第95話 引っ越し


 屋敷と言ってもいい借家の受け渡しが終わった。

「まずはベッドルームを決めよう。

 俺は最後でいいから、二人で決めてくれ」

 ベッドルームは2階に6部屋全部あり南向きに4部屋、廊下を挟んで北向きに2部屋ある。北向きの部屋はとりあえず物置だな。


「わたしもどこでもいいので、エリカが先に決めてください」

「じゃあわたしは東南の角部屋」

「わたしはその隣にしましょう」

「俺はケイちゃんの隣りかな」

 俺とすれば二人の部屋の真ん中希望だが、真ん中がない以上次善の選択だ。


「部屋も決まったことだし、寝具とか買いに行こうか」


 ということで家の戸締りをして俺たちはまず寝具を売っている店を探すことになった。

 ギルドの寮でも俺の実家でも藁をシーツにくるんだものがマットになって、掛布団はなく毛布だけだ。

 雑貨屋では毛布とタオルとボロ布は売っていたがシーツは確か売っていなかった。それに雑貨屋で売っていた毛布は野営用の毛布のようで服を着て寝ることが前提なのか、何の毛だか分からないがごつごつしていた。

 睡眠の質を上げるためもう少し柔らかい、せめて寮並みの毛布が欲しい。


「先に雑貨屋に寄って掃除道具とか食器を買おう。雑貨屋で寝具類を売ってる店がないか聞けば教えてくれるだろうし」


 俺は買い物用のリュックをキューブから取り出して手で持ち、エリカとケイちゃんと3人で雑貨屋に向かった。


 雑貨屋では一度食器類を買ってリュックに詰め、再度ホウキ、チリトリ、モップ、桶、それにひしゃくを3本ほど買っていったん店を出た。

 そのあと店の裏側に回ってそれらをキューブに収納し、再度店に戻って水樽を一人一つずつ合計で3個水樽を買った。水樽の精算時に寝具を売っている店は近くにないかたずねたところ、雑貨屋の裏の通りを商店街に向かって歩いて行けばすぐ左手にあると教えてもらった。

 3人で水樽を抱えて店の裏に回り、そこでキューブに収納した。


 そこから雑貨屋で教わった通り商店街に向かって歩いて行ったらすぐに寝具屋は見つかった。


 寝具屋にはシーツも毛布も置いてあり、更にベッド用の藁も束ねて置いてあった。もちろんもっと高級な羊毛の入ったちゃんとしたマットもあったが藁とシーツで済ませることにした。

 シーツを代えも含めて各自2枚、更に客用?に2枚で8枚、それに毛布も8枚、藁の塊りを8個。何度か店を出入りしてはキューブに収納してを繰り返して購入した。


「だいたいこれでいいかな?」

「あとは、薪ね」

「そうだった。さっき薪はどこに売っているか聞けばよかったな」

「じゃあ、わたしが歩いている人に聞いてみます」


 ケイちゃんが向うから歩いて来る男の人に駆け寄ってひとことふたこと言ったら、その人が指さしながら答えていた。俺もそうだけど、美人にたずねられるとたいていの人は気前よく答えるんだなー。

 ケイちゃんはその人に頭を下げすぐに戻ってきた。

「もう一つ向こうの通りの角に薪や木炭を扱っている店があるそうです」


 今度はケイちゃんが前になって歩いて俺とエリカが後に続いた。

 その店には話の通り薪もあれば木炭もあり、そして各種の調理ストーブのほか木炭用の小型調理ストーブも置いてあった。

 家の台所で調理したものをダンジョン内で食べようと思っていたのだけど、肉などはダンジョンな中で焼きながら食べたい。

 加熱板があるので実際使うかどうかは不明だが、薪と木炭のほか木炭用の小型調理ストーブを買うことにした。薪と木炭は住所を言えば届けてくれるそうだったので小型調理ストーブと一緒に届けてもらうことにした。

