第97話 新居2


 新居に越した初日。


 足りないものはまだあったが、順調に一つ屋根の下生活のスタートを切れた。と、思う。


 この日の夕食は3人でギルドに行って雄鶏亭で引っ越し祝いをした。

 店長のモールさんは俺たちが寮を出たことをエルマンさんから聞いたと言っていた。

 朝夕の定食はこれからタダのままだとも言ってくれた。


 定食と軽いつまみとエールがテーブルに並んだところで。


「「かんぱーい!」」


 俺たちはいつも何とか会ばかりやってるのだが。

 俺たちのことを知らなければ、新人のくせに景気がいい。アンド、態度がデカい。と、思っているんだろうなー。

 なんであれ、今までイヤミは言われたことはあるが、絡まれたことは一度もない。新人狩事件はあったがアレは元職員。ダンジョンワーカーのモラルはちゃんとしている。ということなのだろう。


「それで、明日はどうする?」

「明日は朝からダンジョン用の料理を作らない?」

「いいね、それ」

「お店も近いから、足りないものはすぐそろえられますしね」

「そうだね」


「それじゃあ、明日は料理の準備ということにして、明後日から2泊3日で潜ろうか?」

「うん」「はい」


「それで、俺のことなんだけど、年末にでも実家に帰って妹を連れてこようと思うんだ。いいかな、あの家に住まわせても?」

「そんなのあたりまえじゃない」「もちろん」

「二人とも、ありがとう」

「でも、急にどうしたの?」

「実は、今日お菓子を食べていた時、妹はああいったものを食べたことなかったなー。とか思ったら、急に食べさせてやりたくなったんだ」

「お兄さん、エライ」「ほんとです」

「妹がまだこっちに来たいと思っていて、俺の両親が諒承しての話だけどな」

「エドが実家に帰る前に、ダンジョンで水薬が見つかればいいわね。いいお土産になるわよ」

 そうか。すっかり忘れていたけれどお土産はあった方がいいものな。

「うん。早いとこ見つけたいな。10階層で見つかるって話だから11階層でも見つかるだろうし」

「宝箱が見つかったら、それこそ束になって入っているかもしれないじゃない?」

「それだとありがたいけどな」

「宝箱じゃなくてもきっと見つかりますよ」

「そうだ! 11階層の階段前のモンスター、どんなのがいるか今度見に行ってみようよ? 行けそうならやっちゃうつもりで」

「いずれたおさなければならないわけだし、やっちゃおうか?」

「そうですね」


 次の方針が決まった頃にはテーブルの上に注文したつまみがそろっていたので、俺たちは真剣に飲み食いを始めた。俺たちは体が資本もとでの現業だし。


 8時の鐘が鳴りしばらくして引っ越し祝いはお開きになりギルドを出てマイホームに向かった。


 家に帰って部屋に戻り下着になってベッドに横になったら新しい藁がシーツの下でペシパシと音を立て藁のいい匂いが漂ってきた。その匂いを胸いっぱいに吸い込み幸せな気持になって目を閉じた。



 翌日。


 今日は朝から料理を作って作り置きする予定だ。


 朝の支度を終えた俺たちは、6時の鐘を聞いて普段着姿で朝食を摂るためギルドに向かった。


 朝食の定食を食べ終えて、家に帰ってさっそく台所で料理を始めた。

 イモとニンジンをエリカとケイちゃんが桶に入れて井戸の前に持っていきそこで井戸水を使って水洗いしてくれた。これでかなり効率的になった。

 俺は、タマネギの薄皮をむいてからざっくり切っていき、大鍋の中に投入する。

 洗い終わったイモとニンジンは俺とケイちゃんで簡単に皮をむき、これもざっくり切って鍋に投入していった。


 野菜を鍋に入れたら水を入れ調理用ストーブの上に置いた。このストーブには2つ蓋のついた口があり、同時に2つ火を使う料理ができる。

 ストーブの中にはあらかじめ薪を入れ、下の方にほぐしたボロ布と藁クズを入れているので火打石と打ち金で簡単に火をおこせた。



 最初の鍋は豚肉で出汁をとることにした。


 ストーブの火の番はエリカに頼んで、俺は豚肉のブロックを2、3センチ角のサイコロ状に切って一度ボウルに入れていき、切り終わったら加熱板の上に載せて熱くした大型フライパンで表面にわずかに焦げ目ができるまで炒めた。

