第65話 1泊ダンジョンアタック3回目、おおきなツヅラ


 2度目の1泊ダンジョンツアーを終えた俺たちは翌日6階層への3度目の1泊ダンジョンツアーを決行した。決行したというほど大げさじゃないけどな。


 6階層の本坑道はあらかた踏破しているため、今回は未踏破の側道を中心に歩くことになる。そのため一度通ったことのある本坑道を歩くことになるのだが、その分は地図を描かなくて済むので踏破速度は高くなる。


 この日も9時半ごろに6階層に到着した。

 階段下の空洞で小休止をした後、駅弁スタイルの画板の上の地図を見ながら描きながら歩き回り、午前中それなりの成果を上げて昼休憩に入った。


「何回か行き止まりの側道があったけれど、その先は何もなかったわね」

「そううまくはいかないってことだな」

「もう少し深い階層じゃないと難しいかもしれませんね」

「そうなんだろうけれど、せっかくエドが地図を作ったんだし、そのご褒美で何か欲しいわよね」

 エリカの気持ちは分かるけど、ダンジョンが俺にご褒美をくれることはないだろうなー。


「午後から期待しましょう」

「そうね。

 それで、エド。エドから見て午後からいけそう?」

「さすがにそこは何とも言えないけれど、午後から回るところには行き止まりになっている側道がそれなりの数はあると思う」

「なら期待できるわね。もし何かあるとして、何があると思う?」


「何があるかは分からないけれど、俺とすればまずは水が出るアイテムが欲しいな。次は火の出るアイテム」

「ふーん。ケイちゃんは?」

「そうですね。わたしなら、絶対折れない矢かな」

「ああ、それもいいわね。20本あれば十分だものね」

「そう言うエリカはどうなの?」

「そうねー。わたしは、いくらでも物が入って、それでいて重くならないリュックかな。

 これから先、深い階層に行くようになったら、1泊じゃなくって何泊もした方が得じゃない。だけど、そうすると持っていく荷物も重くなるし、モンスターをたおしても持てなくておいていかなくちゃいけなくなるでしょ? だからそういったリュックがあればいいなーって思うの」


 エリカ、それはアイテムバッグというラノベ御用達ごようたしの便利アイテムや。この世界の住人であるエリカがそれに思い至ったことは驚きだ。俺はとりあえず水が出るアイテムと火の出るアイテムが欲しいが、エリカは今俺たちに何が必要なのかということをちゃんと分かっている。これもエリカの経営者としての資質の表れのような気がする。


 ケイちゃんを見たら、不思議そうな顔をしてエリカを見ていた。ケイちゃんはこういった話を聞くといつも不思議そうな顔をする。俺はそこが不思議だ。


 変わり映えのしない昼食を済ませ昼休憩を終えた俺たちは、装備を整えて坑道探索を再開した。



 画板の上の地図に坑道を継ぎ足して、周囲の警戒を怠ることなく側道に入っていく。これが午後から3本目の側道だ。地図に描かれた周辺の坑道の状況から、この側道は行き止まりになっている可能性が高い。


 側道を100メートルほど進んだところから、坑道は大きくカーブしてそこを曲がり切った50メートルほど先が岩壁で塞がれて行き止まりになっていた。


「今度こそ、行き止まりの向こうにお宝があるわ。わたしの勘がそう言っているの」

 今回のダンジョンアタックでは行き止まりを見るたびに毎回エリカの勘はそう言っていたのだが、まあ、そのことには触れない方がいいだろう。


「とにかく行ってみよう」


 坑道を塞ぐ岩壁に近づいていくと、ランタンの光に照らされて岩壁がキラキラ輝いた。表面は何かの鉱石のようだ。さらに近づいてよく見ると金属っぽくはない飴色の鉱石だった。こいつは亜鉛の鉱石の一種、閃亜鉛鉱だな。なんであれ、このパターンは今までレメンゲンを含めてお宝が見つかった状況と酷似している。


 なんだこの音? 何だか擦れるような変な音がすると思って音源の方を向くとそこにはエリカが立っていた。エリカの鼻息なのか? 鼻孔も膨らんでいるようないないような。気持ちは分からないでもない。


「これは期待できそうだな。それじゃあ真面目に掘ってみるか」

 俺の言葉でさらにエリカの鼻息が荒くなったような。


 俺は、画板とリュックを坑道の脇に置いて、レメンゲンを下げた剣帯も外して正面の岩壁を手袋をした手で擦るように掘り始めた。

 レメンゲンの時はちょっと特殊だったが、それも含めて過去3回大当たりを引いた時と同じで、今回も簡単に鉱石で出来た岩壁を掘っていけた。


 そして……。


 向こう側に抜けた!


「やっぱり簡単に抜けちゃった。

 エリカ、ランタンを俺のリュックから外して渡してくれるかい?」

「ちょっと待って。……。

 はい」

「ありがとう」

 エリカからランタンを受け取って孔の向こうを照らしたら、いつものような入り口の空いた石造りの壁があった。ランタンの明かりは健在だし酸欠の心配もなさそうだ。


「この先にまたあの壁があった」

 ランタンをエリカに返して、俺は人が通れるくらいまで空いた孔を広げていった。


 人一人抜けられるだけの孔ができ上ったところで、いったんはい出た俺は、レメンゲンを装備してからランタンを手にして孔を潜り抜けた。すぐにエリカとケイちゃんも孔を潜り抜けてきた。


「今回はなにがあるのかなー」と、エリカ。俺のニヤニヤ笑いとは違って輝くようなニコニコ顔だ。

 ケイちゃんはニコニコ顔ではなく、驚いた顔をしている。普通はこっちだよな。

 あんであれ、美少女が笑えばたとえそれが本当はニヤニヤやニヨニヨであったとしてもニコニコになってしまうのだ。おー、これも人生における真理の一端に違いない。


「行ってみよう」

 ランタンを片手に俺が先頭に立って壁に開いた入り口まで歩いて行き、そこから中をのぞいたところ、これまでと同じようにそこはそれほど広くはない石室で、正面の壁の前に台が置いてあった。


「箱? それも2つ」


 台の上には見た目は全く同じ箱が2つ置かれていた。材質はおそらく銅。俺的に言えば銅の宝箱。大きさ的にはミカン箱だ。なので結構大きい。大きいツヅラではないがあまりいい物が入っていないのかも?

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