第66話 1泊ダンジョンアタック3回目2、おおきなツヅラ2
3回目となる6階層への1泊ダンジョンアタックをしていたら行き止まりの側道の先にまたまた新たな坑道と小部屋を見つけてしまった。
小部屋の中にはこれまでと同じように台があり、今回はその上にミカン箱大の銅の宝箱が2つも鎮座していた。箱に装飾は一切なく、磨き上げられた無垢の銅板で出来ているようで俺たちの顔が映っている。鏡の代用になりそうなほどピカピカだ。
台の上を見たが文字のようなものは書かれていなかった。ノーヒントのようだが、あの文字ではそもそもヒントにならないので、どうでもいいと言えばどうでもいい。
「すごいのが見つかったわね! わたしの言った通りだったでしょ!」
宝箱に映ったエリカさまのどや顔の言う通りなんだけど。
「箱はすごいけど中身を見ないと」
「こんなことが続くなんて……」
ケイちゃんは相変わらず驚いていた。
「何が入っているか開けてみよう」
宝箱に罠がある可能性がないわけではないが、罠の察知スキルも罠の解除スキルも誰も持っていない現状、運を天に任せてフタを開けるしかない。
俺はレメンゲンとの契約上老衰で死ぬはずなので、罠にかかろうが何だろうが致命傷になることはないハズ。
「開けてみる」
エリカがごくりとつばを飲み込む音が聞こえたような。
箱をざっと見たところ、カギ穴は見えない。カギ穴があったところでカギを持っていない以上無意味なので、それはそれでよかった。
ということなので、ランタンをエリカに持ってもらい、手袋をした手でまずは左側の宝箱の蓋に手をかけてそっと持ち上げるよう力を入れたところ、罠が作動することもなく向こう側を支点に手前側から蓋が持ち上がった。
箱の中を見ると中には5センチほどの銀色の立方体、サイコロが1つ入っていた。
「何だろう?」
危ないものではなさそうなので手に取ってみた。
金属の塊に見えるのでたった5センチの立方体といってもそれ相応の重さがありそうなものだが、思った以上に軽い。
「何だと思う?」
エリカとケイちゃん二人に手に持ってよく見てもらったけれど首をかしげるばかりだった。
これまで見たこともない立方体であるということは確かなんだが、俺はこれをどこかで読んだ覚えがある。あの小説の題名は何だったっけなー。(注1)
おっと、題名は今さらどうでもいい。題名は思い出せないのだが、これは収納キューブではなかろうか。今の俺たちにとって必要な物と言えば収納ボックスだ。これまでエリカの白銀の双剣、ケイちゃんのウサツ。欲しいものが手に入っている以上可能性がないわけではない。
使い方についてはうろ覚え。どうだったっけなー。
そう思って銀色のサイコロを見ていたら、天啓のごとく急に使い方を思い出してしまった。
これもレメンゲン効果なのか?
