第120話 解凍人間
13階層への階段前で巨人像を撃破したら宝箱が二つあった。片方の宝箱の中からには用途不明の陸ガメの模型が入っていた。陸ガメの内部はミニチュアの部屋になっていたのだが内部の広さが外から見たカメの大きさと比べてとんでもなく広い。謎の模型だが、今のところただの模型で何の役にも立たちそうにない。
「カメはとりあえず置いて、大きい方の宝箱を見てみよう」
二つ目の宝箱は左右が2メートル、前後が70センチ、高さは50センチほどあった。宝箱の材質はこれも銅に見える。見ようによっては高級棺桶なんだが果たして何が?
「これほど大きいと何が入っているのか気になるよな。俺たちにはキューブがあるから回収できるけど、この大きさに近いものが入ってるんだろうから普通じゃ持ち帰れないぞ」
「そうかもしれないけど早くフタを開けてみましょ」
「それじゃあ開けるぞ」
宝箱のフタを持ち上げたら、真っ白なマネキン人形が入っていた。一瞬死体かと思ってドキッとしてしまった。
マネキンの顔には造作がなく、のっぺらぼう。しかし体つきはどう見ても女性型だ。
「人形だよな?」
「人と同じ大きさの人形だわ」
「石像に似てませんか?」
「材質は石ではなさそうだけど、何だろうな? とりあえず宝箱から出して立たせてみるか。
エリカは足の方を持ってくれ。俺は頭の方を持つから」
「うん」
俺はマネキンの背中に手を入れて抱き上げ、エリカはマネキンの両膝に手を回して1、2、3で持ち上げ箱から出した。マネキンは見た目はかなり重いのではと思っていたのだが思ったほど重くはなかった。
エリカがマネキンの足を床につけ、俺がマネキンを支えてちゃんと立たせて手を離したら、マネキンはその場にちゃんと立った。ただの人形ではないことはそれだけで分かったのだが、ただ立っていられても何の役にも立たない。
このマネキン人形はダンジョンで見つかったお宝なので、ただの人形ではなく人並みに動くはず。カメが動かない現状これもタダの人形の可能性もあるが、カメと違ってこの人形の作りは精巧ではない。つまり、タダの飾りの可能性は低いと見た。
「ただの人形のハズはないから、どうにかすれば動くと思うんだよな」
「どこかを押せば動くとか?」
どこかにスイッチがあってもおかしくない。
とあるアニメでは女性型ロボットのスイッチがとんでもないところにあった(注1)のだが、俺がそれをこの人形で試すわけにはいかない。試せばこのチームは崩壊してしまう。
何かそれらしいものがないか見回したところ、マネキンの額の真ん中に丸い出っ張りがあった。スイッチに見えない事もない。
「この額のでっぱりを押してみよう」
そのまま押してしまうとひっくり返してしまいそうなのでマネキンの後頭部に手を添えて額のでっぱりを押してみた。
やっぱりでっぱりはスイッチだったようで額に押し込むことができたのだが、押し込んだら押し込んだまま戻ってこず、額の他の部分と区別できなくなってしまった。
しばらくマネキンが変化しないかと見たいたのだが、何も変化がない。これもまた謎物体となってしまうのか!? とか思い始めたらいきなりマネキンの目が開いた。のっぺらぼうではなかったようだ。
そして今まで真っ白だった体が、さながら冷凍したものが解凍されるように肌色に変化し始めた。つるつるてんだった頭部にいつの間にか銀色の髪の毛も生えているではないか! 眉毛もあればまつ毛も。そして……。
このまま完全に解凍されるとかなりマズいことになるような気がしないでもないが好奇心には逆らえない。
頭から解凍が進み、頭部がすっかり解凍された。現れたマネキンの顔は美少女の顔だった。
俺はまだ完全に解凍し切っていないマネキンの体が解凍されて行く様を至近でつぶさに観察していたら、何だかエリカの目線が気になった。
慌てて俺はキューブの中から毛布を取り出してマネキンあらため解凍人間にかけてやった。
「これ、人間みたいになっちゃったけど、どうすればいいんだろ?」
「毛布ってわけにはいかないから、何か服を着せたいけど、今回わたしは下着しかリュックに入れてないのよ」
「わたしもです」
「俺はズボンと胴着をキューブに入れてるからそれを着せるか。俺のだからちょっと大きいと思うけどないよりましだろ」
俺はロジナ村からはいてきた革のズボンと胴着をキューブから取り出しエリカに渡した。
「着せるのは、二人に任せる」
「うん。任せて」「はい」
二人がかりで解凍人間にズボンをはかせるのだが、意外と解凍人間の関節は軟らかいようですんなりズボンをはいた。そのあと胴着を着せたのだがこちらもすんなり着せることができたようだ。
「やっぱりブカブカだな」
「手足のすそはまくればなんとかなるでしょ。エド、ズボンのベルトの予備を持ってない?」
「持ってない。紐に類するものは物干しロープだけど、物干しロープでもないよりましだから」
そう言って物干しロープをエリカに渡し、いらなくなった毛布を回収した。
足元がはだしなのだが、俺のブーツだと大きすぎそうだから仕方ないか。
エリカは物干しロープを解凍人間のズボンの腰のあたりでぐるぐる巻いてそこで縛った。
「これでずり落ちないでしょう」
「服を着たから、後は動かすだけだ」
そうなんだが、先ほどのボタンスイッチは引っ込んだままで、もうスイッチの用をなすとは思えないしどうしたものか?
