第114話 ダンジョン金貨
朝食を食べ終えた俺たちは、ギルドの鑑定士ゼーリマンさんに取り次いでもらうため受付カウンターに回ってエルマンさんの受付の順番を待った。
5分ほどで前の人物の対応が終わったところで俺たちの順番になった。
「サクラダの星のみなさん。ゴルトマンさんからクマの件は聞いていますが賞金はまだですよ」
「いえ、今日はその件ではなく、ダンジョンで変わった金貨を見つけたので、ゼーリマンさんに鑑定していただきたいと思いまして」
「そうでしたか。それではゼーリマンさんを呼びますので、前回の部屋でお待ちください」
「勝手に入っていいんですか?」
「はい。カギはかかっていませんから」
エルマンさんが席を立ったところで俺たちも階段に向かって移動し、2階の例の部屋に入ってリュックを壁際に置き、その上に各自の武器を置いてから席に着いた。
そんなに待つことなくゼーリマンさんが部屋にやってきたので俺たちは席から立ち上がってあいさつした。
「どうぞ椅子におかけください。今日は、金貨を見つけられたとか?」
「はい、これなんですが」
俺はそう言ってあらかじめポケットの中に入れていた例の金貨をゼーリマンさんの前に置いた。
「ほう。これは見たこともない金貨ですな。オークションに出品すればそれなりの値段で売れるでしょうが、この手のものは少なくとも金の含有量は調べておく必要があります」
それが最低価格に成るんだろうから当然だよな。
「見た感じは純金ですが、とりあえずこの金貨の金の含有量を調べてみますか? 通常ですと含有量の測定手数料は銀貨1枚いただいていますが、これの測定は簡単そうですし、皆さんですからいただかなくても結構です。
それと、当ギルドの場合、こういった物は金の含有量だけで評価した価格から1割の手数料を引いた値段で引き取れます」
つまり、希少価値はゼロで、鋳つぶした場合の価値で引き取るということだな。真っ当ではある。
「それならその金貨の金の含有量を調べてください。お願いします」
「承りました。この金貨はお預かりして結果が出たらエルマンに伝えておきます。結果は今日の昼までには分かりますから。その時に当方の買い取り価格を買い取りのゴルトマンに伝えておきます」
「分かりました」
「ちなみにこの金貨はどこで?」
「12階層で見つけました」
「12階層というと、まだ誰も行ったことのない階層だったような」
「はい。12階層まで下りたのは、わたしたちがおそらく最初だと思います」
「そうでしたか。なるほど。なるほど」
ゼーリマンさんが部屋を出て行ったあと俺たちも荷物を持って部屋を出て、階段を下りてギルドのホールに出た。
「やはり、純金みたいだな」
「そうね。そうなるとわたしたちますますお金持ちになるわよね」
「そうですね」
「ここでの用事は終わったから、椅子を見てこようか」
「そうね」
「はい」
ギルドを出た俺たちは家具屋に向かって歩いて行った。
家具屋ではやはり椅子は展示品しかなかった。そしたらまたケイちゃんが何事か店の人に言ったら、展示品の中から4脚椅子を買うことができた。3脚で良かったのだが、予備があれば何かの役に立つしな。
俺は椅子を二つ持ち、エリカとケイちゃんで椅子を一脚ずつ持って店を出てそこでキューブにしまっておいた。
「ケイちゃん。この前の時もそうだけど、お店の人になんていったの?」
「普通に売ってくださいと言っただけです」
「えー、それだけなの?」
「はい。それだけです」
ケイちゃんは何か交渉スキルのようなものを持っているのだろうか? ダンジョン内でのパフォーマンスに影響するような情報ならリーダーとして把握しておかなければならないが、交渉スキル自体がダンジョン内のパフォーマンスに大きな影響を与えるとは思えないし、個人情報保護の観点から根掘り葉掘り聞くわけにもいかないので俺は黙っていた。エリカもそれ以上は聞かなかった。
「とにかく、必要な物が買えたし、今日はここで解散ということにして俺はこれからバトンホルダーをみてくる」
「分かったわ、いってらっしゃい」
「はい」
結局ダンジョンギルドまで一緒に歩いたあと、家に帰って掃除でもしておくという二人とギルドの玄関前で分かれた。
俺はギルドの建物の角を曲がって工房街に歩いて行き、いつもの防具屋、ハインツ防具店に入っていった。
