第53話 1泊ダンジョンアタック、準備


 サクラダダンジョンの中で貴族の3男という男とその部下二人とあわや、というところまでいったが、何とか斬り合うことなくその場から脱出できた。


 なんでもかんでもレメンゲンのおかげと考えるのもどうかと思うが、あの時偶然前後からダンジョンワーカーが現れたことですくわれたわけだから、これもレメンゲンのおかげ。と、つい考えてしまう。

 レメンゲンに支払う対価はもう決まっている以上、開き直ってサービスをできるだけ享受した方が得なのは確かだしな。


 その日、夕食を3人で4人席に座って食べていたら、近くの席から新たな鉱山が領内で見つかったという声が聞こえてきた。

 しかも見つかったのは大規模な金鉱山らしい。鉱山開発には大量の人出が必要なので、領内からだけでは賄いきれないため、王国全体から人を募ることになるとか。


「金鉱山か。掘れば掘るだけヨルマン領は豊かになるわね」と、嬉しそうな顔をしたエリカ。

 ヨルマン領が豊かになればエリカの実家の商会も儲かるものな。


「人の手当てができなければ、おいそれと掘れないんじゃないか? ただの素人じゃマズいわけだろうし」

「領内のほかの鉱山から少しずつベテランを集めて新人を教育していけばすぐに掘れるようになるんじゃない?」

「まあ、今までもそうしてたんだろうし、古くなった鉱山からならたくさん人を連れて行ってもいいだろうしな。

 そういった形でベテランの都合はつくとしても、大量の新人を領外から連れてくるとなると、そこの領民が減ってしまうという意味で少しマズくないか?」

「そこの領主には恨まれるカモね」

「だよな」

「そこは国王が調整するんじゃないですか? 何と言ってもヨルマン辺境伯領が豊かになれば王国自体も恩恵にあずかるんでしょうから」

「そういえばそうだよな。それこそが王さまの務めだろうし」

「そうよね」



 それくらいで鉱山がらみの話は終わり、それから話題はいろいろ移っていったが、みんな意識してか今日のダンジョン内でのいざこざの話は出なかった。



 その日の翌日から3日間、5階層を巡った。

 ケイちゃんがいることで、俺とエリカにはほとんど出番はなかったがそれはそれでいいことなのだろう。

 収益も順調は順調なのだが、単純に運搬能力の問題で頭打ちになっている。

 一度窓口のエルマンさんに呼び止められ、ケストナー伯爵の3男のことについて話してもらった。

 エルマンさんの予想通りあの男たちのダンジョンへの入場は禁止されたそうだ。

 あの男のことからギルドの中で大声で抗議したんじゃないか? と、エルマンさんに聞いたら、笑って「ギルド長が対応しましたから大丈夫です」と返された。

 エルマンさんの笑いの意味を考えたところ、ギルド長ってそこらの貴族よりすごいってことなのだろう。と、気付いてしまった。



 その日の夕食。いつも通り3人で飲食しながら明日のことを二人に話しておいた。

「明日は泊りがけで潜る準備のため予定通り休みにしよう」

「了解」「はい」

「店が開いていないと意味ないから、朝食を食べて部屋に戻ったら8時にそこの出入り口前に集合でいいかな。荷物が多くなるからリュックを持っていった方がいいと思う」

「了解」「はい」


「各自で必要な物は毛布2枚、予備の水袋2つ、食料、タオルとボロ布。それにチームとして砂時計を1つ」

「エド、砂時計は何に使うんですか?」

「寝る時不寝番を置かなくちゃいけないから、不寝番の交代時間を計るんだ」

「なるほど」

「ケイちゃんには言ってなかったと思うけど、夜間というか睡眠休憩は全部で12時間。その中で4時間ずつ交代で不寝番になることを考えている。人によっては寝てる時間が4時間ずつ2回に分かれてしまうけどそれはがまんしてくれ。ローテーションで不寝番の順番は毎回変えていくつもりだから不公平にはならないと思う」

「はい」


「それでエド。最初の泊まりがけも5階層なの?」

「6階層以降の地図がないので6階層に行くとなると現場で地図を描く用意が必要になるんだろ?」

「うん」

「明日の買い物で地図を描くのに役立ちそうな物を見つけてみるよ。紙と筆はあるから、紙を置いて絵が描けるような軽い板があれば十分なんだけどな。思うような板が見つかったら6階層に下りてもいいと思う。6階層に下りたら7階層への階段を先に見つけよう」

 理想は俺が小学生のころ使っていた画板だな。

「うん。分かった。ところで、7階層への階段の目途ってあるの?」

「ないけど、今まで階段を下りて行ったら、その正面の坑道が次の階段に続いていたから、7階層もその可能性が高いと思うんだ。階段間の距離も30分ほどだし、40分くらい歩いて階段がなければ引き返して隣の坑道を見てみれば何とかなると思う」

「たしかに。さすがはエド」

 さすがと言われるほどのことでもないと思うけど、美少女にほめられれば素直にうれしい。これが男の本音。そういったシチュエーションになった場合、女子は積極的男子をおだてればいいんじゃないかな? 口はタダなんだし、悪いことは何もない、いいことづくめと思う。



 そして翌日。


 3人で朝食を食べ終わり、一度部屋に戻った俺は8時近くになるまで椅子に座って時間調整した。そろそろというところでレメンゲンを剣帯に下げて装備し、うちから持ってきた空のリュックを手に持って部屋を出た。


 部屋を出たところでちょうどエリカと会ったので二人そろって1階に下りていったら、出入口の前にケイちゃんがリュックを背負って立っていた。

 エリカも腰に双剣を下げていたし、ケイちゃんも腰に短剣を下げていた。治安はいいと言ってもやはり腰に何か下げていないと不安になるのがダンジョンワーカーなのかもしれない。

 そう言う意味で俺たちは既に立派なダンジョンワーカーだ。

 とはいうものの、俺がレメンゲンを下げてきたのは部屋に置きっぱなしにしたくなかったのが主な理由だし、エリカだって白銀の双剣を置いたおきたくはなかったと思う。

 ケイちゃんお場合もウサツを置いておきたくはなかったろうが、街中で弓を持っている者はまずいないのでやむなく置いてきたのだと思う。

 そう言った感じで武器を用意しているためか、エリカもケイちゃんも着ている服の上は胴着のようなもので、下は長ズボンだ。

 俺とすればオフでの女子にはスカート推薦なのだが、そんなことを口に出す勇気は俺にはない。


 ギルドから大通りにでた俺たちは、俺を中心に3人横並びでいつもの雑貨屋に向かった。つまり俺は今現在、前世も含めて経験したことのない両手に花状態なのであった! しかも相手は素人なのだよ。俺の初めてがまた手折たおられてしまった。あなうれし。

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