第116話 12階層再び2


 3泊4日12階層の旅、2日目。


 新しい朝が来た。希望の朝だ!


 なぜか分からないのだが、ケイちゃんの声で目が覚めたら懐かしい音楽が頭の中に響いてきた。だからと言ってラジオ体操はしなかった。


 夜?の間に何も異常はなかったようだ。

 俺は2番バッターなので4時間ずつで睡眠が分断されているのだが、まったくそんなことは関係なく体調は万全だ。これも日ごろの魔力操作の訓練で寝付きが良いことのたまものなのだろう。


 水で濡らしたタオルで顔を拭いてさっぱりしたところで朝食の準備を始めた。

 俺が朝食の準備している間に、エリカとケイちゃんで毛布やその他の野営道具を片付けてくれている。


 朝食は簡単にスープとパン。で、済ませた。その代り、デザートとしてリンゴをむいた。

 今回はちょっと手を加え、ウサギさんに挑戦してみたのだが、初めてとは思えないほどの出来栄えだった。着実に俺の包丁さばきは上達している。

「エド、これ、何?」

 そう聞かれることは予想していた。

「それはウサギをモチーフとしたリンゴだ」

「ほー。確かにウサギに見える。エド、こんな才能もあったんだ!」

「ホントにうまいものですね」

「いやー、それほどでもー」

 俺はほめられればほめられるほど伸びるからどんどんほめてくれ。もちろん俺もほめるけどな。ほめるのはタダだし。


 ウサギさんリンゴをおいしくいただき、朝食の後片付けを終えた俺たちは装備を整えて、野営地としていた石室から通路に出た。

 赤い点滅を避け、自動地図を見ながら、これまでに入ったことのない領域の探索を始めた。


 2日目は一日を通して金貨とポーションをそれなりに見つけたが、それ以外のアイテムを手に入れることはできず、13階層への階段も見つけられなかった。


 歩きながら考えたのだが、この階層でも階段前にそれなりのモンスターが陣取っているとして、そこはおそらく石室の中だ。

 いつもの正方形の石室では狭すぎるのでそれ相応の広さのある石室だろう。

 そう思って自動地図を眺めてみたがそれっぽい空間は見当たらなかった。

 そう少し探索を続けて地図を完成させていかないと無理そうだ。



 この日の夕食は久しぶりにブタ肉をスライスして塩コショウしてフライパンでよく焼いた。焼いたブタ肉はいったんキューブにしまって、肉汁の残っているフライパンでナスとブロッコリーを焼き、付け合わせにした。エリカにもケイちゃんにも好評だった。

 


 3日目の朝。三ッ目の朝ともいう。


 朝食を終え準備を整えた俺たちは、野営地とした石室から通路に出て自動地図の空白地帯を埋めていく作業を再開した。


「3、2、1、(収納)」

 

 ……。


 午前中順調に金貨の詰まった宝箱とポーションの詰まった宝箱を回収していったが、昨日同様そのほかのアイテムは見つからなかったし、13階層への階段も見つからなかった。


 昼休憩を取った位置は、11階層への階段のある階段部屋までおおよそ10時間の位置。

 明日の夕方までにダンジョンギルドに帰還するために午後からは階段部屋に向かって移動を開始した。


 5時間ほど移動したところで野営地を定め、野営した。

 この日はスープの他、また牛肉でサイコロステーキを作った。付け合わせはキャベツ炒め。デザートはお茶と焼きリンゴを乗っけたパイ。底にスポンジが敷いてなかったしシナモン風味でもなかったのでアップルパイとはちょっと違ったがアップルパイと言えばアップルパイだった。


「俺のロジナ村じゃこういったものは手に入らなかったからなー」

「わたしのいたのは開拓村でしたから当然手に入りませんでした」

「わたしのとこは一応都会だったから、こういったものも売ってたわ。だけどここと比べて高かったと思う。サクラダってヤクザはいるけど暮らしやすいわよね」

「そうだな。金回りのいい街はたいてい物の値段も高くなりがちなんだろうけど、ここはそれほど高くないものな」

「この街はヨルマン領にとっては鉱山のようなものなので、税金が低めとか聞きました」

「俺たちも買い取り額で天引きされてるのかもしれないけれど、税金払っていないしな」

「ヨルマン領そのものが開拓主体で人を集めてるから、鉱山やサクラダ以外でも他と比べて税金は低いそうよ」

「わたしのいた開拓村は税は免除でしたし」

「そういえば俺のロジナ村も税はあまりとられていなかったんじゃないかな」

「これからもどんどんヨルマン領は発展してくんでしょうね」

 日本でいえば高度成長時代てわけだ、しかもここヨルマン領は資源が豊富だ。景気がいいことこの上ない。

「世の中の景気がいいことはいいことだな」

「そうよね。そうじゃないとうちの商会も儲からないし」


「そういえばこの前ヨーネフリッツがズーリに攻め込むとか攻め込んだとか話があったじゃない?」

「そう言う話あったな」

「どうなったかな?」

「負ける戦を仕掛けるのは愚か者だから、さすがに勝ったんじゃないか?」

「ズーリには気の毒だけど、ヨルマン領だけじゃなくってこの国全体も景気が良くなるわね」


 この世界では戦争を全否定する人間はまずいないだろう。そして侵略だろうが何であれ勝てば正義だと思っている。そういった意味では功利的で人間らしいとさえいえる。

 この逆も当然のように成り立つわけで、負ければ上から下までいたるところが大変なことになる。しかもそれがこちらから仕掛けたとなればなおさらだ。




 そして4日目の朝を迎えた。今日は帰還の日。これで帰ってしまうので四ッ目の夜は来ないことになる。残念だ。たぶん明日の朝は雨だろう。



 朝、水に浸したタオルで顔を拭いている時感じたこと。

 水筒から水はいくらでも使えるのだが、どうしても順番待ちになるし、使い勝手が良いとは言えない。次回は水樽を何個か用意しておき、ひしゃくですくえるようにしてやろう。

 こうやって一つずつノウハウが貯まっていき俺たちもベテランに成っていくのだろう。



 俺たちが野営した石室の位置は11階層への階段部屋まで約5時間の位置だ。

 そして階段部屋からダンジョンギルドまでは5時間かかる。

 したがって7時に出発したとして12時に階段下の石室に到着し、そこで1時間休憩をとり再出発したとしてギルド到着は18時ということになる。

 ちょうどいいと言えばちょうどいい時間だ。


 簡単にその辺りのことをエリカとケイちゃんに説明して野営地を後にした。



 途中小休止を1度取り、昼少し前に11階層への階段部屋に到着した。

 そこで昼休憩を1時間ほど取って出発。

 11階層の小島につなげた橋はまた数カ所で水没していたので床石を敷いて渡れるようにしてやり問題なく向こう岸まで渡ることができた。床石もだいぶ少なくなってきているので次回ここを渡る時は帰りのことも考えて壁から適当に岩を抜き取って使った方が良さそうだ。



[あとがき]

今回は難しかったでしょう。

https://www.youtube.com/watch?v=fE7SspUv0Yc

いきなり「三ッ目の朝」でおかしいと思われたでしょうが、これでこの歌を連想できたらかなりのツーです。

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