第139話 柱4、2階層


 エアロックを抜けた先には1階層と同じような階層、すなわちジャングルが広がり壁際の何も生えていない地面が続いていた。


 そこで思い出した俺は、おそらく階段の数を数えていたであろうペラに、段数を聞いてみた。

「ちょうど3000段でした」とのことだった。

 1段の高さは20センチくらいだったが1階層の天井までの高さは600メートルということになる。

 この柱の高さを仮に600キロメートルと考え、1つの階層の厚さを600メートルと考えると1000階層あることになる。


「いちおうここでも壁沿いに回ってみようか」

「そうね。どうせウーマに乗ってるだけだし。ウーマに乗って夕食摂ってたら向こう側に着いちゃうんじゃない?」

「向こう側に階段があったらどうします?」

「そしたら、階段前で止まって、明日の朝上るのはどうだろう?」

「エド、どんどん上に上がって行っちゃうの?」

「代り映えはしなさそうだけど一応上ってみようかなと」


「じゃあ、どこまで上がるの?」

「行けるところまでと言いたいけれど、もう1階層分上って代り映えしなければそれで十分だろうなー。そのあと1階層に下りて、階層の真ん中にあった空き地を調べてみようと思う」

「うん。そうしましょうよ。もしかしたら祠か何かあって女神像が立っているかもしれないし」

「そうですね」


 話がまとまったところでキューブの中からウーマを取り出し乗り込んだ。ウーマには1階層の時と同じように壁に沿って歩いて行くように指示しておいた。


 ペラには前方警戒を頼み、残った3人で夕食の支度を始めた。


 夕食は、トカゲの唐揚げ、残り物のソーセージのスープとパン。デザートはパパイアだかマンゴー。


 トカゲの唐揚げについては、それっぽいスパイスと食料庫で見つけたので、小麦粉と油と一緒に台所に持ってきた。


 まずはトカゲをぶつ切りにして、小麦粉と塩コショウ、その他のスパイスを適当に混ぜた唐揚げ粉を入れたボウルに入れてよくまぶし、一度大皿の上に並べておいてなじませる。何か足りない感じがするのだが思いつかない。揚げた後の反省で何が足りないか考えよう。


 10分ほど唐揚げ粉をトカゲ肉になじませ、もう一度粉をかけておいた。

 トカゲ肉をなじませている間にプライパンに油を入れて熱しておいたので、粉をかけたトカゲ肉を順に油の中に入れていく。


 一度フライパンの底に沈んだトカゲ肉が盛んに泡を吹きだしているうちに浮いてきた。

 きつね色になったところで、引き上げる。油をしみこませる何かがあればよかったのだが何もなかったので、下の方がべたつく可能性があるが、衣はカリッと揚がっているようなのでそこまで気にしなくてもいいだろう。


 いちおう揚がったトカゲ肉を試食しようとフォークを突き刺したところ、中から透明の肉汁があふれ出てきた。うまく中まで火は通っているようだ。

 フーフーしながら口に運んで半分かじってみた。雄鶏亭の鶏の唐揚げフライにかなり近いのだが、味がやや薄い上にやはり何かが足りない。


 何かそれっぽいあんかけ風のタレを作っても良さそうだが、タレは次回として、今回はケチャップでごまかすとしよう。

 待てよ。あんかけでピコーン! と、来たのだが、唐揚げには片栗粉を使うような気がしないでもない。というか、片栗粉を使うのではなかろうか?

 この世界に片栗の粉があるとは思えないが、前世でも片栗粉はジャガイモのでんぷんだったような気がする。イモのでんぷんなら食料品雑貨屋に売っているのだろう。というよりこれだけ何でもそろったウーマの食料庫の中にそれらしい粉があってもおかしくはない。


 視線を感じたのでそっちを見たらエリカが俺の口元を見ていた。無視だ無視。


 現在揚げているトカゲ肉は味は薄いし、何かが足りないのは確かだ。かといってマズいわけではない。いまさらどうしようもないので、エリカは放っておいて、このままどんどんトカゲ肉を揚げていった。


 唐揚げの付け合わせは、キャベツの千切りでいいだろう。

 揚げている合間にキャベツの千切りを作っていく。


 小皿には再度食料庫から持ち出したケチャップをスプーンで数杯分入れておいた。味が薄すぎると感じたらお好みでケチャップをつければいい。


 俺が黙々と揚げ物をしている間、エリカとケイちゃんは俺の手際を見て半分呆けていた。

 

 いちおう完成したところで、フライパンから空いていた小鍋に油をとってキューブにしまっておいた。

 

 平皿に唐揚げを適当に盛り付けて、そのわきにキャベツを盛った。ウスターソースが欲しいところだがない物は仕方ないのでマヨネーズを倉庫から持ってきてケチャップ同様小皿に入れておいた。これで唐揚げ関係は完成。


 スープを深皿によそって、パンも大皿に盛り準備完了。

 エリカとケイちゃんとで台所からテーブルに運んでくれ、全部並んだところで見張り中のペラを呼んだ。

 全員が席に着いたところで「「いただきます」」


 台所に立って約1時間で『いただきます』ができたことになる。


「このフライ、味が少し薄いから、この赤いのをつけて食べればいいと思う。キャベツにはこの白いのを付ければいいと思う。食料庫の中を見て回って思いついたんだ」

 それっぽいことを言っておいた。


 エリカが真っ先に唐揚げにフォークを突き刺してフーフーしながら一口食べた。

「これくらいの方がわたしは好き。でもちょっとだけ赤いのを付けてみるわね。……。

 なにこれ。おいしい。赤いのを付けた方が断然おいしい!」

 俺の見立てに狂いはなったようだ。実際唐揚げにケチャップを付けたら味の物足りなさが消し飛んでしまった。

「ほんとにおいしい」

「マスター、おいしいです」

 みんなに喜んでもらえると俺もうれしい。


「それで、生のキャベツの千切りにはこの白いのを付けるのね?」

「おいしいと思うよ」

「それじゃあ。……。

 キャベツって生で食べられることは知っていたけれど、白いのと一緒に食べるとおいしいのね」

 今度はドレッシングを作ろう。と、言っても簡単そうなフレンチドレッシングだ。油と酢とコショウ、それに塩と砂糖を少々入れて味を調えて良くかき混ぜればいい感じにドレッシングになると思う。その中にオリーブの漬物のみじん切りとかタマネギのみじん切りを入れてもいいかも?

 この『~になると思う』『いいかも?』というところが俺のブーストされた料理能力なんだろう。

 化学調味料(注1)とか出汁だしの素があればもっと味の幅が出ると思うのだが、ない物は仕方ない。


 知識チート持ちがこの世界に転生して化学調味料を作ってくれることを切に願う。おっ! これってレメンゲンが……。いやいや、転生じゃ、化学調味料ができるのはまだ何十年も先の話になってしまうので、転移でオナシャス。





注1:化学調味料

化学調味料という表現に対して不適切と感じる方がいらっしゃるかもしれませんが、エドモンド(山田太郎)のように料理の出来ない独身者が言葉として知っている調味料は味○素か化学調味料くらいなもので「うま味」とかの概念はまずありません。


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