店に入ったら、今日は客が数人来店していて、前回俺がブーツを買いに来た時対応してくれた女性が接客していた。
その接客が終わるのを待って俺は来意を告げ、リュックから取り出した風を装ってキューブから取り出したバトンを見せた。
「これですか。引っ掛かりが大きくないのでメイス用のホルダーでは無理そうですねー。すっぽり入る筒状のホルダーを作るしかなさそうですが、いかがします?」
「ここに注文しておけばいいんですか?」
「はい。3日ほどででき上がります」
「分かりました。それでお願いします」
「それでは寸法を測ります。ホルダーを取り付ける剣帯は今されている剣帯でよろしいですね」
「はい」
店員の女性は前掛けのポケットから巻き尺を取り出し、俺が手渡したバトンの寸法を測り、同じく前掛けのポケットから取り出した厚紙のようなものに例の筆でメモを取った。俺の剣帯は標準的な物みたいで、特に店員さんは幅などを測ることはなかった。
「代金は銀貨2枚になりますので、前金として銀貨1枚お願いします」
俺は銀貨1枚を女性に渡し、代わりに引換証として番号の書かれた木札を渡された。
そこで思いついて胴着の替えとズボンの替えを買うことにして、店員さんに聞いたら売り場に連れていかれた。
着替えコーナーなどと言ったしゃれたものはないのでその場で上を脱いで胴着を試着し、
その場でズボンを脱いでズボンを試着した。
その時の店員さんは俺を見ていたが、目が輝いていたような、そうでもなかったような。
それで胴着を1枚と革のズボンを1本買い、よろしくお願いします。と、言って俺は店を出た。
これで、俺の用事も終わった。
二人が家の掃除をしているというのに俺が自分のことばかりではまずいので、俺も家に帰ることにした。
急いで家に帰ったらエリカとケイちゃんがモップで床の拭き掃除をしていたので、俺が床のモップかけをする代わりに二人には棚とかの拭き掃除をお願いした。
リュックやその他はキューブにしまってモップかけを始めたところ、窓の桟を拭いていたエリカが俺に買い物の首尾を聞いてきた。
「エド、ホルダーはどうだった?」
「すっぽり入る筒型のホルダーを注文してきた。
でき上りは3日後と言っていたから、ダンジョンに潜ってからの話だな」
「良かったわね」
その日の午前中はそういった形で家の掃除をして、ギルドで昼食を食べた後、ダンジョン金貨の鑑定結果を聞くため受付のエルマンさんのところに行った。
「純金とのことでした。ギルドでの買い取り価格はフリッツ金貨3枚と小金貨1枚です。
金貨はお返しします。大きな金貨ですね」
エルマンさんから布に包んで金貨を返してもらった。
「ありがとうございます」
「ところで12階層で見つけたという話でしたが、12階層ということは11階層の階段前を通過したということですよね?」
「はい」
「差し支えないようでしたら、その辺りのことを教えていただけませんか?」
「いいですよ」
情報は本来タダということはあり得ないのだが、いろいろ便宜も図ってもらっている以上こちらとしてもギブは大切だ。
「12階層への階段がある場所は泉の中の小島でした。
それで、その泉の中には数十匹の黒いスライムがいて俺たちに向かってきたんですが、なんとか全滅させ、そのあと小島に渡って階段を下りました」
「ありがとうございます。今の情報は公開してもよろしいですか?」
「いいですよ」
「ありがとうございます」
12階層の内部については聞かれなかったので話さないでおいた。
「そういえば、他のチームは11階層に進出しているんですか?」
「はい。詳しいことはギルドでも把握していませんが数チーム進出しているようです」
数チームということは、多くても5、6チームということか。順当なのかどうかは分からないが、そのうち12階層にも何チームか進出するのだろう。そのころには俺たちは13階層だ。ウワッハッハッハ。
「エドモンドさん、お顔どうかされましたか?」
いっかーん! エルマンさんに俺のニヘラ笑いを見られてしまったに違いない。
「なんでもないです」と答えておいた。
その時横に立っていたエリカの顔をチラ見したら、笑っていた。そりゃ笑うよな。
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