第110話 12階層7、お願いレメンゲン!


 レメンゲンにお願いしたら、俺がブーツを、エリカがグローブを手に入れた。

 残るはケイちゃん。この調子だとケイちゃんは指ぬきグローブとブレイサーを手に入れそうだ。

 それか、ケイちゃんの短剣は市販品なのでダンジョン物にグレードアップしてもおかしくない。


 そこからさらに数回扉を開けて金貨とポーションを手に入れた。


 そして今。やっとというほど待たされることなく、これまで見たことのない形の宝箱が目の前にある。

 平べったくて横長の宝箱には、カギ穴があり、俺はこれまで通り錠を壊してフタを開けた。

 宝箱の中からは期待通り指ぬき型の右グローブと、左腕用のブレイサーが出てきた。

 どちらも色は茶色だ。

「こんなことってあるんですね」

「レメンゲンに願いを込めれば何でもかなうのかしら?」

「全部が全部ってことはないんだろうけど、いつも言ってる通り願う分にはいくら願ってもタダなんだからどんどん願えばいいんじゃないか」

 支払い額は決まってるわけだし。いや果たして支払額は決まっているのか?

 支払うことが決まっているのは俺の魂一つ。ひょっとして俺がダンジョンで、いや、ダンジョンに限らず鍛えれば鍛えるほど俺の魂の価値って上がるのでは?

 

 今現在俺の魂の価値はどの程度なのか分からないが、レメンゲンは忠実に約束を守ってくれている。これは確かだ。俺からすると、俺には自分の魂の価値を計るすべはないわけだし、俺にとって俺の魂の価値などはっきり言って無意味なので考えても無駄と言えば無駄だった。


 ケイちゃんもさっそく手袋とブレイサーをはめて見てグーパーしたあとウサツに矢をつがえたりして様子を見た。

「うん。すごくいいです。エリカが言っていたように弓と矢を手のひらと指先に感じられます」


 いいなー。俺もグローブが欲しくなってきた。レメンゲン!

 それはそうと俺が剣帯に差しているこのバトンは一体何の役に立つんだろう。そこらで寝ている人間を撲殺するくらいしか役に立ちそうにないのだが?


 それから野営時間まで金貨とポーションを手に入れたが、それ以外のアイテムは手に入らなかった。


 エリカお嬢さまはグローブの効用を試したくてうずうずしていたようだが、ことごとくケイちゃんが石像を仕留めてしまって俺同様出番はなかった。

 それでケイちゃんにグローブとブレイサーの効用について何かわかったのか聞いたところ、よく分からないとの返事だった。達人の域に達してしまえば伸びしろはほとんどないものな。


 この日の野営地も行き止まりの四角い部屋で、位置的には階段のあった部屋から4時間くらいの場所になる。

 上り階段と下り階段が30分ほどの距離なら、既に踏破しているのでこの階層は今までの常識が通用しない可能性もある。要するに完全踏破する必要があるようだ。


 昨日同様、野営に先立ち赤い点滅の床石をはがしたあとに扉の鉄板でフタをしておいた。


 夕食を摂りながら3人で今日手に入れたブーツとかグローブの話をしたのだが、手や足に良くなじむといった漠然とした効用はあるものの、はっきりした効能は今のところ分からなかったようだ。


 いちおうはどれも防具なので、敵の攻撃を受けた時真価を発揮してくれるのだろう。と、いうあいまいな結論となった。

 


 この日の不寝番も俺は黄金の2番バッターを務めたんのうさせてもらった。ただそれだけだ。



 何事もなく翌朝。ダンジョンアタック3日目。


 朝食を摂り支度を終えた俺たちは、野営した石室から通路に出て12階層の探索を再開した。

 赤い点滅を避けながら次の扉に向かっていたら、前方から何かが近づいて来る気配がした。立ち止まって備えていたら前方の通路の角から動く像が現れた。

 今までの石像と違い色が黒く見える。こいつはおそらく石像ではなくブロンズ像だ

 俺とエリカが剣を鞘から抜き放ち、その後ろから弓の弦が鳴って矢が動く像に向かって飛んでいったが、矢はブロンズ像の額に突き刺さったもののそれだけでブロンズ像は歩き続けた。


「俺が行く」

「待って。わたしが行ってみる」

 エリカは20メートルほどまで近づいてきたブロンズ像に向かって赤い点滅を避けながら突っ込んでいき、俺はその後を追った。


 ブロンズ像は手に槍を持っていたのだが、この系統の特徴なのか非常に動きが鈍く、双剣を振るうエリカの動きに全くついていけない。数回エリカが双剣を振るったら槍は小間切れ、最後に首を刎ねられて床に転がった。

 エリカの後ろでエリカの動きを見ていた俺にエリカがひとこと。

「全然手ごたえがなかった」だそうです。

 いちおうエリカに二本の剣の刃を見せてもらったが、欠けたところはどこにもなかった。



 エリカによって刎ねられ床に転がった頭部から額に突き刺さった矢を引き抜いた。矢尻が多少は傷んでいるかと思ったが矢尻を含めどこも傷んでいないようだ。もし傷んでいたとしても少々のことならケイちゃんのダンジョン矢筒に入れておけば直るような気がしないでもない。


「青銅の塊りだけど、持って帰る?」

「わざわざ持って帰らなくてもいいんじゃない? すごい量の金貨があるわけだし」

「それもそうだな。それじゃあ、改めて扉を開けるか」


 先ほど回収した矢をケイちゃんに返し、扉の前に戻って「3、2、1、(収納)」


 ……。


 午前中の成果は結局、金貨とポーションだけだった。だけ。と、言ってもかなりの量なので俺たち3人が一生遊んで暮らせるくらいの金額の数倍に相当すると思う。ブロンズ像に遭遇したのはあの1回だけでそれ以外のモンスターは全て今までの石像だった。


 昼休憩の昼食時。

「アイテム欲しいわよね」

「あればいいよな」

「そうですね」


「それでエリカは、今度は何が欲しくなったんだ?」

「そうねー。胸当てかしら」

「確かに。防具と言う意味では一番大事だろうしな。それじゃあ、3人分の胸当てをレメンゲンに頼んでみるか」

「レメンゲンにエドが頼むとホントにかなっちゃうからある意味怖いけど、エドがいいなら頼んでみて」

 俺は剣帯ごと外していたレメンゲンを床の上にきちんと置いてそこに向かって2礼2拍手1礼し「レメンゲンさん、レメンゲンさん、俺たちに胸当てをお与えください」

 と、お願いした。

 いつものようにレメンゲンからは何の反応もなかったが、反応ないまま今まで願いがかなっているのでこれでいい。


「これで、午後からの探索でそれなりのものが見つかるんじゃないか。

 エリカは白銀の双剣と手袋に合うように白い胸当てが見つかればいいな」

「確かに。そしたら、ブーツもヘルメットも白くしないといけなくなるわよね」

「お金は沢山あるから、特注してもいいんじゃないか」

「それもそうだけど、もし白い胸当てが手に入ったら、そういったものも手に入るんじゃないかな」

「期待すればたいてい手に入るみたいだから、大いに期待していいんじゃないか」

「うん。そうよね」


 エリカが白ずくめになればかなりインパクトがある。是非その姿を見たいものだ。


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