第54話 1泊ダンジョンアタック2、準備2


 両手に花状態で大通りを歩いていたら、やはり通行人から注目を集めてしまった。

 俺は自分で言うのもなんだが完全なフツメンだ。そのフツメンが美少女二人を連れ歩いているわけで嫉妬の目を向けられないわけがない。

 今この瞬間の実体はどうであれ俺は誰もが認める人生の勝利者なのだよ。フフハハハハ。


「ねえエド、さっきから何ニヤニヤしてるの? 何か面白いことでもあった?」

「いや何も」

 美少女二人を連れ歩いて天にも昇る心地だからニヤついていた。とか言えませーん。


 まあ、ダンジョン内を3人で歩き回っている時も今と似たようなものなのだが、ちょっと違うんだよな。

 この状況を満喫しつつ何が違うのか考えたところ、ダンジョン内だと会社で女性社員に接しているようなものでいわば玄人さんなわけ。だけど、ダンジョンの外、街中まちなかでの二人はいわゆる素人さんだ。その違いは俺にとって絶対だから、そう言うことだったようだ。


 とかなんとか考えていたら、目当ての雑貨屋に到着してしまった。店内の通路では横一列だと移動できないので天国状態はあっけなく終わってしまった。時間にして5分。なにげにこれは夢のまた夢。


 下らないことはひとまず置いて。

「まずは毛布と水袋を見てみよう」


 何度もこの店に来ている関係で、毛布を売っている売り場も水袋を売っている売り場もすぐに分かった。この店はダンジョンギルドからも近いし、ダンジョン内で必要そうなものはなんでも揃っている。店内の客もそれっぽいし、ダンジョンギルド御用達の店のようなものだな。


 各自で毛布を2枚と水袋2つを手にして一度店の人に清算してもらい、そこで砂時計はどこに置いてあるのか聞いたところ、こちらですと店の奥の方に案内してくれた。

 案内された先の棚の上に数種類の砂時計が置いたあった。


「4時間ものはどれです?」

「こちらになります」

 4時間用の砂時計は結構大きなものだった。4時間だものな。砂時計本体はくびれのところだけがガラス製で残りの部分は真鍮製。上下板と3本の木の柱がその本体を囲っている。

 これだと持ち運び時に壊れそうだし、邪魔になる大きさだ。不寝番には面倒になるけど1時間もので我慢するか。

「4時間ものだと大きすぎるから、面倒にはなるけど1時間ものにするか?」

「そうね。これじゃあ大きすぎるものね」

「1時間でいいんじゃないですか?」


「1時間ものはこちらです」

 店員が手に取って見せてくれた砂時計は形そのものは4時間ものと同じだけど随分小さくなった。

「これならいいかな?」

「そうね」

「そうですね」


「それでお願いします」

「これですと銀貨2枚になります」

 手に取ったところ作りもしっかりしているので高い買い物ではないようだ。

 チームの財布から銀貨2枚を取り出して店員に渡し、砂時計はリュックに入れ、さっき買った毛布にくるんでおいた。


 チームの財布にはケイちゃんの矢の補充で銀貨1枚使っているので銀貨6枚。

 砂時計の代金銀貨2枚払ったので残りは銀貨4枚。いい線だな。


 次に俺は薄板がないか店員さんに聞いたところ、売っていないと言われてしまった。ホームセンターじゃないんだから何でも売っているわけないものな。


「なければないでも地図は何とかかけるけどね。

 あと、ここで各自買うものはないかな?」

 ランタンの油瓶は予備もあるので今日は買わないでもいいだろう。

「特にはないかな」

「わたしもないです」


 いちおう雑貨屋での買い物が終わったところで店を出た。

「薄板なら家具屋かどこかそんなところに売ってるかも?」

「それじゃあ家具屋に行ってみるか。エリカは家具やってどこにあるか分かる?」

「分からない」

「ケイちゃんは?」

「わたしもわかりません」

「エド。店を捜し歩いても面倒だし、こんどわたしの店に行った時、そういったものがないか聞いておく。無いようなら用意させるから。それまでは描きにくいでしょうが、我慢できない?」

「何とかするよ。それじゃあ食料を補充しに行こう」

「そうね」

「はい」


 そこから夢の横一列になって乾物屋に歩いて行った。

 干し肉、乾パン、干し果物。木の実類は、くるみを筆頭に何種類かあったが殻付きしかなかったのでやめて、エリカの真似をして煎り大豆を買った。

 結局、エリカもケイちゃんも俺と買ったものは変わらなかった。


「じゃあこれで買い物は終わりだな。ここで解散するか?」

「昼までだいぶ時間もあるし、じゃあわたしは板のこともあるから店に寄ってからギルドに帰る」

「わたしはこのままギルドに帰ります」

「じゃあ、俺もかな。

 昼はどうする? 各自で食べる?」

「わたしも昼までには戻るから、ギルドで一緒に食べない?」

「分かった。ケイちゃんもそれでいい?」

「はい」

「それじゃあ12時に食堂前でいいかい?」

「うん」「はい」


 エリカがひとり大通りを下って行き、俺とケイちゃんで連れだってギルドに歩いて行った。

 両手に花もいいけれど、これはこれで。


 15分ほどケイちゃんと二人で歩いてギルドに戻った。

 3階の部屋の前でケイちゃんと別れて部屋に戻った俺は、今日買った荷物を整理して、時間調整のためベッドに横になった。


 魔力操作をしたわけではなかったのに、目を閉じていたら知らぬ間に時間調整され、気付けば街の鐘が鳴っていた。

 急いで部屋を出てカギを掛けていたら、そこで6度目の鐘が鳴り終わった。ケイちゃんも部屋を出たところだったので二人して1階に下りて行ったところ、雄鶏亭おんどりていの前に手ぶらのエリカが立っていた。


「エリカ、荷物は?」

「部屋に置いてきた。薄い板もちょうど店にあったから持ってきたわ。後で渡す」

「ありがとう。

 それじゃあ、食事にしよう」


 ……。


 昼食を食べ終えた俺たちは3階に帰って行った。そこでエリカが「エド、ここで待ってて」と、言い残して自分の部屋の中に入り、すぐに薄板を持って出てきた。

 エリカが渡してくれた薄板は俺が小学校時代に使っていた画板と同じくらいの大きさだった。


「ちょうどいい大きさじゃないか」

「そう。よかった。それで、紐もあった方がいいと思って紐を用意して隅に釘を打ってもらったわ」

「これは便利だ。エリカありがとう」

「どういたしまして」



 まさに画板だ。ここまで気が付くとは。名まえもそれっぽいし、まさかエリカさん転生者じゃないよね? 名まえは両親が付けるわけだから、やっぱり関係ないか。



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