 何度も店を出入りすれば収納キューブにそういったものを収納できたが、それをせずに済んだ。


「それじゃあ、帰ろうか」


 何となく適当にこっち方向かなー。と、歩いていったらそんなに遠くなく俺たちの家があった。俺の方向感覚はやはりスゴイ。



 うちに帰って台所関係のものを台所に置き、そのあと、1階にあった物入に掃除道具。そして2階に上がって寝具関係を配った。


「よし、こんなものかな」

「ベッドを作ったら下に下りて食器なんかを片付けましょ」


 各自の部屋でベッドを作り、予備のシーツなどを作り付けのタンスの中にしまった。


 そのあと、1階に下りて食器類を台所の食器棚におさめ、鍋なども棚に並べていった。


「ずいぶんそれらしくなったわね」

「使ってみないと分からないけれど、台所は調理台も広いし使い勝手が良さそうだ。

 そうだ、水樽に水を汲んでくる」


 台所には直接井戸のある庭に出られる勝手口がついているので、そこから外に出て、手押しポンプで3つの水樽に水を汲んでキューブに収納し、台所に戻ってひしゃくと水樽を2つ置き、洗面所に回ってひしゃくと水樽を1つ置いた。


 家の中はピカピカに磨いてあったのでもう仕事がなくなってしまった。

「それじゃあ、ギルドに帰って私物を持ってこよう」

「そうね」

「はい」

「ふたりの私物は各自のリュック入れてくれれば後は俺が収納して運ぶだけだから」

「分かってる」「はい」


 家の戸締りをしてからギルドに向かった。

 前世での不動産会社の駅まで5分は当てにならなかったが、こっちの商業ギルドのギルドまで5分は本当だったようで、ちゃんと5分でギルドに到着した。これなら今まで通りの時間にダンジョンに入っていける。


 3階に上がった俺たちは部屋の前で別れ、各自の部屋に入った。


 まずはダンジョン用の大リュックをキューブから出した俺は、タンスの中に入れていたものをその中に詰めていき、物干しロープに吊り下げていた洗濯物も乾いていたのでリュックに詰めた。

 最後に物干しロープを外してリュックに入れ、リュックをキューブにしまったらそれで部屋の中の私物はなくなってしまった。


 いちおう、ベッドの上をきれいにしてから廊下に出たが、扉は開けたままにしておいた。

 そんなに待つこともなくケイちゃんがリュックを持って部屋から出てきたのでリュックをキューブに預かった。


 それから少ししてエリカもリュックを持って部屋から出てきたのでリュックを預かった。


「これで、部屋の中に私物はない?」

「大丈夫」「ありません」


「1階に下りてカギを返そうか」

「うん」「はい」


 1階に下りて受付カウンターに行き、エルマンに今日で寮を出ることを告げ、カウンターの上に3人でカギを置いた。

「サクラダを離れるんですか!?」

「いえいえ、この近くに家を借りたのでそこからここに通おうと思っています。食事も潜っていないときはたいていここで食べると思います」

「安心しました。そうだ。エドモンドさんとハウゼンさんは1年が過ぎるまで寮費は無料でしたから、今後朝夕の定食代は3人まとめて無料にします」

「勝手に決めていいんですか?」

「その程度のことは。あとで雄鶏亭のモールさんに伝えておきます」

「ありがとうございます」


 さすがはサクラダダンジョンギルドのトップチームだ。何も言わなくてもギルドの方で忖度してくれた。


 俺たちは一礼してカウンターから移動した。

 ちょうど12時を知らせる鐘が鳴り始めたので雄鶏亭に入っていきいつもの4人席に3人で座って定食と飲み物を頼んだ。全部チームの財布から出している。



 昼食が終わって家に帰ったところでエリカとケイちゃんの部屋の前に二人のリュックを置いた。

 夕方6時になったら揃ってギルドに食べに行こうということにして、各自、自分の部屋に入った。


 部屋に入ってキューブからリュックを取り出して詰めたものをタンスの中にしまっていったら、すぐに作業は終わってしまった。キューブがあるので不要なものを出す必要がないのが大きい。

 そういえば洗濯物はどこに干せばいいんだろ? 俺の手は最後に残った物干しロープを持っているのだが。

 と、思って部屋の中を見たら物干しロープを引っ掛けるのか分からないがとにかくフックが4カ所についていた。結局部屋干しになるようだ。それでも寮の部屋と比べて居間の部屋は1.5倍くらい広いので目立たないかもしれない。そんなわけはないか。

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