむいてやった。
「うわ。実が出てきた!」
驚くほどのことではないが、とにかく俺が毒見役として一口かじってみた。
あんまーい! 生前食べたどのバナナよりも甘い。野生のバナナのくせに品種改良を重ねて甘くおいしくなった現代バナナを軽く超えているではないか!
俺がバナナを食べているのを見たエリカが、房からバナナを外し、俺の真似をして皮をむこうとするのだが、先っちょからむこうとするものだからうまくむけない。
「なんで皮がむけないのかしら?」
「エリカ、先っちょじゃなくて根元の方から皮をむけばいいんじゃないか?」
俺のアドバイスでエリカは根元の方からバナナの皮をむいた。
「ホントだ! 先っちょからじゃ皮がむけないけれど、根元からだと簡単にむけた。
中から出てきた白っぽいのがおいしそう。ちょっと舐めてみるかな。
舐めたくらいだと少し甘いくらい。ちょっと噛んで見よ。
なにこれ。おいしい!」
エリカの食レポに体の一部が反応するところだった。美少女の無邪気さがなかったら完全にアウトだった。
エリカの後に続いてケイちゃんとペラが房からバナナ外して、二人とも問題なく皮をむいた。
「この房だけじゃなくってまだまだたくさん房があるから遠慮しないで食べてくれ」
「うん」「「はい」」
俺とケイちゃんとペラは2本ずつ食べ、エリカだけ3本バナナを食べた。
「おいしすぎてお腹いっぱい。もうダメ」
「エリカは、ソファーで休んでなよ。後片付けはやっとくから」
「悪いけどそうする」
よほどおいしかったみたいだ。しかし、バナナの名まえどうするか? 俺が考えなくてもこういうのはエリカが得意そうだ。エリカの元気が戻ったら話を振ってみよう。
テーブルの上を片付け、ペラが見張りに立ったところで時刻はまだ午後7時。
これで今日の仕事は終わったのだが、さすがにここで眠ってしまうと今日中に目が覚めてしまう。
俺は時間つぶしも兼ねてペラのところに行き前方警戒を始めた。
前方の空にはワイバーンらしき黒い点が数カ所見えたがいずれも進行方向からずれている。
残念だ。だからと言ってわざわざ方向を変えるほどではない。
2時間ほどペラと並んで警戒してみたが山並みが迫ってきたくらいでそれ以外何も変わったことは起きなかった。俺はそろそろ寝ることにして後はペラに任せて寝室に向かった。寝室ではエリカとケイちゃんはもうぐっすり眠っていた。
翌朝。
既にウーマは山並みを越えていて、シルエットだった柱もちゃんと柱らしくなってきていた。
昼過ぎには柱のふもと、トンネルの入り口にウーマは到達するハズ。
そして、ウーマは予定通り昼過ぎに柱の根元に空いたトンネルの前に到着した。
いちおう早めに昼食を摂っていたので、俺たちはそこでウーマから降り、ウーマは小型化して歩かせることにした。
10分ほど歩き、穴を抜けたところでウーマを大型化して乗り込み、前回と同じくウーマを壁に沿って左回りに移動させた。
あと3時間で階段が見えてくるはず。
階段が見えるまで間、俺はスリットから見えたバナナとかマンゴー?パパイヤ?を採集していった。
バナナについてはエリカは『黄色い房のくだもの』と、命名した。それでは言いにくいので通常は『アノ黄色いの』になるようだ。
バナナは手を汚すことなく食べられるのでテーブルの上に置いておくことにした。好きな時に食べられる。ただ、ちゃんと消費しないと皮が黒く変色してしまうので、そしたら『アノ黒いの』に名まえが変わるかもしれない。そうはならないようにしないとな。
壁に沿ってウーマが歩き出して3時間弱。前方、柱の内側の壁面に沿って斜めに上がっていく線が見えてきた。階段だ。
階段の上り口前に止めたウーマから俺たちは降りた。
ウーマは小型化して付いてこさせようかと思ったが、小型化状態でのウーマの足の長さでは階段を上りづらそうだし、ウーマが何かの時に戦力になるわけでもない。なのでキューブの中に収納しておいた。
階段を上る時のフォーメーションは、俺、エリカ、ケイちゃん、ペラの順。
階段の横幅は2メートルちょっとで、1段の高さは20センチくらい。踏板の幅は30センチほど。きつい階段ではない。
下から見上げた感じ階段は壁に沿って上に向かってズーっと続いて天井の中に消えている。
結構な段数だ。
意を決して階段に足を掛けて一段一段上っていく。
階段の幅は2メートルちょっとはあるので決して狭いわけだはないが、壁の反対側に手すりがあるわけではないので極力壁に沿って上って行く。
高さにして30メートルも上らないうちから、だいぶ視界が開けてきた。
上っているうちにフラフラと壁際から階段の縁の方にズレてしまいハッとすることもあるが、さすがにハッと、で済んでいる。
階段をある程度上って柱の空洞を眺めたところ、空洞自体はジャングルに囲まれているがその中心部にどうやら空き地があるようで、木々が繁っていない空間が丸くぽっかり空いていた。
地面が見えているわけではないので、そこがどうなっているのか分からないが、その空き地はかなり広いと思う。覚えておこう。
「この階段、結構あるわね」
「でも、辛いってほどでもないです」
俺も最初段数を数えていたが、下の景色を眺めたりしているうちに訳が分からなくなってしまい段数を数えていない。
1時間半ほどかけて上り切った先は通路になっていて前方に扉が見えた。
もちろんどこにも赤い点滅は見えない。
扉の前まで通路を歩いて行って扉をよく観察したところ、扉は両開きなのだが今までのダンジョン内の扉と比べても断然がっしりとしていて、手で動かせる感じではない。
1階層のような階層が上に続いているのなら、この扉はエアロックの可能性があるので、やたらと収納してしまうと問題なので開け方を考える必要がある。
「この扉、どうするの? 押したり引いたりするような扉には見えないし、手で開けられそうな感じじゃないわよ。またキューブに収納するの?」
「この扉が壊しちゃいけない感じがするから、何とか開かないか調べてみる」
そう思って扉とその周辺を見回したら、予想通りというわけではないが、右の壁にそれっぽい大きさの真ん丸な穴が空いていた。
俺は腰に下げたバトンを引き抜きその穴に挿入したら、カチリと音がして俺たちの20メートルくらい後方、階段の下り口の手前で音もなく扉が閉まった。後ろにも扉があったということはやはりこの通路はエアロックと考えていいだろう。
後ろで扉が閉まってしまいエリカが驚いた声を上げたが、すぐに正面の扉が音もなく開いた。空気の抜ける音はしなかったが、エアロックに間違いない。
俺はバトンを穴から抜き出して腰に戻して扉を抜けたら、そこは1階層とそっくりに見えた。すなわち壁際に沿って環状に空き地がありその内側はジャングルに覆われた階層だった。
「俺の勘だが、この壁際に沿って向こう側まで歩いて行けばまた階段があるんじゃないか?」
「わたしもそう思う」
「これと同じ階層が頭上はるかかなたまで続いているのかもしれませんね」
俺もそう思う。
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