第63話 1泊ダンジョンアタック2回目2
食事そのものは30分もかからず終わった。
「今日の野営も俺が2番目の不寝番でいいから、二人で1番目と3番目を決めてくれればいい」
「それは、悪いから」
「いや、実際レメンゲンのおかげで負担は全くないから大丈夫。それより二人にぐっすり寝てもらってあしたも頑張ってもらった方がありがたいし」
「じゃあ、お言葉に甘えてそうするわ」
なんでもレメンゲンのおかげにしてしまえば何とかなるということを学んだ今日この頃であった。
「ケイちゃん。前回わたしが3番目だったから、今回は1番目でいいかな?」
「はい、それでいいです」
何もすることはなかったので、俺とケイちゃんはそのまま毛布の中に入った。
もちろん別々の毛布ですヨ。ただ前回同様、3人の毛布は横並びに並べられていて、更に俺の毛布は真ん中なので、必然的に並んで寝ていることになる。ナイスなシッチュエーションなのだ。これこそが1泊ダンジョンアタックの醍醐味ともいえよう。
オオカミは持って帰ったところで買い取ってもらえない以上坑道の隅に投げ捨てるしかない。
とはいえ、レメンゲンの糧になったと思えばタダ働きではなかった。と、言える。
ダンジョンの中なら簡単に食べ物は手に入るから、水の出るアイテムと火の出るアイテムさえあれば、ダンジョン内にこもってしまうことも可能だ。しないけど。
幸せ気分の中で目を閉じたらすぐに寝入ったようで、気が付いたら肩をゆすられ耳元で名まえを呼ばれていた。
「エド、エド。時間よ」
このまま寝たふりを続けていたらずっと揺り動かされて耳元でささやいてくれるのかも? とか一瞬思ったが、すぐに目を開け起き上がった。寝てたわけだから涙も汗も出ていなかったけれど、だってリーダーなんだもの。
「エリカ。ご苦労さん。あとはゆっくり寝てくれ」
「それじゃあ、エド、よろしくね」
俺は起き上がってヘルメットと手袋を着け、剣帯ごとレメンゲンを持ってランタンの前に座り不寝番の位置に着き落ち切っていた砂時計を反した。エリカはその間にヘルメットと手袋を外して毛布に横になっている。
毛布に入って目をつむったエリカはすぐに寝入ったようだ。二人の寝顔アンド寝姿をたっぷり4時間堪能することができる。
さーて、これからが俺の本番だ!
なんだか、ほほが疲れたなーとか思ったらどうも知らず知らずのうちに二人の寝顔を見比べながらニヘラ笑いをしていたようだ。危ない、危ない。
すぐに真顔に戻った俺は、周囲を警戒しつつ、二人の寝姿を眺め続けた。
砂時計の砂が2回落ち切って、ひっくり返した。不寝番はあと2時間。
何かが近づく気配がした。
「何かが近づいて来る!」
俺の言葉で、エリイとケイちゃんは飛び起きた。
ヘルメットも手袋もしないまま武器を手に取った。
俺たちが現在野営している場所は、前回同様本坑道から側道に入ってすぐの場所。本坑道側に左右2方向。側道後方に1方向。合わせて3方向開いた形になっている。
モンスターは一方方向からしか現れないだろうという安易な考えで適当に野営地を選んだわけだが、2方向、ないし最悪3方向から襲われた場合、非常にまずいことになる。
幸い今回は、側道後方からの気配しかしない。
エリカとケイちゃんが俺の向いている方向に目をやった。
いつものように、ケイちゃんが最初にその気配の正体を目にした。
「います! オオカミです。数は3」
その声と同時に矢が放たれる音がして、すぐに遠くの方からギャインと声がした。
そこではっきりと俺のもオオカミが見えた。
「エリカ、ここでケイちゃんを守ってくれ。特に後ろを注意して。俺は突っ込んでいく」
「分かった」
こっちに向かってくる2匹のオオカミのうち近い方に向かって俺は突っ込んでいった。