収納キューブの使い方は「開け」で大きくなって、大きくなったところで物品を入れる。
「閉まれ」で元の大きさに戻る。
出したいものを思い描いて「出ろ」と言えばその物品が現れる。
開け、閉まれ、出ろ、は声に出す必要はなく、頭で考えればそれでもいい。
出し入れについては慣れることによって開けを省略し直接アイテムを収納もできれば、狭い範囲なら任意の場所に収納したアイテムを輩出できる。
ここまで思い出してこれが収納キューブでないとなるとそれこそ問題だ。
外れている可能性はわずかにあるが、試してみればいいだけだ。
「おそらくこれは、エリカが言っていた『いくらでも物が入って、それでいて重くならないリュック』だ」
俺のその言葉で、エリカが俺の顔をまじまじと見た。気持ちは分かる。
「形はリュックじゃないけれど、この中にいくらでもというわけではないと思うけど、かなりのものが収納されてしかも重くならない。この大きさならリュックなどよりよほど持ち運びが便利だろ?」
「何だかよく分からないんだけど、その小さな箱にどうやって物を入れるの?」
「まあ見ててくれ」
俺の予想が外れていたら目も当てられないのだが、まずそんなことはないはずだ。
俺は銀色のサイコロを床に置き、声に出して「開け」と言った。
そのとたんサイコロはみるみる大きくなって1辺1メートルほどの黒い立方体に変化した。
「うわっ! びっくりしたー」
エリカのビックリした顔もいいな。
「何なんですか、これ?」
「思った通りだ。
これは収納キューブという物で、この中に物を入れて『閉じろ』と言えば中に物を入れたまま元の大きさに戻るんだ。その時の重さは最初と同じ。
試しにやってみよう。
エリカ、ランタンを貸してくれ」
エリカに渡されたランタンを黒い立方体に押し込んでやったら、ランタンは吸い込まれるように消えてしまった。
「これで収納されたはずだ。
このまま元の大きさに戻してみる。『閉じろ』」
思った通り、収納キューブは元の大きさの銀色のサイコロに戻った。
床から拾い上げたら重さは全く変わっていなかった。
「重さが変わってないから」
そう言ってエリカに収納キューブを手渡したらエリカは今回もものすごく驚いた。
「ホントだ! ランタンが入っている重さじゃない!」
エリカから収納キューブを受け取ったケイちゃんもすごく驚いていた。
俺ももちろん驚いているのだが、入れたものが出てこないと無意味だ。
俺は収納キューブをケイちゃんから受け取って「ランタン、出ろ!」と言ったらランタンが空中に現れた。
これにも驚いたがランタンが床に落っこちる前にキャッチできた。
エリカはさっきからスゴイ、スゴイの連発で目を輝かせている。
ケイちゃんも驚いてはいるが、それほどでもあるようなないような。
「エドはどうしてそのサイコロが収納キューブであることがわかったんですか? それにどうしてその使い方が分かったんですか?」
至極ごもっともな質問だ。
この質問については予想していたので答えは用意してある。
「この銀色のサイコロを手に取ったとたん、名まえが頭の中に浮かんだんだ。そして使い方も頭の中に浮かんできたんだよ」
前半は作り話だが、後半の半分はホントだ。
おそらくレメンゲンの何かの力が働いたんじゃないかと思う。
「レメンゲンの力を使って大丈夫なんでしょうか?」
誰にもレメンゲンと俺との契約の詳細について話したことはなかったハズだが、ケイちゃんは何か知っているのだろうか?
「いまさらだし、利用できるなら利用したほうがいいだろ?」
「そうかもしれませんが、実際のところエドはレメンゲンとどういった契約をしたんですか?」
「契約すると文字通りあらゆる能力が上がると言われた」
「契約ということはなにがしかの対価が必要なんですよね?」
ケイちゃん、鋭いな。軽い話じゃないから話したくないのだが黙っているわけにもいかないか。
そこで俺は、俺がレメンゲンに差し出す対価について二人に話した。
「エド、あの時そんなこと言ってなかったじゃない!
それを知ってたら、わたしエドに契約するようになんて言わなかったのに!」
「でも、契約するつもりだったから言わなかったというのもあるんだ」
「そんな! エドは後悔してないの?」
「していない。だって、年取って死ぬ間際のことなんだからそれほど大したことじゃないだろ?」
「……」
「それに、今さらどうしようもないし」
「そうなんだけど、そうかもしれないけれど」
「だから、せいぜい利用しないと元が取れないわけだから」
「……」
エリカが少し取り乱してしまったが、ここは雰囲気を好転させるため、残った宝箱を開けてみるとしよう。
「それじゃあ、もうひとつの箱を開けてみようか」
注1:
題名は言わずと知れた、かどうかは分かりませんが、常闇の女神シリーズその1
一見ダークファンタジー『闇の眷属、俺。-進化の階梯を駆けあがれ-』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054896322020 よろしく。
進化の階梯を駆けあがってしまった主人公と二人の眷属は、常闇の女神シリーズその2以降、デタラメに強くなってしまい、必要な物はアルコールとつまみぐらいで、アイテムほとんど不要になっちゃいます。
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