第91話 トップ・チーム
商業ギルドに戻った俺たちは、最初の小部屋で2通の契約書にサインし、そこで金貨3枚を支払い契約書の1通をもらって商業ギルドを後にした。
「簡単に決まって良かったな」
「そうね」
「いいところが決まって良かったですね」
「そういえば、さっきのエドが立て替えたお金だけど一人金貨1枚でいいわよね」
「今払ってくれる?」
「うん」
「じゃあわたしも」
ということで二人から金貨を1枚ずつもらったので俺の立て替えはなくなった。
「次はギルドに戻ってギルド長のところだな」
「その前に雑貨屋に寄っていかない? 途中だし」
「そろそろ食料の補充もした方がいいから雑貨屋の前に商店街に回っていこう」
「そうね」
「はい」
商店街に回った俺たちは食料品を補充し、そのあといつもの雑貨屋に寄って少なくなっていたランタンの油や追加の大鍋、食器などを買った。食料品の代金も雑貨類の代金も、チームの財布から出している。
ダンジョンギルドに戻った俺たちは一度部屋に戻り時間調整をして3人揃って2階に下りてギルド長室の前に立った。
「『サクラダの星』ライネッケ以下3名やって来ました」
『おう、入ってくれ』
俺が先頭に立って部屋に入っていった。ギルド長は立ちあがって俺たちを迎えてくれてすぐに報奨金を手渡してくれた。
「この若さでトップチームか。たいしたものだ。これからも頑張ってくれよ」
「「はい」」
「それでギルド長にお願いがあるんですが」
「何だ言ってみろ。トップチームの願いだ、多少のことなら聞いてやるぞ」
「それがですね、俺たちダンジョンで面白い物を見つけたんです」
そこで俺は収納キューブの説明をした。
もちろんギルド長は分かったような分からないような顔をしていた。
「それで、今現在、10階層の大ガエル、前足一本ありませんが、それ以外は丸々入っているし、大ガエルのほかにもかなりの数のモンスターの死骸を入れてるんです」
「……」
「ここの床少し汚れますが、イノシシ出してみましょうか。いいですか?」
「ああ。その辺りに出して見せてくれ」
収納キューブからイノシシをギルド長の部屋の床に出して見せた。いきなり床の上にイノシシの死骸が現れたら普通の人はすごく驚くと思うけれど、さすがはギルド長、この程度のことでは驚かなかった。
「こんな感じで、まだほかにも入ってるんです」
「……」
「ギルド長?」
ギルド長を見たら口を半分開けたまま停止していた。
「それでギルド長!」
「お、おう。こいつは魂消た。そうそう、それで俺に何をしてもらいたいんだ?」
「いままで収納のことが知られたくなかったので、1階層の側道で一々リュックに詰め替えて買い取りカウンターに持っていっていたんですが、それだともう限界なので、倉庫かなんかで引き取ってもらえないかと思いまして」
「なるほど。分かった。あとで買い取りのゴルトマンに言っておく。
適当な倉庫もお前さんたち用に開けておこう。そうだなー、明日の朝にでもゴルトマンのところに行ってみてくれ」
「ありがとうございます。それで収納のことは他には話さないようお願いします」
「それはもちろんだ。俺とゴルトマンを信じてくれて大丈夫だ」
「よろしくお願いします」
イノシシを収納して俺たちはギルド長に一礼して部屋を出ていった。
「エド、うまくいったわね」
「今回の褒賞金だけど全部チームのお金にしない? それだけあればあの家の代金も払えるし」
「そうですね」
「じゃあそうしよう」
俺も思っていたことなのでもちろん承諾した。
これで家賃を払った後でもチームの財布がかなり膨らむ。これなら何が起きてもホボ大丈夫だろう。
「それじゃあ、買い取りカウンターに行って昨日のカエルの前足の代金を受け取ってこようか」
「そうね」
「はい」
2階から1階に下りていき、買い取りカウンターに回って行った。
