第118話 休日2。3度目の12階層
いちおう大鍋二つ分のスープとシチューを作り後始末を終えたところ、11時前だった。
昼まで何もすることが無くなったので、居間に移動して寛いでおくことにした。
居間と言ってもソファーを置いているわけではなく、座るのも食事用のテーブルに付属した椅子だ。
「お茶でも入れようか?」
「うん。お願いできる?」
「任せてくれ」
ダンジョン内ではないので陶器のティーセットをテーブルの上に置き。加熱板、ヤカン、水筒、お茶っ葉の入った瓶と並べてさっそくヤカンでお湯を沸かした。
お湯が沸く間にお茶菓子としてクッキーを小皿にとりわけてからポットにお茶っぱを入れて、沸騰したお湯をポットに注いだ。
しばらく待って茶こし越しにお茶をカップに注いでいき出来上がり。
さあ、召し上がれ。
「エド、ありがとう。
エドって、どこかのお屋敷のメイドさんも務まりそうよね」
「ほんとですね」
「料理人にもなれるしお屋敷メイドにもなれる男の人ってまずいないわよね」
そもそも男じゃメイドにはなれないだろ。
「昼食は一緒にギルドに行って食べるとして午後からはギルドから食材の買い出しに直接向かえばいいかな」
「うん」「はい」
お茶請けを食べ、お茶を飲み優雅でもない会話をする。
お茶を飲み終えて片付けが終わったところで昼食には少し早かったが家の戸締りをしてギルドに向かった。
ギルドホールに入って雄鶏亭に向かっていたら、後ろの方からエルマンさんが俺たちを呼ぶ声がした。
立ち止まっていたらエルマンさんが小走りでやってきた。
「どうかしましたか?」
「良かったです。これから食事ですか?」
「はい」
「申し訳ありませんが、食事が終わったらギルド長の部屋にお越し願えませんか?」
「構いませんが、どういった用件か分かりますか?」
「ただみなさんを呼んできてくれと言われただけなのでわたしでは分かりませんが、たぶん12階層のことではないでしょうか」
「はあ。分かりました」
「それではよろしくお願いします」
それだけ言ってエルマンさんは受付の方に帰っていった。
俺たちは雄鶏亭でいつもの席に着き、昼の定食と軽い飲み物を注文し、料理と飲み物が揃ったところで食べ始めた。
「12階層の何が知りたいのかな?」
「たぶん何でもいいから知りたいだけじゃないか」
「どこまで話します?」
「通路を含め全部石造りというところは話してもいいんじゃないか。金貨についてはゼーリマンさんに話しているんだからこれも話していいだろう」
「水薬は?」
「水薬のことも話していいんじゃないかな。女神さまと、バトンとか俺たちのリニューアルした装備のことは話さなくていいと思う」
「分かりました」
「あと罠のことはどうするかな?」
「何も知らなければ階段下の最初の部屋で犠牲者が必ず出るわけだから話した方がいいんじゃない?」
「だけど、女神さまの話をしないといけなくならないか?」
「そういえばそうね。しかも女神さまの像はいなくなってたし」
「根ほり葉ほり聞かれたとしても、答えたくなければ答えなくていいのでは」
「そうだけど、なるべくこことは仲良くやっていきたいからなー」
「ケイちゃん。わたしたちは何も言わず、リーダーのエドに任せてしまいましょ」
「分かった。俺が受け答えするよ」
リーダーとしての責任だもの仕方ない。俺が適当に応対しよう。
食事を終えた俺たちは、ホールを横切って階段に歩いて行き2階に上って奥の方にあるギルド長室の前に立った。
「サクラダの星の3名やって来ました」
扉の前で中に向かって声をかけた。
『入ってくれ』
中から声がしたので部屋の中に入りギルド長が勧めるままにソファーに3人並んで腰を下ろした。
「わざわざ済まないな。お前たちが12階層に進んだって聞いたもので、12階層がどんなものだか聞いておきたかったんだ。
その前に11階層から12階層への階段前にはモンスターはいたのか?」
「はい、いました。黒いスライムが5、60匹」
「その黒いスライムを全部たおしちまったのか?」
「はい」
「その黒スライムはどんな攻撃をしてきた?」
「毒を吐き出すところは通常のスライムと同じですが、はるかに強い毒のようで岩に付くと岩が泡を吹いていました。潰れた後の粘液も同じように岩が泡を吹いていました」
「なるほど」
「付け加えると、その泡から出る蒸気も毒みたいで俺たち3人とも顔や手が見える範囲で黒くなってしまいました。たまたま黄色の水薬を持っていたのでそれを飲んだら簡単に治りました」
