第111話 12階層8、胸当て
3泊4日の12階層探索3日目の昼休憩時。
胸当てが欲しいとレメンゲンに頼んでみたのだが、はたして。
休憩を終わって、装備を整え次の扉の前に立った。
「3、2、1、(収納)」
飛んできた矢をレメンゲンで払い、ケイちゃんの矢が部屋の真ん中に立っていた石像を砕いた。
石像の立っていた後ろに宝箱が見えたのだが、今回の宝箱は結構大きい。
「ほーら。あの大きさなら絶対胸当てが入ってるわよ」
絶対はないと思うけど、俺もエリカの言葉通り胸当てが入っていると思う。
さっそく赤い点滅を避けて宝箱に近づき、宝箱をよく観察した。
今回の宝箱にもカギ穴がついていた。ますます可能性が高まった。
今まで通り、カギ穴の周りに穴を空けて錠を壊し宝箱のフタを開けた。
「ほーら、ね!」
「ホントに入ってましたね!」
ホントに胸当てが入っていた。
これも俺が今はいているダンジョンブーツと同じく黒に近いこげ茶色で、両肩からエリ元にかけて補強され、首への横からの斬撃を防ぐようにエリ自体も上に立ち上がっている。
「これは男ものだからエドの胸当てね。早く取り換えてみてよ」
俺はその場で胸当てを取って、宝箱から出てきた胸当てを上からかぶり、エリカに手伝ってもらって脇に出ていた紐で各所を締めしっかり装備した。
「ピッタリだ。しかも軽い」
「良かったじゃない。引き締まって見えてカッコいいわよ」
「確かに素敵です」
二人にべたぼめされた。これは非常に気分がいい。
これもダンジョン産なんだから、何かの効能があるんだろうけど、全く認識できないのはブーツと一緒だ。でもいい物なのだろう。俺は父さんに作ってもらった今までの胸当てはキューブにしまっておいた。
「次はわたしかケイちゃんね」
「わたしは後衛なので、そこまで防具にこだわっていませんから、次に何か防具が見つかったらエリカが使ってくださいね」
「わたしは白い防具が出るまで遠慮しておくから、悪いけど白以外はケイちゃんが貰ってね」
「わかりました」
その部屋は行き止まりだったので、いったん通路に出て次の扉の前に立った。
「3、2、1、(収納)」
今度の部屋では矢は飛んでこなかったが、ケイちゃんの弓の弦が鳴って、前方の石像が砕けて以降はまるで同じだった。
「今度の宝箱もさっきの宝箱とそっくりよ!」
エリカの言う通り、大きさといいカギ穴があることといいほとんど同じに見える。ということは胸当てが入っている可能性が高い。
錠を破壊してフタを開けたところ、中から白い胸当てが出てきた。
「やったー!」
笑顔を浮かべて勝ち誇ったエリカの顔が実にかわいらしい。
「エリカもこの胴着に替えてみてくれよ」
「言われなくてもね」
エリカは胸当てを外して、白い胸当てを上からかぶり、各所をケイちゃんに手伝ってもらって胸当ての紐を結んでいった。
「おー。スゴイカッコいい」
「似合ってますねー」
「そう? 確かに軽いし、いい感じー」
ニコニコ生中継だよ。
この石室には入り口の他3方向に扉が付いていたのでエリカをせかして右の扉から見ていくことにした。
「3、2、1、(収納)」
飛んできた矢を払い、後ろでケイちゃんの弓の弦が鳴って、前方の石像が砕けた。
この部屋には宝箱はなかったので、今度は真ん中の扉だ。
「3、2、1、(収納)」
矢も飛んでこなかったが、部屋の中には石像もいなくて結構大きな宝箱が1つだけ置いてあった。
その宝箱が何個所か赤く点滅する床石と同じように点滅している。
「宝箱って点滅するんだ。罠だよね?」
「罠なんだろうな」
「どうすればいいと思う?」
「罠の種類は落とし穴じゃないだろうから、宝箱自体に仕掛けがあるんだろうけど、単純に壊してもいいんじゃないか」
「中身が壊れない?」
「ここからでもあの宝箱のフタは収納できるからやってみよう。そうすれば何か罠が作動するんじゃないか」
「ここにいればどんな罠でも心配ないものね」
「それでも何が起こるか分からないからエリカとケイちゃんは壁の後ろにいてくれるかい」
「了解」「はい」
俺は中に物が入っていても大丈夫と思える宝箱の上から5センチほどを収納キューブに収納することにした。
「いつものように3、2、1で収納するから。
それじゃあ、3、2、1、(収納)」
宝箱のフタを収納したとたん、宝箱の切断された面から赤い液体が噴き出てきた。
収納した蓋を足元に出したら、こっちの切断面から赤い液がにじみ出てきた。
何だこれ? 宝箱じゃなくって、どこかで聞いたことのある宝箱型のモンスターだったようだ。
気色悪いモンスターだったがこいつのおかげでモンスターへの抜き取り攻撃の実証ができてしまった。俺って攻撃力だけ見れば最強じゃないか?
俺がたおしてしまったモンスター宝箱の本体とフタは見てる間に萎んでいき、最後に黒い塊になってしまった。
「宝箱に擬態って、気持ち悪いモンスターだったわね」
「でも赤く点滅してくれていたから良かったですね。
これからこれが現れても同じ対応できますから」
「この階層は像しかいないのかと思ったけれど、こういったモンスターがいることも分かった。今後どんな種類のモンスターが出現するか分からないから気を引き締めて行こう」
「「はい」」
この部屋も行き止まりの部屋だったので、最後の部屋の扉の前に立った。
「3、2、1、(収納)」
扉を収納すると同時に弓の弦が鳴る音がして飛んできた矢を払い、後ろでケイちゃんの弓の弦が鳴って、前方の石像が砕けた。代り映えのしないシーンのあと、石像が立っていた後ろにラシイ宝箱が鎮座していた。
「絶対ケイちゃんの胸当てよ」
ここまでくれば俺も100パーセント確信を持ってケイちゃんの胸当てが入っていると思う。
宝箱に近づいて観察したところちゃんとカギ穴があったので、カギ穴を繰り抜いて錠を壊し、フタを持ち上げたところ、茶色の胸当てが出てきた。色から言ってもケイちゃんようだが、右肩から胸にかけて補強されていて、いかにもな作りになっている。
双剣を鞘にしまったエリカが腕を組んで頷きながらニマニマしている。
中国戦国時代の将軍が何かを眺めてニマニマしていた映画の一シーンを思い出してしまった。
「ケイちゃん、早く着替えてよ」
エリカが手伝ってケイちゃんが新しい胸当てを身に着けた。
「あー、はっきりとこちらの方が軽いです。それに軟らかいみたいです」
軟らかいと言っても、今までの胸当てよりも強度があるのだろう。
これで3人とも胸当てが揃った。
後は、エリカとケイちゃんのブーツ。俺のグローブ、そして3人のヘルメットでそろう。腿当てとか脛当てもあればあってもいいが、今まで付けていなかったし、俺たちダンジョンワーカーは軽装が基本なのでなくてもいいだろう。
そういうことなので、レメンゲンさん、オナシャス!
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