ちょうどゴルトマンさんが空いていて俺たちを見つけて手招きしてくれた。
「きたか。カエルの前足は金貨4枚だ」
そう言って金貨を4枚手渡してくれた。
その時俺は先ほどギルド長に頼んだことをゴルトマンさんに話しておいた。
「分かった。任せてくれ」
「それではよろしくお願いします」と、言ってカウンターを離れたら、ゴルトマンさんのところに誰かがやってきて何事か告げたら、ゴルトマンさんはカウンターを出て階段の方に歩いて行った。ギルド長に呼ばれたのだろう。
俺の方は先ほどの4枚の金貨のうち1枚をチームの財布に入れ、エリカとケイちゃんに1枚ずつ渡してから俺の財布にも1枚入れた。
「これでとりあえず今日の予定は終わったな」
「そうね。少し早いけど、そろそろ昼にしない」
「そうですね」
定食と飲み物がそろったところで。
「それじゃあ、軽く乾杯」
「「かんぱーい」」
軽く乾杯が意味するところは、特に意味はないけど、乾杯しようぜ。っていう俺の作ったスラングだ。
「いい家も見つかったし、報奨金ももらったし、アレの話もうまくいったし」
「そうねー。トントン拍子って感じだよね」
「そうですね。やはり……」
「まあ、気にしても何にもならないから」
「そうでしたね」
そんな話をしながら飲み食いしていたら、ホールの方が何やら騒がしくなった。
見ればエルマンさんが受付カウンターの方に歩いている。
そしてそのエルマンさんの後方の壁に人が群がって騒いでいた。今の時間ギルドにいるのは基本的に午後からダンジョン入りを予定しているベテランか、泊りがけで潜って少し前にダンジョンから出て来たこれまたベテランだろう。
「何だろう?」
「なんだか、壁に貼り紙が貼ってあるみたいよ」
「何でしょう?」
「そのうち人も少なくなるだろうから、後で行ってみよう」
「そうね」
「そういえば、エド。お父さんに借りてたお金を返しに村に帰ったら妹さんを連れてくるって言ってたじゃない」
「うん。父さん母さんが許してくれることが条件だけども、妹とも約束してるからそのつもり」
「今度の家に住まわせればいいからちょうどよかったじゃない」
「それもそうか。すっかり忘れてた」
「それじゃあ、お兄さんとしては失格だよ」
「不肖な兄でお恥ずかしい限りです」
「それはいいんだけどね。妹さん家事はできるのかな?」
「うーん。どうだろ?」
「もしできるようなら、あの家の家事を頼めないかな?」
「本人次第だろうな。やってもいいと言えばそうだし、他にやりたいことがあるというならそれをやらせてやりたいし」
「今度はちゃんとお兄さんなんだ」
「まあな」
「そういうことなら、とりあえず人を雇わず、休みの日にみんなで家事をしたらいいんじゃないでしょうか」
「そうね。休みの日、わたしの場合買い物くらいしかやることないし」
「今まで通り半日そういったことをして午後から料理とかして作り貯めておけばダンジョンの中で楽になりますよ」
「それいいね。そうしよう」
家のことなどを話しながら飲み食いを終えたころには壁の貼り紙の前の人もほとんどいなくなっていたので、俺たちは何がその貼り紙に書かれているのか見に行った。
「あっ!」
「あっ!」
「出てる!」
貼り紙には10階層階段前の大ガエルが『サクラダの星』によって討伐された。と、書かれていた。
「これで俺たち名実ともにトップチームだな」
「そうね。でも早かったよね」
「早すぎたかもしれないけど、気を抜かずこれからも頑張っていこう」
「うん」「はい」
しかし、俺たちが『サクラダの星』だってことを知ってるのは一部の新人たちくらいなんだよなー。別にちやほやされたいわけじゃないが、この状態で名実ともにトップチームになったって言っていいのだろうか?
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