第112話 12階層9、帰還


 3泊4日の12階層探索3日目の午後。


 昼休憩であれが欲しいこれが欲しいと適当にレメンゲンに頼んでみたら、頼んだもの全部手に入ってしまった。

 こうなったらまだ手に入っていないダンジョン防具が全部欲しくなるのは人情なので、レメンゲンにエリカとケイちゃんのブーツ。俺のグローブ、そして3人のヘルメットを頼んでおいた。


 その結果、その日の野営準備を始めるまでに全部そろってしまった。

 エリカは望み通り白で統一され、ケイちゃんは茶色、俺は黒に近いこげ茶色。

 3人の中でエリカが異常に目立つのは確かだが、本人の望みなのでいいんだろう。


 どの防具もダンジョン産なのでなにがしかの効能があるはずなのだが、身に着けて快適である以外の効能は俺も含めて誰も体感していない。


 なお、これまで各人が身に着けていた防具は全部収納キューブにしまっている。



 野営準備を終えて、テーブルを囲んで夕食を食べながら。

「ほんとに全部防具がそろってしまったわね」

「こんなことがあるなんて。レメンゲンっていったい何なんでしょうか?」

「律儀な魔剣なんだろうな」

「つまり、エドの魂の価値がそれだけ大きいってことの裏返しじゃない?」

「そう言うことなら納得できますね」

「もしかして、エドはこれからすごいことするのかも知れないわよ」

「今回のダンジョン探索で十分以上に儲けているし、これ以上すごいことってもうないんじゃないか?」

「そんなことないと思うわよ。エドは自分のことをどう思っているのか分からにけど、ダンジョンワーカーで終わる男じゃないとわたしは思っているから」

「それはわたしもです」

 いやに買いかぶられているが、リーダーとしてはうれしいことだ。その分責任重大であると肝に銘じなければならない。この逆だと組織運営は完全に破綻して目も当てられないからな。


「ギルドに帰ったら反省会しながらその辺りを話し合うとするか」

「そうね。実際のところわたしたち大金持ちは確かなんだからダンジョンに入る以外のこともできるんだから」


「遠い将来はいいとして、今回手に入れたいろんなものの効用がまるっきり分からないのが残念だよな。それでも防具は単純に防御力は上がった感じがするけど、あのバトンが全く意味不明なんだよなー」

「だから、いつも肌身離さずにいれば、そのうち何かわかるはずよ」

「たしかにそうなんだけど。全く見当がつかないんだよな」

「今度潜る時、12階層まで直接下りずに、5階層辺りで適当なモンスターを見つけてエドのバトンで叩いてみたらどうかな? 今回は宝箱以外石像とブロンズ像だったけどはっきりした生き物に対してなら何か効果があるかもしれないわよ?」

「じゃあ、次回試してみよう」


 そんな話をしているうちに夕食を終え、後片付けも終わった。


 毎度のことながら俺は2番バッターなので今日の3番バッターのエリカと一緒に毛布に横になって眠ることにした。表現的には一緒に毛布に入ったのだが、これはあくまでタイミング的な物であって、一緒の毛布といった場所的な意味はない。と、誰に言うわけでもない弁明をしていたら眠ってしまっていた。


