第94話 屋敷の受け渡し
汚れたタオルを水場で洗って持ち帰り、物干しロープにかけておいた。
チームの財布はかなり重くなっているし金貨も多くなっているので、反省会用に中から銀貨だけ出して小袋に入れてポケットに突っ込み、チームの財布はキューブに入れておいた。
そうこうしていたら6時を告げる街の鐘が聞こえてきたので部屋を出てカギをかけていたら、エリカとケイちゃんも部屋から出てきた。部屋がまとまっているので非常に便利だ。受付のエルマンさんが便宜を図ってくれたのは確実だ。
3人で階段を下りていき、いつもの雄鶏亭の4人席に3人で座って反省会を始めた。
定食とその他のつまみ、それとエールがテーブルの上に揃ったところで。
「「かんぱーい!」」
生前。俺の課にはいなかったが、上司との飲み会を断る連中が増えてきたと他の課長連中が言っていたのを思い出した。
俺は『サクラダの星』のリーダーではあるが上司ではないのでちょっと状況は違うが、わが『サクラダの星』のメンバーは一度たりとも反省会への出席を断った者はいないのだ。これは誇っていいことではないのだろうか? それほどでもないか。
「ほんとに11階層は面白いほど儲かるわね」
「そうだな。とにかくジェムが高額で売れるものな。
宝石ってそんなにニーズがあるんだろうか?」
「あるんじゃない。お金持ちって見栄を張りたがるものだから」
「エリカのお父さんは、見栄っ張りなの?」
「うちのお父さんは、そういうところは全くないみたい。
着ているものは上等のものを着ているけれど、それは商売のためだって言ってたし」
確かに商売するうえで身だしなみは大切だし、それなりの格好は信用を生むのは確かだ。
プロだねー。少なくともエリカのお父さんの代でエリカの実家が揺らぐことはなさそうだ。
エリカのお父さんの跡を継ぐはずのエリカのお兄さんのことを少し知りたくなったが突っ込んだことを聞くのは野暮なので聞かないでおいた。
なんであれ、エリカはこの歳で立派に自活しているわけだし。
「明日はとうとう家の受け渡しよね」
「楽しみですね」
「受け渡しが終わったら、寝具を買いに行かないとな」
「それはそうだけど、ここの部屋はどうする?」
「引っ越しが終わったら、カギを返さないとマズいだろうな」
「カギを返しちゃうと、ここの食事はどうなるかな?」
「その辺りはカギを返すときエルマンさんに言えば何とかなるんじゃないか?
ダメならダメでそんなに定食代が高いわけじゃないし」
「それもそうか」
「そうなったら、食事代は全額チームの財布から払えばいいだけだし」
「そうよね」「そうですね」
「すっかり忘れていましたが、ホウキとか掃除道具なんかも必要ですよね」
「そうだった。チリトリとホウキとモップは雑貨屋で売ってたからそれも忘れずに揃えておかないと。それに桶もあった方がいいよな」
「あと、食器類も揃えた方がいいわよね。今あるのはダンジョン用だもの」
「それも必要だな。
皿洗いなんかで水筒から水を出すのは遅いから、水樽もあった方がいいんじゃないか? 水は井戸で樽に汲んでキューブに入れて台所に運べばいいわけだし」
「そうね。ひしゃくもあればいいわよね」
「料理用ストーブの薪とかも必要ですよね」
「加熱板は一つしかないから、ストーブを使うことになるよな。
ところで薪はどこで売ってるのかな?」
「商店街のどこかに薪屋があるはずよ。
なければ、街の門で売ってるはずよ」
「うちは田舎だから薪は全部自前で、薪なんて買ったことなかったから」
「わたしのところもそうです」
「街を出て森に入ればいくらでも手に入ると思うけどね。
そのうち3人で森に遊びに行くのも面白いかもしれないわよ」
「それはいいですね」
「それいいね」
美少女二人とピクニック! そもそも明日か明後日から一つ屋根の下で寝起きを共にするわけだから今さらではあるが、それでも言いたい「夢のようでごたる!」
「ねえエド、ニヤニヤ笑いながら、なに口の中でモゴモゴ言ってるの?」
「何も言っていないヨ」
「まあエドの勝手だから何でもいいけれど」
何でもいいという割によく俺の表情を指摘するんだよな。つまり俺の顔に注目してる証拠じゃないか? 先ほど水場で俺の肉体美には見向きもしなかった女子とはえらい違いだ。下駄は履いていないがたまに腰に
楽曲提供について先ほど思いついたのだが、歌詞は無理だな。文化が違い過ぎる。俺がメジャーになってどんどん日本の文化をこの世界に広めていけばワンチャンあるかも? 手始めに下駄でも作ってみるのも手だ。
サクラダダンジョンギルド、トップチームリーダーが履いているのは一体なんだ!?
