第113話 反省会
森でたおしたクマが賞金首だったとは知らなかった。賞金はいくらなのか分からないが、毛皮と肉を売るより高額なのは確かだろう。
すでに大金持ちになってしまった俺たちから見れば大した金額ではないかもしれないが、それでも思わぬところから手に入る現ナマはうれしいものだ。
それはそうと、賞金よりポーションの値段だ。金貨10枚か。黄色と赤のポーションがどこまでの病気に効くのか、どこまでのケガに効くのか分からないが、医療の発達した日本でさえ保険が利かなければちょっとした病気やケガでもとんでもない金額がかかるので安いくらいかもしれない。
ただ、俺たちの収納キューブにはすごい数のポーションが入っているんだよなー。
俺たちはギルドの裏庭にある倉庫から通りを回ってギルドに戻り雄鶏亭のいつもの席が空いていたのでいつものようにそこに座った。
武器類は足元に置いたリュックの上で、はずした手袋とヘルメットも武器類と一緒にリュックの上だ。
俺たちが席に着くやいなやウェイター兼マスターのモールさんが定食3人前をテーブルに運んできてくれたので、飲み物とつまみを注文した。
俺たちの真新しい胸当てとブーツを見てモールさんが何か言うのか? 言ってくれるのか? と、思ったがモールさんは何も言わず奥に引っ込んで、エールのジョッキを3つと簡単なつまみを持ってきてくれた。
「「かんぱーい!」」
つまみを摘まみ、エールを飲みながら今回手に入れた金貨のことや明日以降のことについて二人に意見を聞いた。リーダーとして。
「水薬については当面売る必要もないからいいとして、金貨はどうする?」
「わたし考えたんだけど、まずは鑑定士のゼーリマンさんに見てもらいましょうよ」
「そうだな。まかり間違えれば、希少金貨かもしれないしな」
「でしょ。希少価値は別として、金貨の価値は金の含有量で大体分かるはずよ」
「そうだな」
「これはわたしの勘だけど、あの金貨1枚で少なくともフリッツ金貨3枚分の価値はあると思うの」
「重さ的にもそんな感じだしな」
「エド、アレって結局何枚くらい手に入ったんですか?」
「宝箱で27箱。少なく見積もって1箱1000枚としても2万7000枚。1枚でフリッツ金貨3枚分の価値があるとすると、3人で割れば数は同じになるから一人当たりフリッツ金貨2万7000枚になる」
「そんなに!」
フリッツ金貨1枚日本円換算で10万円とすると、2万7000枚なら27億円ってことだものなー。
そんなに! って言うより、とんでもない! って感じが強い。
俺の今の説明を聞いたケイちゃんは目を丸くしていたが、エリカお嬢さまは目を細めてニマニマ笑いを始めてしまった。ここのところエリカは俺よりニマニマしてるんじゃないか? これをエリカに指摘するとマズそうなので黙っていよう。俺ってリーダーだし。
「それはそれとして、明日はお休みでいいよな」
「うん」「はい」
「この前のスープはまだ沢山あるから、料理はしなくてもいいし、次回も3泊4日としてどうしても補充しなくちゃいけないものはないと思う。
そういえば、12階層は石室で床がしっかりしてるから、椅子を持ち込んでもガタガタせずに使えると思うから椅子を買おうと思うんだ」
「立ちながら食べても構わないけど、座って食べられるんならその方がいいんじゃない」
「そうですね」
「家のテーブルには椅子が6脚あるから3つ持ちだしても足りるけど、新しく買った方がいいよな」
「家に誰か人を呼ぶわけじゃないからいいと言えばいいかも知れないけれど、あそこから持っていったら歯抜けになってみっともないわよ。第一、座っていて落ち着かないわ」
「分かった。とは言ってもダンジョンで食べる時は椅子は3つで十分だろ?」
「そっちはね」
「さっきのクマの賞金を貰いに行くのは次回ダンジョンに潜ったあとだな」
「そうね」「そうですね」
「明日は自由時間としたけれど、朝ここで食事したらゼーリマンさんに金貨を見てもらって、そのあと椅子を買いに行こう。椅子は売っていない可能性があるから、なければ注文だな」
「分かった」「はい」
「そういえばエド」
「なに?」
「エドのバトンだけどちゃんと剣帯から下げられるように革か何かでホルダーを作ってもらった方がいいんじゃない?」
「それもそうだな。明日防具屋に行って注文しよう。自分のところでは作っていないって話だったけれど、頼めばあそこからどこかの工房に注文してくれるよな?」
「たぶんそうなんじゃない」
「そうだよな。
後、他に何か決めておいた方がいいことってあったかな?」
「思いつかないなー」
「わたしもないです」
「それじゃあ、仕事の話はここまでで、今回の大成功を祝って大いに飲もう!」
「おう!」「はい」
「そうそう。わたしたちホントにこれからどうする? これからもずっとダンジョンワーカーを続けていく?」
「はっきり言ってこれほど楽な儲けはないような気がするんだが、儲けてどうするんだと言われると困るんだよな。あっという間にトップチームになったせいで、はっきりした目標がなくなったというか」
「問題はそれなのよねー」
「すごく贅沢な悩みですけど、実際困りますよね」
結局その件については結論の出ないまま、たらふく飲み食いした俺たちは荷物をまとめて雄鶏亭を出て家路についた。
家に帰って2階に上がり、二人の部屋の前で預かっていた二人のこれまでの防具を返しておいた。
翌日。
朝の支度を終えた俺たちは朝食を摂るためダンジョンギルドに向かった。
今日の俺たちはダンジョンに入るわけでもないのでもちろん普段着だ。俺の場合普段着と言っても上はいつもの胴着だし、下はいつもの革のズボン。
靴は3人ともダンジョンブーツではなく今まではいていたブーツをはいている。
いつも通り俺はレメンゲンを下げた剣帯を締めて、エリカは双剣、ケイちゃんは短剣を下げている。ケイちゃんのウサツと定数の10本矢の入ったダンジョン矢筒は、予備の矢と一緒に俺がキューブに預かって、予備の矢もいつも通りキューブの中だ。
何か買い物をするかもしれないと思っていたから、3人の中で俺だけリュックを背負っている。
ギルトに到着した俺たちはまっすぐ雄鶏亭に入っていった。いつも通り俺たちの定位置の4人席は空いていた。4人席のうちの1席の上に武器を付けたままの剣帯を各々置いき席に着いた。俺のリュックは俺の椅子の前の床だ。
俺たちが席に着いたらすぐに定食が運ばれてきたのでさっそく食べ始めた。
今日の朝の定食はハムステーキに温野菜。スープとパンだった。ハムは焼かなくても食べられるから、買っててもいいな。そうなってくるとマヨネーズと葉野菜を使ったハムサンドが食べたくなる。マヨネーズを作るには確か生玉子が必要だったはず。ニワトリの玉子自体手に入りにくいし、手に入ったとしても生じゃ使えないよな。いくらポーションがあるとはいえ、そっち方向で冒険したいわけではない。将来生で食べられるニワトリの玉子が出回るのを期待するとしよう。
こういった事柄は何でも他人任せだ。何でも他人任せなら、こいつもレメンゲンに頼んでしまえばいいんだ。お願い、レメンゲン!
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