第117話 休日
渦を抜けてギルドにたどり着いたところでちょうど街の鐘が3度鳴った。
今回も買い取りコーナーに持っていくものはなかったので、まっすぐクマの懸賞金をもらうため受付のエルマンさんのところまで行った。
終業時間をだいぶ回っていたけれどエルマンさんは残業中だったのか対応してくれて小袋に入った街からの懸賞金を渡してくれた。小袋の中身は金貨10枚だった。金貨1枚をチームの貯金として3枚ずつ分けた。
特に賞状などはないようで、あっさりしたものだった。その方が楽でいいのは確かだ。
エルマンさんに礼を言って、反省会を始めるべく雄鶏亭に向かった。
いつもの席に着いたところでウェイター兼店長のモールさんが定食をテーブルに運んで来てくれたところでエールとつまみを頼んでおいた。
直ぐにエールと簡単なつまみがテーブルの上に並んだので「「かんぱーい!」」
「今回も階段を見つけられなかったけれど、12階層は広いなー」
「今まで30分も歩けば次の階段だったから、もしかして階段下の近くを見落としていないかな。特に階段下から30分くらいのところで」
「地図はよく見てるつもりなんだけどなー」
「エドが見落としているというより、階段が隠されている可能性はないでしょうか?」
「次回は目で見るだけじゃなく、壁も叩いたりして当たってみようか?」
「近くから初めて行って、階段から1時間くらいまで見てやれば十分じゃない?」
「うん。そうだな。そのつもりで行こう」
「今回の反省はこんなところかな。
それで明日の予定だけど、明日は食料の補充と料理だな。まだ大鍋のスープは残っているけど、空いた大鍋が2つあるから作ってしまおう」
「食材はどうなの?」
「大鍋2つ分くらいなら足りるけど、補充してもいいな。パン屋に行ってお菓子も補充した方がいいし。俺は朝食を食べたら料理の前に防具屋にいって頼んでいたバトンホルダーができてるはずだからをもらってくる」
「分かった」
翌朝。
朝食を食べ終えた俺はダンジョンギルドを出たところでエリカたちと別れ防具屋に向かった。
防具屋では前回の女性店員が応対してくれ、引換証代わりの木札を渡して残金を払ったらすんなりバトンホルダーを手にすることができた。色の指定はしなかったが、黒に近いこげ茶色で、俺のイメージカラーと同じだった。
ホルダーの上部に剣帯を通すようになっているので一度剣帯を外してホルダーに通し、それから剣帯を腰に締めてからホルダーにバトンを突っ込んだ。バトンを入れる筒部分はややきつめだったので激しく動いても抜け出ることはなさそうだ。
俺は礼を言って店を出て家に帰っていった。途中、空樽を買うことを思い出したので、雑貨屋に寄り、空樽を2樽、ひしゃくを1本、そして小型の桶を3つ買った。荷物を持って店を出た俺は大通りから家に続く脇道に入って、そこで荷物をキューブに収納し家に帰った。
「ただいま」
『『お帰りなさい』』
エリカとケイちゃんは台所にいたようで、ストーブに火をおこしてくれていた。
「バトンホルダー、いいじゃない」
「うん。しっかり入ってるから激しく動いても落っこちる心配もない。いい買い物ができた」
「しかし、このバトンは実際何なんでしょう?」
「いずれ分かって欲しいけれど、指輪同様謎のままかもしれない」
「エド、世の中なんでもかんでも分かってしまえばいいってものじゃないから、秘密の一つや二つ気にしないでいいのよ」
これは秘密とは違うと思うのだが。そういったことを言ったところで意味はないので黙っておいた。
「それじゃあ、エド、野菜を洗ってくるから出してくれる?」
俺は諸々下がった剣帯をキューブに収納して、代わりにイモとニンジンを取り出し桶に入れた。
エリカとケイちゃんがその桶と水洗い用の桶をもって水場に行って水洗いをしてくれた。
俺の方はその間にタマネギの皮をむきざっくり切って大なべに入れていった。
イモとニンジンが返ってきて、ケイちゃんが皮をむいてくれている間に、俺は羊肉を2、3センチ角くらいの大きさに切っていった。
