第119話 3度目の12階層2、巨人像と宝箱
12階層の各部屋を丹念に見て回って、今度は女神さまの部屋の前に立った。
「3、2、1(収納)」
扉を収納で引きはがした部屋の中を見ると、やはり正面の壁に沿って置かれた祭壇の上には女神像はなかった。
今回は部屋の中、特に壁の異常を調べるのが目的なので俺は祭壇のある正面の壁を担当し、壁を叩こうと祭壇に近づいて手を伸ばして何気なく視線を落としたら、祭壇の真ん中、女神像が置かれていた場所に穴が空いていた。
穴の大きさはちょうど俺が腰に下げているバトンの太さくらいだ。穴があれば棒を突っ込みたくなるのが人情なので俺は先っちょだけと言わず奥までバトンを突っ込んでやった。そしたらバトンは10センチほど残して穴の底で突き当り、カチリと底から音が響いた。
間をおかず足元から重いものがこすれるような音が伝わってきた。
何事だ! と思い周囲を見回したところ、俺の正面の壁がゆっくり下に沈み始めていた。
俺は一度鞘に納めていたレメンゲンを引き抜いたときには、エリカも双剣を構え、ケイちゃんもウサツに矢をつがえて何かが起こるのに備えた。
「気をつけろ!」と、口には出さなかったが、さすがはサクラダの星のメンバーだ。
壁が途中まで下がったところで壁の向こう側がはっきり見えた。そこはかなり広くて天井の高い大広間で、その中心に巨大な黒い像が立っていた。床に赤い点滅は見当たらない。
巨像の背丈は10メートルほど。武器の類は持っていない。アニメや特撮映画の怪物を見慣れていればそこまで巨大というほどではないのだろうが、接近して剣でたおそうか。ということになると途端に大きく見えてくる。
今のところ階段は見えないのだが、ここがおそらく下り階段部屋で巨像は階段前を守るモンスターだ。
「行きます」の声と同時に弓の弦が鳴ると同時に矢は巨像の顔に向けて一直線に飛んで行き、一度額に突き刺さったがすぐに落っこちた。
やはり大型のモンスターには矢は効きが悪いようだ。ダメージが入っていないようでもモンスターの注意が少しでも散漫になればそれはこれから突っ込んでいく俺やエリカにとってありがたい。
「ケイちゃん、気にせずどんどん矢を射てくれ」
「はい」
俺は預かっていた矢筒を2つキューブから取り出してケイちゃんの足元に置いた。20本追加だ。ケイちゃんが矢を射尽くすまでには片は付くだろう。というか、付けてやる。
「エリカ。俺たちは左右から突っ込んでいくぞ」
「分かったわ」
俺は右側から巨像に向かって回り込んでいき、エリカは左側から回り込んでいった。狙うは巨像の足首だ。はっきり言ってそこくらいしか狙えるところがないのも事実。
俺たちが巨人の両足に取りつき、切りつけようとしたら巨人は両足を持ち上げ俺たちを踏みつけ始めた。踏みつけられれば終わりなのだが、やはり動きは緩慢なのでそれほど脅威ではない。
踏みつけられたところで、切りかかりる。その足が軸足となりもう一方の足が持ち上がるのでその間は切りつけ放題だ。
とは言っても青銅製に見える足首の太さはゆうに5、60センチはあるのでそう簡単に切り飛ばせない。アキレス腱があるならそれを切断すればかなり有効なのだろうがそんなものはないようで足首の裏側に切れ込みを入れてもそれほどダメージを受けた感じはしない。切断するしかないようだ。
エリカと二人して巨人の足首に剣を振るっていたのだが踏みつけ攻撃を止めた巨人が拳を振り下ろし、振り払い始めた。
ふり下ろしだけなら余裕でかわせたのだが、振り払いは一種の範囲攻撃なので巨人に近づくことが難しくなってしまった。そうこうしていたらどうも今まで切り込みを入れていた巨人の足首の傷が回復し始めている。
俺は何とか巨人の後方に回込み一撃を加えたが踏み込みがどうしても浅くなり重い一撃を入れることはできず、エリカも俺同様攻めあぐんでいる。
「エド、もう剣で戦うのは止めて巨像の適当なところを収納した方が早いんじゃない?」
「すっかり収納のことを忘れてた。それじゃあ、足から順に『収納』」
両足首から先を失くした巨像はバランスを失って斜めに倒れ込んできた。