 炒め終わった豚肉を大鍋に投入してレードルで良くかき混ぜて蓋をした。


 沸騰するまでだいぶ時間がかかりそうなので、もう一つの大鍋でスープを作り始めた。

 野菜は先ほど半分使っただけなので、どんどん切っていき大鍋に投入。こっちの鍋の出汁はいつもの干し魚を考えているので、鍋の上で干し魚を適当に砕いて中に入れてやり水を入れて蓋をした。その大鍋を料理用ストーブの空いた口の蓋を取ってその上に載せて準備良し。これも沸騰するまで放っておけばいい。


 大鍋は二つしかないので、今度はステーキを焼いていくことにした。いつもはスライスした肉を焼いていたのだが、今回はサイコロステーキを作ることにした。これだと好きなだけ食べられるし、フォークだけ使えばいいので食べるのも楽だ。これはさっき豚肉を切っている時閃いたのだ。

 牛肉のブロックをキューブからまな板の上に取り出して先ほどと同じように、2、3センチ角のサイコロ状に切っていく。

 切り終わったまな板の上のサイコロの上から塩コショウをして、サイコロをひっくり返して再度塩コショウ。

 俺の料理の才能はどんどん伸びてきている。


 先ほど豚肉を炒めた大型フライパンをそのまま使って、牛肉のサイコロを炒めていった。

 これも表面が薄っすらと焦げ目がつくくらいまで炒め、でき上ったらボウルにとって収納キューブに収納しておいた。


 そのころには最初の大鍋が沸騰し始めたので、ケイちゃんが灰汁あくをレードルで何度もすくって取ってくれた。

 この鍋にはまだ塩気は入っていないので、俺は味をみながら塩を入れていき、これだ! というところで蓋をし、ストーブの隅に動かしてストーブの空いた口には蓋をしておいた。


 そのうち2つ目の鍋も沸騰し始めたのでこれもケイちゃんが灰汁をとって俺が味見して塩を少々加えて蓋をしてストーブの隅に動かしておいた。


 ストーブの火はもう消えるに任せても野菜には火が通るので、スープについては終了だ。

 大鍋いっぱいにスープがあれば2泊3日のツアーでは消費しきれないはずだ。


「せっかくだから大鍋をもう二つ買ってきて、どんどん作ってしまおう。

 雑貨屋に行ってくる。二人は火を見ながら留守番しててくれ。すぐに戻ってくるから」

「分かった」「はい」


 俺は急いで雑貨屋に行き、そこで大鍋を二つ買って、一つはリュックに突っ込みもう一つは突っ込むふりをしてキューブに収納した。このキューブだけど実際のところ際限はないのだろうか?


 大鍋を買った俺はマイスウィートホームに急いで戻った。


「ただいま」

「お帰り」「お疲れさま」

「最初の鍋だけど、火は通っているみたいよ」

「それならキューブに収納してしまおう」


 出来上がった大鍋をキューブに入れ、代わりにイモとニンジンを桶に入れて、エリカとケイちゃんに洗いに行ってもらった。


 俺は買ってきた大鍋を軽く水洗いしたあと、タマネギの薄皮をむいてザックリ切って鍋の中に投入していった。


 ……。


 最初の2つの鍋と同じような工程を経て、結局大鍋4つ分のスープができ上がった。


 鍋を煮込んでいる間に後片付けは終わっているので、薪をくべる口を閉じてストーブの火を落として台所仕事は終了した。ちょうど12時の鐘が鳴り始めたところだ。


「ここで昼食にする?」

「せっかくダンジョン用に作ったのに減らすのはもったいないから、ギルドで食べない?」

「それじゃあそうするか」

「そうですね」


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