第61話 休日3


 エリカのお店**の支店長であるマルコ・ハウゼンさんと顔つなぎができた。


 店を後にした俺たちは、大通りに出て俺を中心とした横並びでギルドに向かって歩いて行った。やはりこのフォーメーションだと人目を引く。言ってみればリア充フォーメーションだものな。


「エリカのうちって相当手広く商売をしてるんだなー」

「まあね」

「エリカは将来そういった道に進まないのかい?」

「うちにはお兄さんにお姉さんが二人いるから何とでもなるからいいの。でもわたしもダンジョンワーカーとしてやっていけなくなるくらいの歳になったら考えるかもね」

「なるほど。でもそのころには働く必要ないくらい金持ちになってるんじゃないか?」

「うん。そのつもり。そのためにも、エドもケイちゃんも頑張ってよね」

「ああ、任せてくれ」「はい」


 こうやって話してながらも、俺たちのやる気は上がっていく。組織としてうまく回っている。と考えていいだろう。


 組織をうまく回していくためにも、恋愛感情などを組織に持ち込まないことは肝要だ。

 いくら俺が、この二人から求められたとしても、最後の一線を踏み越えてはならない。

 そう言ったことは起こりえないかもしれないが、もしもの時あたふたしないよう脳内シミュレーションは大事だものな。


「エド、好きにしていいわよ」

「エド、わたしに愛をください」


 これって断れるのか? いや、不可能に近いんじゃないか。困ったー。


「エド、今度はなに? 顔をしかめてブツブツ言わないでよ」

 おっと、口から洩れていたようだ。まずいまずい。

 ブツブツで済んでよかったぞ。


「もちろん、何でもない」

「そう? 口の中でブツブツ言ってるのいつものことだからいいけれど」

 ニヤニヤもいつものことだったしブツブツもいつものことだったのか!?



 当たり前だけど何事もなくダンジョンギルドに帰りついた俺たちは、各自自室に荷物を置き、少し早かったが1階に下りて昼食を摂った。


 天気も回復したし、エリカは昼からブーツを買いに行くそうだ。ケイちゃんは洗濯でもしようと言っていた。俺もケイちゃんと並んで洗濯したかったが、ちょっとマズそうなので何も言わなかった。


 しかし、俺も昼から洗濯したかったんだよなー。聞いていなければ洗濯できたのに。それも運が良ければケイちゃんが何かを洗っている隣で。


 今日の夕食は各自で摂ろうということは変更なかったので、俺は今日買ってきた荷物を整理して明日からの1泊ダンジョンアタックの準備をしたら夕方まで部屋で時間調整して夜の街に繰り出そう。相手は玄人さんだけど素晴らしい出会いがあるかもしれないし。



 街の鐘が3度鳴ったので俺はベッドからむっくりと起き上がり、出撃準備を整えて部屋を出て1階に下りて行った。


 ギルドの玄関から大通りに出て、例の一画に向けて足取りも軽く、というか速足で向かった。


 やって来ました。例の一画。

 黒服のおじさんが立っていたケイちゃんのお店の前に今日は誰も立っていなかった。

 

 店の前まで行ったところ、扉は閉まっているし、取っ手に手をかけたところ、カギがかかっているようでびくともしなかった。今日は休みだった?


 もとより看板も何もない店だったので、店を間違えた可能性がないではないが、俺の方向感覚がこの方面で狂うはずはないので、この締まった扉の先にケイちゃんがいた店があったはず。

 まさか、ケイちゃんが抜けて店を畳んだとか? まさかな。


 じゃあ、他の店を探すか。

 しかしこうなってくると、あのベテランダンジョンワーカーたちが口にしていたお店のことが気になる。

 俺の嗅覚をもってしても、それがどこなのか全く分からない。そもそもまだ通りは明るいし、人通りもまばらなわけで、営業時間外の可能性のないではない。いや、彼らは明るいうちから繰り出すとか言ってたし営業時間内のハズだ。


 どこだろうなー?


 この世界での初めてなんだから、それなりのところで体験したいんだけど、どこなのかなー?

 妥協してへたなところに入ってしまって初めてを失いたくない。だって男の子だもん。

 そんなことになったら涙が出ちゃうからな。

 


 そう思いながらその辺りを徘徊していたのだが、そもそも、それラシイ店が一軒もなかった。

 まさか、ここってそういった関係は皆無の健全路線なのでは? しかも既に日も暮れていたが通りを歩く人はまばらだ。

 どこかおかしい。ここって、ホントに夜の街なのか?

 俺の嗅覚は15年のブランクでその能力を失っていたのでは?

 疑惑は尽きない。



 ソレを目指して徘徊していた時の高揚感もなくなってきた上、腹も空いてきたことだし、今日は諦めて帰ろう。

 ちゃんとした情報を集めてから再出撃だ! ただ、うちのチームの男性は俺一人。チームメンバーに聞けないたぐいの情報なんだよなー。


 結局俺は駅舎の近くの食堂に入ってそこで定食と薄めたブドウ酒を頼んでその日は終わってしまった。

 こんなことなら、エリカたちとギルドで食事すればよかった。


 明日からまた1泊でのダンジョンアタックだから早めに寝てしまおう。



 せっかくの休日の午後を無駄にした俺はギルドに帰って早々に眠ってしまった。



 そして翌日。


 6時の鐘を聞き、いつものように雄鶏亭おんどりていの4人席に3人で座って朝食を摂っていた。食事を終えて準備を整えれば2度目の6階層への1泊ダンジョンアタックだ。


「エドは昨日の午後はなにしてたの?」

「特に何も。なんだか気疲れしてたから、早めに寝たなー」

 そう言うしかないものな。

「ふーん」

「エリカはいいブーツを買えた?」

「今はいてるのがそれ。代わり映えはしないけどはきやすいわよ」

「そいつはよかった。

 ケイちゃんは?」

「わたしは汚れ物を洗濯したあと部屋で防具の手入れとかして、あとはおとなしくしてました」

 それが一番だよな。あの店のことをケイちゃんに聞いてみたい気はするけれど、辞めた店のことなど知るわけないだろうし、エリカの前で妙な話はしたくないし。

 ケイちゃんのいた店のことより、問題なのは俺の嗅覚、風俗センサーがさび付いてしまっていたことだ。何とか生前の感度を取り戻したいのだがどうすればいいのだろう。この世界であの界隈の経験を積むしかないのだろうか? しかし、センサーが働かなければあの界隈もこの界隈もない。これは困ったことになった。


「エド、今度はなに顔をしかめてるのよ? 何か困ったことでもあったの?」

 確かに困ったことではあるがエリカに話せるような話じゃない。

 俺はごまかすため顔の表情を色々変えてみせた。

「顔の筋肉をほぐしてんだ」

 苦しい言い訳だが、エリカはそれで納得してくれたようだ。多分だけど。

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