「それで、その黒スライムはもういないんだろ?」
「次行った時出てこなかったからもう出てこないと思います」
「黄色の水薬を持っているダンジョンワーカーチームはそれほど多くはないから安心した。
それで12階層はどんなところだった?」
「12階層は11階層までの洞窟と違って石造りの部屋と石造りの通路からなる階層でした」
「ほう。よその国のダンジョンではそういったダンジョンがあると聞いたことがあったがサクラダダンジョンもそうだったわけか。
他に変わったところは?」
「落とし穴の罠がありました。それもいたるところに。穴の深さは上から見ただけでは分かりませんでした」
「罠があったとは。確かに石造りのダンジョンには罠があると聞いたことがある。
しかし、お前たちは無事だったわけだが、罠を見つけられたということか?」
「はい。なんとか。勘がいいもので」
「勘か。それではどうしようもないな」
「どの石室も通路も床は1メートル四方の床石で敷き詰められているんですが、穴がないところの床石の下は岩で、落とし穴の上の床石はもちろん下は空洞なので叩けば音が違うかも知れませんし、ハンマーでたたけば落とし穴が開くかもしれません」
「なるほど。よくわかった。ありがとう」
「それじゃあ失礼します」「「失礼します」」
ギルド長室を出た俺たちはそのまま1階に下りていった。
「エド、任せちゃったけどありがとう」
「エド、ありがとう」
「大した話じゃなかったから。
それじゃあ、買い物に行こうか」
俺たちは1階のホールを出入り口まで横切って行き、大通りに出て商店街に向かった。
リュックは手にしていなかったが、キューブの中に入れていたので知らぬ間に俺の手にリュックは握られていた。
商店街では食料品を補充していき結構な量の買い物をした。荷物についてはある程度リュックに積めた後はリュックに詰めるふりをしてキューブに収納していった。
今回はかなりの買い物をしたので当分食材を補充しなくて済みそうだ。
翌朝。俺たちは3回目の3泊4日の12階層ツアーに出発した。
途中1回の小休止と昼休憩を挟み7時間弱で12階層の階段部屋に到着した。11階層の天の橋立はかろうじてどこも水没していなかったが念のため壁から石材を抜き取ってそれを橋の上に並べ補強しておいた。以前石材を抜きっとった個所は元通りかどうかは分からないが石材を抜き取った跡は残っていなかった。
小島に渡り階段を下りて12階層の階段部屋で小休止した。
「ここから3時間ほど石室を再確認していき、適当な石室で野営しよう。3時間だとここから1時間の範囲を調べるのは厳しいけれども、30分くらいの範囲ならいい線調べられるだろう」
「そうね」「そうですね」
10分ほど小休止し、階段部屋から通路に出て自動地図を見ながら復活している最初の扉の前に立った。
レメンゲンを鞘から引き抜き、飛来するかもしれない矢に備える。
「3、2、1、(収納)」
目の前の扉がキューブに収納され部屋の中が見えたと思ったら、弓の弦の鳴る音と同時に矢が俺に向かって飛んできた。中身のモンスターも復活していたようだ。俺が飛んできた矢をレメンゲンで払う少し前に俺の後ろで弓が鳴り、俺が矢を払ったときには、部屋の中にいた石像は額をケイちゃんの矢で砕かれていた。
額を砕かれた石像はゆっくりと後ろにあおむけに倒れていき、床に当たって砕けた。
「宝箱がないな」
「宝箱は前回回収したじゃない」
「石像も復活してたからてっきり宝箱も復活するのかと思ってたんだけど違ったのか」
「宝箱が復活するなら取り放題じゃない」
「そう言われれば確かにそうなんだけど」
俺のこれ関係の知識は偏った小説からのものなのであまり意味はないのだが『常識』として頭の中にあるのでときおり現実とギャップを感じてしまう。
宝箱はそれだけの話なのだが肝心なのは、石室の中に隠された通路的なものがないかを探ることなので、3人で壁を叩いてみたが、異常は見つからなかった。
「ここはいいみたいだな。次に行こう」
「この調子だとだいぶ時間がかかりそうだわね」
「それでも地道に行きましょう」
「それしかないものな。俺の勘だけどけっこう早く見つかるんじゃないか?」
「それならいいけど」
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