「このままじゃ困るけどどうすればいいと思う?」
「何か話しかければ、答えるんじゃない?」
「ダンジョン産なわけだから、ダンジョン語は分かるかもしれないけれど人の言葉がわかるかな?」
「試してみましょうよ」
「それじゃあ、何を話す?」
こうあらたまって人に話しかけるとなると困るよな。今日はいい天気だけど、調子はどう? 中学校の英語の教科書的な会話じゃおかしいし。ダンジョンの中で天気もクソもないし。
「何でもいいけど、そうねー。まずは名まえを聞くのが最初でしょ」
確かに。
「それじゃあ。
おまえの名まえは何ていうんだ」
「ペラ」
「あっ! ちゃんと受け答えしてしゃべった!」
「お前の名まえはペラでいいんだな」
「はい」
なんだかおもしろいな。
「それじゃあ、おまえは一体何なんだ?」
「ドライゼン帝国陸軍省兵器局開発、陸戦兵器 ドール
「ドライゼン帝国というのは何だ?」
「分かりません」
「陸戦兵器 ドール
「わたしの型式ことですが、それ以外分かりません」
中2病的でカッコいいのだが、何の意味もないようだ。それはまあいい。
「それでお前には何ができる?」
「敵の撃破です」
兵器というからにはそうなんだろうけど、素手で何するんだ? まっ、いっか。
「自力で歩けるよな?」
「はい問題ありません」
「じゃあ、俺たちに付いて来い」
「はい。ペラはあなたをマスターとして登録します。……。登録終わりました」
俺について来いと言ったわけではなく俺たちに付いて来いと言ったのだが、俺がペラのマスターになってしまったようだ。
「ペラはどう見ても人間なんだけど、ダンジョン産だから何か特別な力を持っているわけよね?」
「自分で兵器だと言ってるんだから戦闘ともなると真価を発揮するんじゃないか? 俺たち自身過剰戦力だけど、戦力はあるに越したことはないからな。
宝箱は片付いたから矢を拾ってそれからバトンを回収しよう。
そうだ、ペラを使って矢を回収してみるか。
ペラ、矢って分かるか?」
「はい。分かります」
「床の上に矢が散らばってるだろ? それを拾って持ってきてくれ」
「はい」
ペラは驚くようなスタートダッシュで移動して次々と床に転がっていた矢を拾って俺のところに戻ってきた。俺の動きより明らかに速い。これならかなりの戦力になるだろう。
今のペラの動きにエリカもケイちゃんも目を見張っていた。ただ、
その辺りはおいおいだな。
ペラから手渡された矢をケイちゃんに渡して、先ほどの予備の矢筒はケイちゃんからまた俺が預かっておいた。最初は置いておこうと思っていたペラの入っていた宝箱だが、ペラの寝床にいいかもと思ったのでキューブにしまっておいた。
「それじゃあ女神さまの部屋に戻ってバトンを回収してこよう」
俺たちが女神さまの部屋に移動していったが、何も言わなくてもペラは俺たちのあとを付いてきた。追加ですっかり意識から離れていたカメの模型が俺たちに付いて来た。
「エド、カメが付いてきてるのは知ってるわよね」
「うん。こいつは話せないとは思うけど、俺たちの命令を聞くんじゃないかな」
「あり得るわね。それでも話せるかもしれないから話しかけてみない?」
カメの口の形からして人の言葉がしゃべれるとは思えないが命令は聞いてくれそうだ。
「バトンを回収したら試してみよう」
注1:
ちょび〇ツ。昔はちぃの顔かわいかったんですが今見るとそうでもないような。
注2:ドライゼン帝国陸軍省兵器局開発、陸戦兵器 ドールmk9セラフィム
ドールシリーズ最終発展形。皇帝二コラ・トライゼン没後、マキナドールASUCAをまねて開発を進めるも帝国の不安定化のあおりを受け試作機12体のみで開発中止。
詳しくは真・巻き込まれ召喚外伝『ASUCAの物語』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054916821848 で。
[あとがき]
ダンジョンの景品ペラが登場したところで、宣伝:
『真・巻き込まれ召喚。 収納士って最強じゃね!?』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894619240 よろしく。
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