第64話 1泊ダンジョンアタック2回目3


 俺の不寝番の時間にオオカミが近づいてきたが、無事撃退できた。

 不寝番が居なければもちろん大変なことになっていたわけだ。

 ケイちゃんをリクルートできたことはこの意味でも大きい。

 オオカミの実力だが、心配したほどではなかった。思っていたほど素早くなかった。あれなら一度に2匹相手しても問題なさそうだ。


 さすがに2度目のモンスターの接近はなく、残り2時間の当番が終わったところで次の不寝番のケイちゃんに代わってもらった。


 もちろん肩をやさしくゆすって、耳元でささやいてである。


 これをすると寿命が1年延びるような気がする。毎年1回これを続けていたら俺の寿命は無限大。従って俺の魂がレメンゲンのものになることもない。フフフ。毛布の上に体を横たえて口元をニヤつかせている自分が容易に想像できたので、普通の顔に戻してから魔力操作をして眠りについた。


 ケイちゃんに起こされた時は疲れもなく、頭もスッキリ。4時間弱の睡眠だったわけだが相変わらずの快眠だった。


 毛布などを片付けた俺たちは、水袋の水で濡らしたタオルで顔を拭き、さっぱりしたところで食事を始めた。


「寝てる間にモンスターに襲ってこられたけど、うまく撃退できてよかったよな」

「うん。全くそうよね」

「エドが気付いてくれてよかったです」

「気付くのが不寝番の仕事だからそれはね」

「気付くのが遅れていたら、ケイちゃんの弓矢も間に合わなくなるから、かなり厳しい戦いになってたと思うよ」

「そうかもしれないけれど、モンスターが危なくなるほど近づいてくるまで気付かない事って俺たちじゃそうそうないんじゃないか?」

「確かにそうかもしれないわ」

「それも、そうですね」


「そういえば、モンスターと普通の動物ってどう違うんだろう? 例えばあのオオカミと地上にいるオオカミ」

「少なくとも地上にいるオオカミは何かを食べているけど、ダンジョンの中のオオカミは食べてないんじゃないかな。モンスター同士で戦っているところなんか見たことないでしょ?」

「確かに。大ウサギだってあんなに大きいくせにダンジョンの中に草なんかないしな。

 つまり、モンスターというのは理由は不明だが何も食べなくても生きて行ける謎の生物ということだな」

「結局、ダンジョンがらみのことって謎で片付けるしかないわよね」

「そうですね」


 確かにダンジョンは存在自体が謎だしな。しかし、ダンジョンを専門に研究している学者がいても良さそうなのだが、何かを調べようとしても謎過ぎて手が出せないだろうし。モンスターの種類を図鑑にするくらいが関の山かもしれない。


 食事を終えた俺たちは、装備を整え最後にリュックを背負って今日の坑道探索を開始した。もちろん俺は画板を駅弁スタイルで首から下げている。


 俺の体内時計で7時少し前から途中休憩を挟み、体内時計12時で午前中の坑道探索を終えた。この間、何回か他のダンジョンワーカーに出会っているが、彼らの見た目は新人ではなかった。つまり俺たちはベテランの領域に半歩は足を踏み入れているということなのだろう。

 成果の方も順調で、6階層地図の方もだいぶ広がってきている。これなら、あと2、3回一泊ダンジョンアタックをすれば6階層の全域を網羅できそうだ。


「そろそろ昼にしよう」


 リュックを置いて装備を緩め、いつものように坑道の壁にもたれるように3人で並んで食事を始めた。


 干し肉も乾パンも煎り大豆も水で膨れるので、お腹だけはちゃんと満腹になる。代り映えのする携帯食が食べたい!


「エリカ、どこかにちゃんとした携帯食って売っていないかな?」

「ちゃんとしたって?」

「だから、焼いた肉とか? スープとか?」

「エド、まだ言ってるの? そんなもの次の日くらいまでに食べなくちゃすぐにダメになっちゃうじゃない。それにスープなんて入れ物ないじゃない。水袋に入れるわけにはいかないのよ」

 エリカの言う通りなんだけど、何というかかんというか。弁当って売ってないのだろうか?

「スープは別にして、肉とか温野菜なんかを箱に詰めてセットで売ってれば、当日と翌日食べられるじゃないか?」

「それってまんまお弁当じゃない」

「そう言われればそうなんだけど、だからお弁当を売ってないかな?」

「お弁当ってうちで作るモノじゃないの?」

「そうなんだけど、まとめて作れば安く作れるんじゃないか?」

「なに? エドはお弁当で商売しようって思っているの?」

「そうじゃなくって、そういった商売があれば利用したいと思っただけだよ」

「うーん。確かに面白いわね。今度おじさんにも言ってみるし、父さんにも手紙で知らせてみるわ」

「弁当ができたら、俺が真っ先に利用するから」

「わかったから、気長に待って」

 俺とエリカがそんな話をしていたら、またケイちゃんが俺の顔を不思議そうに眺めていた。

 何なんだろう?


 それはそうと、俺もうちに手紙を書こうと思ってたんだった。次のチームの休みには必ず書こう。


 いつもながらの食事を終えた俺たちは、少し腹の落ち着くのを待ってから装備を整え、リュックを背負って午後からの移動を開始した。


 これから、渦到着17時を目標に6階層の探索をしばらく続けてから帰途に就くことになる。



 渦を出たところで、ギルドの中を見渡した感じ、予定通り午後5時近辺に間違いなさそうだった。


 俺たちは渦か一直線に買い取りカウンターに向かい、今回の成果を買い取ってもらった。

 受け取った代金はかなりの金額だったので、二人の了承を得て、反省会用に銀貨5枚をチームの財布に入れた上、銀貨単位で3等分し、さらに余りをチームの財布に入れておいた。


 部屋に戻って荷物を整理し、そのあと簡単にリュックなどを洗って干していたら6時の鐘が鳴った。

 部屋を出たらちょうどエリカとケイちゃんが部屋から出てきたところだったので揃って1階に下りて行った。


 雄鶏亭おんどりていでいつものように4人席に3人で座っての反省会。

 支払いは全てチームの財布からだ。給仕兼マスターのモールさんも一人から受け取る方が面倒じゃないからな。

 


 まずはエールでの乾杯。

「「かんぱーい!」」

 生ぬるいエールも慣れてしまえばそんなもの。今となっては気にならない。何事も慣れだよ。山ちゃん。って山ちゃんって誰?


「今回も順調だったわね」

「そうだな。あと、2、3回泊まり込みで6階層に潜れば踏破できそうな気がする」

「階層を踏破するってすごいことじゃない?」

「そう思う。その間に何かすごいお宝が見つかればいいけど、これまでみたいに地図に載っていない坑道ってわけじゃないからな」

「でも、坑道の突き当りまで行ったらその先に何かないか調べてみるのも手よ。特に短い側道だったら」

「確かにエリカの言う通りだ。次回からはそれでいこう」

「うん」「そうですね」


「それで明日はどうする?」

「そうねー。また1泊で潜る? わたしは特に疲れていないから、潜ってもいいけど」

「わたしも潜れます」

「消耗品は大丈夫なのかい?」

「大丈夫。この前沢山買い込んだから」

「わたしもです」

「それじゃあ、明日も1泊で潜ろう」

「うん」「はい」


「明日の予定も決まったところで、どんどん食べて飲もう!」

「はーい」「はい」

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