カッコいい! 素敵!
瞬く間にここサクラダに広まって、そしてヨルマン領全体、そしてヨーネフリッツ全土に広がることは間違いない!
料理と同じで木を削っていればそのうち下駄くらい作れるようになるだろう。時間がある時やってみよ。
「ねえエド、またニヤニヤしてるけど、何かいいこと思い出したの?」
「うーん。そうであるような、ないような」
家の話で盛り上がり、散々飲み食いしてその日の反省会はお開きになった。
そして翌朝。
朝食を終えた俺たちは買い取りカウンターに回ってゴルトマンさんから昨日の代金をもらった。
全部で銀貨65枚相当。金貨3枚と銀貨5枚だった。
金貨1枚ずつ山分けし、銀貨はチームの財布に入れておいた。
金貨1枚でも相当な儲けだが、ジェム一つで金貨7枚近くする。いかにジェムが効率いいかうなずける。
「家の受け渡しが終わったら買い物に行くでしょ? 部屋に戻ってリュックを持ってくる」
「買った商品は長いもの以外はリュックに入れるふりをしてキューブに入れるつもりなので俺一人がリュックを持っているだけで十分だ。買い物用のリュックはキューブに入れてるからこのまま商業ギルドに行こう」
「そう。それじゃあそうしましょ」
代金を受け取った俺たちはその足でダンジョンギルドを出て商業ギルドに向かった。
商業ギルドの2階に上がって窓口で来意を告げたところ、窓口の女性が前回同様すごい速さで駆けていきカバンを持ったベルグマンさんを連れてきた。
俺たちはベルグマンさんに連れられて前回と同じ部屋に案内された。
部屋の中で1年分の家賃、金貨12枚をベルグマンさんに支払い代わりにとカギ束をもらった。そして本契約書2通に今日の日付とサインをして1通を俺が預かった。
もらったカギには札がついていてどこのカギか分かるようになっていた。
前回ベルグマンさんが使った時には何もついていなかったはずなので俺たち用に札を作ってくれたのだろう。
「それでは馬車で現地にお送りしますので玄関前でお待ちください。現地を見て何か不都合があるようでしたらお聞かせください」
部屋を出て1階に下りた俺たちはそこでベルグマンさんといったん別れ商業ギルドを出て馬車が来るのを待った。
前回の馬車と同じか分からないが2頭立ての箱馬車がやってきて前回同様3人並んで座ったら馬車が動きだした。
10分ほどで馬車が止まり、馬車を降りた。
前回、塀の向こうの屋敷の裏庭は草ぼうぼうだったが、今はすっかりきれいになり、芝生が張られ、庭木も何本か植えられていた。
「すっかりきれいになってるわね」
「そうですね」
俺が門にかかっていた鎖の南京錠を開けた。門扉を開いたら、門扉は蝶番をきしませることなく簡単に開いた。
裏庭を通って玄関に歩いて行き、そこで鍵束から玄関のカギを選んで鍵を開けた。
扉を開けた先の玄関ホールは磨き上げられていた。
そこから先、各部屋を回って歩いたが、どこもチリ一つなくピカピカに磨き上げられていた。
まさに、プロの仕事だ。
最後に表側に回って庭を見た。
こちら側も芝生が張られて、排水溝もすっかりきれいになり井戸の回りはスノコが敷かれ使いやすそうになっていた。
「いかがでしょうか?」
「申し分ありません」
エリカもケイちゃんもうなずいている。
「使用してみて何か不都合があるようでしたらお知らせください。
わたくしはこれで失礼させていただきますが、どちらかにお越しでしたら馬車でお送りします」
「いえ、用事は近くで済むので大丈夫です」
「そうですか。それでは失礼します」
そう言ってベルグマンさんは馬車で帰っていった。
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