その羊肉を大きなフライパンで軽く焦げ目ができる程度まで焼いて、焼いたときに出た脂と肉汁ごと大鍋に投入した。
そのころにはイモとニンジンの皮むきも終わっていたのでざっくり切って行き大鍋に投入して水筒から水を入れ、ストーブにかけてフタをした。
煮立ってきたら灰汁を取って塩で味付けするだけだ。
2つ目の大鍋はクリームシチューにしようと思っている。
クリームシチューなど当然作ったことはないが、いつものスープに牛乳と小麦粉を入れてとろみをつければシチューになるハズ。
牛乳は売ってなかったけれど、小麦粉は食料品雑貨店で売っていたので少なくともシチューはできる。ハズ。
「ちょっと足りないものがあるから、食料品雑貨店に行ってくる」
「何が足りなかったの?」
「小麦粉とチーズを買ってこようと思うんだ。
いない間に鍋が沸騰したら灰汁を取っててくれるかい」
「分かった。行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい」
俺は駆け足で食料品雑貨店に向かった。
食料品雑貨店で今回のシチューには関係ないがチーズの他にハムをまず店のカゴに入れバターがないか探したところ塩バターがあったのでそれもカゴに入れた。料理に使う分には塩バターで問題ないというか、逆においしいような気がする。チーズはうちの村でも作っていたヤギ乳のチーズを買った。これならとろけるはず。最後に量り売りの小麦粉を布袋に入れてもらい精算した。
食料品雑貨店から駆け戻ったらまだ大鍋は煮立っていなかった。水ではなくお湯を使えばよかった。
「チーズはあった?」
「うん、あった。ついでにハムと塩バターを買ってきた」
「塩バターって塩辛くない?」
「料理に使うだけだから、今までいれていた塩を減らせばいいだけだよ」
「確かにそうだし、料理の味はエドに任せてるからいいんだけど」
「きっとおいしくできると思うよ」
「期待してるわ」
そうこうしていたら最初の大鍋が煮立ってきたので灰汁を取り、味を見ながら塩を加えていき。これだ! というところでフタをしてストーブの脇に置き、二つ目の大なべに取り掛かった。
ケイちゃんに野菜をざっくり切ってもらっている間に、俺はトカゲの肉を先ほどと同じように2、3センチ角に切っていき、塩バターを入れたフライパンで焦げ目が付くまで焼いたら先ほどの羊肉の時とは明らかに違う香ばしい匂いが漂ってきた。
でき上ったトカゲ肉は、先ほどの羊肉と同じように脂と肉汁ごと大鍋に入れた。
バターを入れたことで、かなりおいしくできあがる予感がした。
材料を入れた大鍋をストーブの上に移し、今度は水筒からお湯を入れた。沸騰するまで火力は見るくらいで鍋自身は放っておいていいだろう。
次に俺はボウルの中に小麦粉を入れそこに水を入れて木のスプーンをヘラ代わりにして混ぜていき、小麦粉をといた。
大鍋が煮立ってきたところで、灰汁を取り、レードルで中身をかき混ぜながら小麦粉液を垂らしてとろみをつけた。
いい線とろみがついたところで味見しながら塩を入れていき、ここだというところでフタをしてストーブの火力を抑え煮込んだ。
最初の大鍋はそのころには野菜にも火が通ったようなのでキューブに収納しておいた。
チーズは鍋の種類に関係なくマグカップによそったあと、お好みで上から削ってかけてやればいいだろう。
二つ目の大鍋は15分ほど煮込んだところで野菜にも十分火が通ったようなのでキューブに収納し、ストーブの火を落とした。
「なんだかおいしそうな匂いだったわね」
「そうですね」
「エドの料理の腕前はどんどん上がっていくわね。将来料理人でもやっていけそう」
「まだ食べていないんだから。今度食べてからほめてくれよ」
「そうだったわね。
わざわざチーズを買いに行った割に、チーズは使っていなかったのはどうして?」
「器によそった後に削って入れようと思ったんだ。ヤギのチーズだから熱々のスープの上にかけたらとろけるから」
「へー。それは楽しみだわね」
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