巨像の腕の間合いの外までエリカと退避してそこから床の上であがいている巨像をどんどん収納していき、最後に残った頭を収納してしまった。どこかで巨像の機能は止まっていたのだろうが区別はできなかった。これだけの量の青銅があれば大仏さまか巨大吊り鐘も鋳造できそうだ。
巨像が立っていた場所の先には下り階段が見え、そしてその手前に宝箱が二つあるのが見えた。そのうちの一つは今まで見た宝箱の中でずば抜けて大きい。もうひとつもそれなりに大きい。
ケイちゃんが俺たちのところまでやってきたので、一応先ほどの失敗を詫びておいた。
「いやー。すっかり収納のこと忘れて剣で突っ込んでしまった。済まない」
「わたしも忘れてたからエドのことは言えないわ。だけどホントに収納キューブって反則級のアイテムよね」
「その通りですね。ですが、それもエドが使いこなしているからですから」
「確かに。わたしじゃあんな使い方絶対無理だもの。
それはそうと反省は反省会の時でいいから、さっそく宝箱を見てみましょうよ」
「その前にバトンを回収してくる」
「バトンを抜いたら壁がせり上がってこないかな?」
「その可能性はあるから、先に宝箱の中身を回収してからバトンを回収してしまおうか」
「うん。さて何が出てくるかなー」
「まずは小さい方から見てみよう」
エリカのニマニマ顔を見てホッコリしつつ、小さい方の宝箱を観察した。
今回の宝箱にはカギ穴はなく材質はいつも通り銅のようだ。
俺は宝箱のフタに手をかけてゆっくり持ち上げた。
宝箱の中に入っていたのは、陸ガメの模型が入っていた。
「おもちゃのカメなんだけど、これをどうしろというんだろう?」
「こどものおもちゃというには精巧よね」
ただの模型ではないのは確かなんだが、ダンジョンの中でカメの模型が何の役に立つのか全く分からない。
「ケイちゃん、これどう思う?」
「ここまで精巧にできていること自体不思議ですから、ただのおもちゃではないのでしょうが」
「どこかにヒントがないかな」
そう思って板の上に載っていた模型を宝箱から取り出して床に置いてみた。
どこからどう見ても陸ガメだ。
うーん。すごいことはすごいし、精巧であるという意味だけでかなりの値段で売れそうだが、ただそれだけの模型なはずはないと思うのだが。
「透明な入れ物から出してみるか。動くかもしれないし」
「模型が動くかな?」
「石像が動いてたんだからこれほど精巧なカメが動かないはずないんじゃないか?」
「そう言われれば、そうかも」
俺は陸ガメの模型を両手で持ち上げたら簡単に持ち上げられた。だからと言って軽くもなくそれ相応の重さがあり、妙にリアルだった。
床に陸ガメを置いてみたが、当たり前に微動だにしない。
ラジコンならどこかにコントローラーとかあってしかるべきだがそんなものは、カメが入っていた宝箱の中にはどこにも見当たらない。
「おかしいな」
「やっぱりただの模型だったんじゃない」
「ダンジョンの中で見つかったわけですから何か役に立つと思うんですけど」
俺は床の上にスックと立った陸ガメを横の方から、前の方から、後ろの方から観察した。
そしてあることに気付いた。
まず、甲羅の側面にノゾキアナのようなスリットが付いている。
この陸ガメにはしっぽがない! 実際のところ陸ガメにしっぽがないのか普通なのか不自然なのかは分からなかったのだがとにかく俺はしっぽがないことを不自然に感じた。
横合いから陸ガメを観察すると自動車のハッチバックの切れ目のような筋が甲羅の左側についていた。
何かなと? と思って上からそこを指で押したら、ぱっかり、と、ハッチバックのように上に開いた。サイドハッチってやつか。
カメの甲羅のサイドハッチから中をのぞくと、中は居間のようになって応接セットが見えた。
そして、甲羅の周りに付いていたスリットはやはりノゾキアナだったようでそこから外が見える。
謎なのは後方にかなり広い部屋が並んでいることで、とてもカメの形状と大きさに合っていない。謎は深まった。
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