オオカミはそのまま突っ込んでくるかと思ったがいったんそこで立ち止まり威嚇するように唸った。もう一匹のオオカミも追い付いてそこで立ち止まり同じように唸り声を上げた。
ただやみくもに突っ込んでこないのは見上げたものなのだが、俺たちにはケイちゃんの飛び道具がある。立ち止まるのは悪手だぞ。
思った通り、矢の通過音が聞こえたと同時に2匹目のオオカミの額に矢が生えて、一度ギャインと声を上げてそのオオカミはその場に倒れた。
残ったオオカミに向かって俺は突撃していったら、オオカミはくるりとUターンして逃げ出した。逃げ出すモンスターは初めてだが、こういった手合いの習性は不明なものの逃がさず確実に仕留める方がいいことは確かだろう。
俺は全力でオオカミを追って行き、間合いに入ったところで後ろから切りつけた。
レメンゲンの切っ先はオオカミの尻を浅く切り裂いただけだったが、オオカミはキャインと一声鳴いてその場で路面に崩れてしまった。オオカミはしばらく痙攣していたがそのうち動かなくなった。
今の一撃はどう見ても致命傷ではなかった。レメンゲンって毒が塗ってあるわけじゃないのにこれだ。俺にとっては悪いことではないが、空恐ろしいものを感じてしまった。
動かなくなったオオカミを坑道の壁際に運び、取って返した俺は途中でケイちゃんが矢でたおした2匹のオオカミから矢を引っこ抜いて、オオカミそのものは最初と同じように坑道の壁際に寄せて二人の元に戻った。
「エド、どうだった?」
「3匹目は仕留めた」
そう言ってケイちゃんに回収した矢を渡しておいた。
「エド、ありがとう」
切っ先だけの一撃でオオカミを仕留めたことは話さないでおいた。
「ご苦労さま」
「適当に選んだ野営場所だったけれど、後方を警戒しないといけないから、ちょっとマズかったな。これから野営する時は、行き止まりの坑道で野営した方がいいな」
「それは分かるけれど、行き止まりの坑道ってそんなにないから、野営しようって時にすぐには見つからないんじゃない?」
「そこは問題だけど、その方向で行くというつもりだけは持っておこう」
「その辺りはエドに任せたわ。
オオカミってお金にならないから意味ないわよね」
「お金にはならないけど、たおせばレメンゲンの力が強くなるってレメンゲンが最初言っていたから、タダ働きってわけじゃない。と、思っておこう」
「へえ、そうなんだ」
「うん。それはそうと、二人を起こしちゃったけど、まだ交代の時間じゃないから二人とも横になっててくれ」
「うん」「はい」
二人は武器を置き、エリカは先に毛布に横になり、ケイちゃんはボロ布で矢の汚れをきれいに拭いてから矢筒に戻し、それから毛布に横になった。
俺は俺で、レメンゲンを鞘から抜き出して剣身をボロ布で拭いて鞘に戻し、不寝番を続けた。
二人は先ほどアドレナリンを大量に分泌したはずだがあっという間に寝息を立て始めた。理想的なダンジョンワーカーだな。
俺はまた二人の寝顔を見ていたのだが、ふとケイちゃんの矢のことが気になった。
このところケイちゃんの矢があまり傷まなくなっている。
おそらくモンスターがこっちに突っ込んでくるところをケイちゃんが射殺しているわけだが、矢の威力が増して、命中と同時にモンスターの動きが止まることでたおれた後の動きで矢が痛むことがなくなったせいではないだろうか?
きっとそうなんだろう。みんな強くなっていく。全てとは言わないがレメンゲンの力が大部分を占めているのは確かなのだろう。
この調子でいくと、俺たち本当に1年後にはこのサクラダダンジョンギルドの中でトップクラスチームに成ってるんじゃないか?
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