第62話 1泊ダンジョンアタック2回目
7時少し前に俺たちは渦を抜けてダンジョンに入っていった。
渦のある空洞の隅でランタンなどの準備をし、他のダンジョンワーカーたちの後に続いて階段に向かって坑道を歩いていった。
2時間半で予定通り6階層に到着した俺たちは階段下の空洞脇で小休止した。その間俺は画板を用意しておいた。
10分ほど休んだところで出発だ。今の時刻はおそらく9時半。
「それじゃあ、行こうか。今の時刻は9時半くらいだから昼休憩まで2時間半。頑張ろう」
「「はい」」
まだ入ったことのない空洞に空いた穴に向かって歩いて行き、そこから前回書いた地図に新たな坑道を描き加えていった。
たまにキノコを見つけたり、モンスターと遭遇したりしたが至って順調。地図の範囲は少しずつ広がっていった。
「そろそろ、昼にしよう」
「もうそんな時間?」
「エドの時間は正確ですから」
リュックを置き装備を外して坑道の壁に寄りかかるように座り、各々携帯食を食べ始めた。
干し肉、乾パン、干し果物に煎り大豆。これを見るたびに水の出るアイテムと、火の出るアイテムが無性に欲しくなる。ねえ、レメンゲン。
100回くらい『ねえ、レメンゲン』を唱えていればレメンゲンが俺の望みを聞いてくれるかもしれない。
『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』……。
「エド、今度は何始めたの?」
「いや、何でもない」
こんな訳の分からないことばかりしていたら、俺って二重人格になりはしないだろうか? ちょっと心配になってきた。
「そういえばエリカ。ダンジョンで見つかるアイテムで病気に効くアイテムってあるのかな? 例えば水薬みたいな」
「あるみたいよ。ガラスの瓶に入っていて中身が見えるそうで、中身が黄色だと病気に効いて、中身が赤いと傷とかに効くんだって。10階層辺りからちょくちょく見つかるようになるらしくて、それなりに出回ってるそうよ。オークションなんかじゃなくって買い取りカウンターでも買い取ってくれるんじゃないかな」
「ほう。となると10階層の魅力がまたまた上がったな」
「それはそうだけど、いくらレメンゲンの力があるといってもわたしたちはまだ新人なんだし、地道に行きましょ」
「エリカの言う通りだった」
「そうですね。地道に頑張っていきましょう」
「ところで、そのガラス瓶は坑道の路面の上にポツンと落っこちてるのかな? それとも俺たちの武器みたいに仰々しく台の上にのっかってたりするのかな?」
「それについては聞いたことないから分からない」
「さすがに箱か何かに入ってるんじゃないですか?」
「そうなると宝の箱ってわけだ」
「そうなるわね」
「じゃあ、宝箱が見つかるよう今のうちにお祈りしておこう」
『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』『ねえ、レメンゲン』……。
「エド、口の中でブツブツ言うのはやめてよ」
「今祈ってたんだけどな」
「分かったから、それなら気が済むまで祈ってなさい」
とうとうエリカに怒られてしまった。
今まで、3度もとんでもないアイテムを見つけてきた俺たちだ。10階層に行く前にまたおいしいアイテムをゲットできる可能性は十二分だと思ってもいいだろう。
運というものがひとつの能力なら、レメンゲンの力で俺の、いや俺たちの運は上がっているはずだ。期待大だ。しかも、レメンゲンを使って敵を倒していけばどんどん能力は上がっていくという。そしたら望みのものが打ち出の小槌を振るが如く湧き出てくるのは必定。
すなわちダンジョンとは不思議ポケットなのだ!
そこで俺はポケットつながりでポケットを叩くとビスケットが2倍になっていく歌を思い出した。最後にビスケットが粉々になる何とも悲惨な歌だったと記憶している。
世の中大した努力もせずにいい目に会うことは決してないという寓話そのものだ。
しかしレメンゲンがある今、ダンジョンはそのものズバリの不思議ポケットと考えていいだろう。
フフフフ。ハハハハ。
おっと。またエリカに何か言われるかと思って急いで顔を引き締めたのだが、さすがのエリカも今回は見逃したようだ。
「エドの久しぶりのニヤニヤ笑いを見て安心したわ」
見逃してくれてはいなかったようだ。
エリカを挟んで向こう側に座っているケイちゃんが笑っている。笑顔がかわいい。この笑顔は俺のニヤニヤ笑いが生んだものだ。そう考えると俺のニヤニヤ笑いも捨てたものではない。
今さらどうでもいいことなのだが、もしかして俺って生前も今みたいにニヤニヤしてたのだろうか? それが原因で45年間素人童貞だったんじゃなかろうか? 確かなことは思い出せないが、その可能性は十分ある。大学時代、クラブの仲間に何笑ってるんだ? って何回か言われたことがあったような、なかったような。
まさに今さらだが、今生の俺は生前の俺自身を他山の石とするという荒業で乗り切ってみせようではないか。乗り切った先でハライソが俺を待っている!
「エド、またニヤニヤしてるんだけど」
自分自身を他山の石とすることは難しい。これは今日たどり着いた二つ目の真理だな。
いつものように昼休憩を1時間取った俺たちは装備を整えリュックを背負い、地図作りを兼ねた坑道探索を再開した。
午後からの探索は休憩時間を含めて4時間。きっちり行くぞ!
駅弁スタイルのおかげで地図作りは順調なのだが、現れるモンスターはケイちゃんがウサツの一射で片付けてしまうため俺とエリカの出番はほとんどない。もちろん警戒を怠ってはいないが、地図を描いているだけではちょっと暇なのだ。
われに七難八苦を与え給え! などと、罰当たりなことを考えてしまったのだが、ここはダンジョンの中、お月さまなどどこにもないので七難八苦など与えられることもなく順調に坑道探索は続いた。
午前中とほとんど同じ感じで午後からの探索を終えた。
少しだけ心配だったオオカミとの遭遇だったのだが、今日も遭遇していない。
こういう時って、後でどっと。ってことまさかないよな?
俺のリュックもそれなりに膨らんでいるのだが、俺のリュックに入れていたものはエリカに預けているので、まだ大ウサギ1匹分程度の余裕はある。
「今日はここまでにして、この辺りで野営しよう」
「はーい」「はい」
荷物を下ろしヘルメットと手袋だけ外して野営準備を始め、一通り準備を終えてからランタンを囲んで食事を始めた。中身は昼食と同じ内容なので代わり映えは全くしない。いつも水袋から直接水を飲んで流し込むだけなので、即席のスープがあればいいんだけどなー。アレってフリーズドライっていうの? よく分からないんだけど、ああいった物が手に入らないかなー。
「そういえば、水薬のことは分かったけれども、変わった食べ物みたいなものはダンジョンの中で見つからないのかな?」
「変わった食べ物って?」
「例えばお湯をかけるだけで具のたくさん入ったスープができるとか?」
「聞いたことないけど、最初からスープを作ればいいだけじゃないの?」
「いや、ダンジョンの中ではスープって作れないじゃないか?」
「でも、お湯だって手に入らないじゃない」
確かに。
やはり、水の出るアイテムと火の出るアイテムがダンジョン生活ではキーになるな。
俺がそんな話をエリカとしていたら、ケイちゃんが俺の顔を不思議そうに見ていた。
そんなに俺の顔って不思議なん?
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