 ケイちゃんに優しく起こされた俺は、防具を身に着けてレメンゲン付きの剣帯とバトンを持ち、ランタンと砂時計の前の、不寝番の定位置に着いた。


 耳を澄ませつつ、美少女二人の寝顔をたっぷり4時間堪能したところで、エリカを優しく起こし、俺は武器をとバトンを枕元に置き、防具を外して毛布に横になった。



 意識が遠のいていったっと思ったらエリカの声で起こされダンジョンアタック最終日の朝を迎えた。


 今日は帰還予定日なので午前中は11階層への階段部屋まで戻りそこで早めの昼休憩を取り、そこからギルドまで帰還することにした。帰還予定時刻は17時。

 そのことを朝食を摂りながらエリカとケイちゃんに説明しておいた。

「さすがはリーダー、いつも変わらずスケジュール管理がしっかりしているから安心」

「そうですね。他のチームは、ダンジョンに潜ったら行き当たりばったりでギルドに戻ってきている感じですものね」

 チームのスケジュール管理はリーダーとして当然なのだ。



 装備を整え野営地とした石室を出た俺たちは11階層への上り階段のある部屋を目指して歩き始めた。

 一度歩いたことのある通路を歩いている関係で移送スピードは速い。


 帰り道の通路では俺が床石をはいだ痕はどこにも残っておらず、赤い点滅がよみがえっていた。俺が回収したはずの鉄の扉も途中から元通りになっていた。思った以上にダンジョンの回復は早かった。


 結局途中モンスターに出くわすことなく階段部屋に11時少し前に到着できた。


 そこで簡単に昼食を摂って休憩し、60段の階段を上って11階層の小島に出た。


「エド、橋が沈んでる」

 

 エリカが言う通り、湖に渡していた埋め立て型の橋が半分くらい水没していた。ダンジョンに吸収されたようだ。スライムは一度一掃されたらもう湧かないようで気配はない。


「大丈夫。上に床石を置いていけば渡れるようになるから」


 俺は慌てることなく、大量に収納している床石を水没部分に置いていき、橋を渡れるようにした。


 ブーツの性能のおかげなのか用心しながら橋を渡ったのだが、全く足の裏が滑る感じではなかった。こういったところは地味にありがたい。


「収納キューブがないダンジョンワーカーだとここを泳ぐしかないのよね」

「そうだろうな。今は橋があるから渡れるけれど、そのうち橋が沈むんだろうから帰りには泳ぐしかなくなるかもしれない。もし、金貨が入った宝箱をリュックに入れたたら泳げないだろうから諦めるしかないだろうな」

「収納キューブさまさまだよね」

「そういうことだな」




 そこから5時間後。

 すっかり見てくれが変わってしまった俺たちがギルドへ戻ってきた。予想通りエリカは特に注目を浴びたが、本人は堂々としたもので胸を張って歩いている。

 今回は何も買い取りカウンターに持っていくものがなかったのだが、先日森でたおしたクマのことを思い出したので買い取りセンターに回った。


「この前森に遊びに行った時、クマが襲ってきたので返り討ちにしたんですが、買い取ってもらえますか?」

「サクラダの森のクマだと?」

「はい」

「大きなクマだったのか?」

「2メートル半くらいはあったかな」

「そのクマは、街で懸賞金を出してるクマだ。

 ここに出すとなると目立つから、倉庫に行こう」


 ということで3人でゴルトマンさんについて裏の倉庫に移動した。


「出します」


 キューブからクマを床の上に出した。


「こいつで間違いない。目玉が二つとも潰れているのは?」

「わたしが矢を撃ち込みました」

「また恐ろしいほどの腕前だな。こいつは街の懸賞首だから直接お前たちからギルドが買い取ることはできないが、ギルドで街に連絡しておいてやる。そしたら街の役人がこのクマを確認してそれから懸賞金がでる。2、3日待ってれば懸賞金が出るだろう。

 ギルドで懸賞金を預かっておいてやるから、4、5日したら受付のショーンのところに行ってたずねて見な」

「分かりました。ありがとうございます」

 そう言って帰ろうとしたら、ゴルトマンさんが俺たちに向かって「スゴイ装備に成ってるがどうしたんだ? まさか全部ダンジョンで見つけたってわけじゃないんだろ?」

「それが、一応」

「ホントかよ。そんなことがあるんだなー。

 まっ、しっかりやってくれ」

「「はい」」

「あっ! 忘れるところだった。

 ダンジョンでガラス瓶に入った水薬、黄色いのと赤いのを見つけたんですがアレっていくらくらいで買い取ってもらえるんですか?」

「どっちも金貨10枚だ。売るのか?」

「いえ、もしもの時のために持っておこうと思っています」

「あれは劣化しないから何年でも、何十年でももつ。持っておいて損はない」

「分かりました、ありがとうございます」「ありがとう」「ありがとうございます」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る