第121話 カメとペラと13階層
全員女神さまの部屋に入ったところで祭壇の穴に突き刺したバトンに手をかけて引っこ抜いた。
バトンを引っこ抜いてしばらく待ったが、壁は思った通りそのままだった。
バトンが13階層へのカギ的役割だけだったら壁は元に戻ったはずだから、逆に壁が元に戻らなかったということはバトンにはほかの役割だか効能があると思っていいだろう。
抜き取ったバトンはバトンホルダーに入れたので今度はカメとの対話だ。
まずは名まえだ。
俺はカメに向かって話しかけた。
「カメに名まえはあるのか?」
カメは首をもたげてそれから上下に振った。これは名まえがあるということなのだろう。
「カメは話せるのか?」
カメは首を左右に振った。
分かったことは、カメは俺の言葉がわかるがしゃべれないということ。
少なくともイエス、ノーは頭の動きで表せること。
イエス、ノーでもかなりの情報が得られるのだが、何を聞けばいい?
ペラのことを聞いておくか。
「カメはペラのことを知っているか?」
そしたらカメは首を左右に振った。知らないなら仕方ない。
ついでにペラにも同じことを聞いておくか。
「ペラはこのカメのことを知っているか?」
「知りません。マスター」
知らないなら仕方ない。
あと何を聞いておけばいいのか思いつかなかったのでそろそろ階段を下りることにした。
「それじゃあ階段を下りてみるか」
「エド、下に下りたらそこで野営でしょ?」
「そうだな。もういい時間だから、下に下りたらすぐに野営準備しよう」
俺たちは階段に向かって行き、俺を先頭に下りて行った。ペラとカメは俺のすぐうしろを横並びになってついてきた。
今までの階段はどこも特徴のない階段だったのだが、この階段は天井、壁、足元の階段全て黒い岩でできている。それでもダンジョンの坑道と同じである程度発光しているようで歩く分には支障ない。
いままで階段の段数はどこも60段だったのだが、60段過ぎても階段はまだまだ続いていた。
「この階段長いな」
「わたしたちならそれほどでもないけど、普通のダンジョンワーカーだと大きな荷物を持っていたら上りも下りもけっこう
「そうですね」
ペラは聞かれたことしか答えないようで俺たちの会話には参加しないようだ。
階段を下りているうちに150段を過ぎたあたりで数が分からなくなってしまった。それでも階段はその先ずっと続いている。
そのまま階段を下りて行ったら前方が少しずつ明るくなってきた。今までそんなことはなかったのでちょっと不思議だ。
階段を下り切ったところ、下は土の地面で、その先はところどころに灌木が生えているものの見渡す限りの大草原。そして、はるかかなたに山並みが青く見えた。
上を見上げると明るい青空が広がって真っ白な雲がところどころに浮かんでいたが太陽はどこにも見えなかった。
振り返ると階段の出入り口のある岩壁が果てしなく上に続いて青い空の中に溶け込んでいる。
もちろん岩壁は左右にも続いていて岩壁の先は青くかすんでこちらも空に溶け込んでいた。
エリカもケイちゃんも言葉もなく周囲に眺めている。
今下りてきた階段の段数だが、俺は途中で数が分からなくなったので試しにペラに聞いたところ、何も指示はしていなかったがちゃんと数えてたようで300段でした。と、答えてくれた。
何気にペラは有能だ。
階段を抜けた先が大草原だったわけだが、ここは本当にダンジョンの中なのか?
「ここって、ダンジョンの中だと思う?」
「階段を下りた先がこんなだなんて! ……。ごめんエド、今何か言った?」
「ここって、ほんとにダンジョンの中だと思う?」
「階段を下りてきたわけだから、一応はダンジョンの中なんじゃない」
「すごいところにやってきてしまいましたね」
呆けていても仕方がないし、考えも分からないものは分からない。
「何が出てくるかは分からないけれど、とにかくこの辺りで野営しよう」
周囲に植物は繁っているが動物の気配は今のところない。安心はできないが野営に不向きというわけでもなさそうだ。
太陽は見えないが、雲が流れている以上雨が降る可能性はあるのだろう。しかし今のところ雨が降り出す気配はない。もし降り出したら、階段に避難して雨宿りだ。
野営準備をする前にペラに食事できるのか聞いてみたところ、食事の必要はないができるとのことだった。
いくらロボットとはいえ、人型をしている者をただ一人食事ささずに俺たちだけで食事するのはすごーく気が引けると思っていたが杞憂だったようで何より。椅子を買いに行った時、予備も考えて4脚買っていて正解だった。
「テーブルと椅子を出すけど、前回予備の椅子を買っててよかったよな」
「そうよね。さすがはケイちゃんだわ」
「偶然ですから」
あの時点で仲間が増えるとか想像できるわけないものな。
いつも通り野営道具をひとそろいキューブから取り出し、俺はテーブルをセットして夕食の準備を始め、エリカとケイちゃんは寝床の準備を始めた。
何も言わなかったが、その間ペラは少し前進して周囲を警戒していた。
周囲の警戒も大事だが、俺とすれば、炊事、洗濯、お掃除ロボットが欲しかった。贅沢な望みだが本心ではある。
食事の支度はすぐに終わったので、見張りに立っていたペラを呼び食事を始めた。
食事中、カメはカメで俺のすぐ近くに控えている。何だかかわいいじゃないか。
「ペラについては、いずれ戦いで真価を見極めればいいと思うけど、謎はカメだな」
「エド、カメも謎だけど、この階層の方がもっと謎じゃない?」
「確かに。謎だけど、こういうダンジョンがあったと考えるしかないけどな。それより、これだけ広いと、下り階段なんて探せないものな」
「モンスターはやっぱりいるんでしょうか?」
「ここってダンジョンの中だろうからいることはいるんだろうけど、いそうな感じはしないよな」
「それは言えてる。
それもそうだけど、今の時間そろそろ日が沈んで暗くなってる時間なのに太陽がないから逆に暗くもならないし、ここって夜が来ないんじゃない?」
「太陽がない以上太陽は沈まないわけだから夜はなさそうだな。それでも寝ないわけにはいかないだろ?」
「それはそう」
「そういえばペラ」
「はい」
「ペラは寝る必要はあるのか?」
「ありません。ただしメンテナンスのために10日に一度程度わたしが収められていたメンテナンスボックスに1時間程度入る必要があります」
あの宝箱はただの宝箱ではなくペラのメンテナンス用の箱だったのか。回収していて正解だった。
「それじゃあ、ペラに不寝番を任せていいわけだ。
となると、3人揃って8時間寝ることができる」
「そうなると今までと比べて4時間余裕ができるわけよね」
「うん。そうなる。休憩時間を多めに取って、2時間程度行動時間を伸ばそうか? 夜寝るのは早いから朝が早くなる感じだろうな」
「それでいいんじゃない。
それより、この大草原をどうする? これだけ広いとどこかを目標にしないと何もできないわよ」
「ここからダンジョンギルドまで戻るのに歩いている時間だけで6時間はかかるわけだから、明日1日進んだら明後日にはそこから引き返すしかないよな」
「もしかして、このダンジョンの最下層ってここかもしれませんね」
「うん。ある得るな。下り階段なんて探せそうもないのは、ないからかもしれないし」
確かにケイちゃんの言う通りここがこのダンジョンの「上がり」なのかもしれない。そうかもしれないが、あの女神像がどこかで俺たちを待ってる気がするんだよな。そこが本当の意味でこのダンジョンの上がりのような気がする。
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