第41話 リクルート2


 エリカに励まされてしまった。キャバクラでリクルートすると言い出せなかった。いずれ分かるにせよ、永遠に分からないにせよ、いったんケイちゃんが仲間になればエリカも細かいことは言わないだろう。素人と付き合った経験皆無の俺だ。もちろん確信はない。


 夕食を終え、エリカと3階に戻って部屋の前で別れた俺は、部屋に戻ってもしものことを考えてレメンゲンを下げた剣帯を腰に巻いて1階に下りていき、夜の街の例のキャバクラに向かった。


 黒服おじさんが今日も店の前に立っていて俺と目が合ったところで、一礼されてしまった。

 俺のことを覚えていてくれていたようだ。おじさんに覚えてもらったことがうれしかったわけではないが、俺も軽く会釈してしまった。


「お客さん、ケイちゃんいますよ」

 おっと、このおじさんプロだ。俺の目当てを見抜いている。

 俺はおじさんに導かれるまま店の中に入っていきソファーに座っていた。

 ほとんど待つことなく、目当てのケイちゃんがやってきた。

 ケイちゃんの今日の衣装は下は極超ミニスカートで、上はおへそを出したタンクトップだった。引き締まったお腹の真ん中のおへそがキュート。

 ケイちゃんは前回同様俺の斜め前に座った関係でミニスカートの奥は見えなかったが、見えそうで見えないところがまた**いいのだ。

「来てくれてありがとう」

 ワインを二人分注文したら、ワインと一緒にまたサービスで枝豆が付いてきた。

「それじゃあ、かんぱい」「カンパーイ」


「いきなりだけど、ケイちゃん、ダンジョンワーカーに興味ない?」

「ほんとうにいきなりですね。はい、興味はありますよ。だって、ここはダンジョン都市サクラダですもの」

「そうなんだけど、ケイちゃん自身がダンジョンワーカーに成りたいって考えたことない? ほら、ケイちゃん、弓と短剣が使えるって言ってただろ?」

「うーん。ダンジョンワーカーに成るには防具も必要だし武器も必要じゃないですか。それにわたしの場合、矢も必要だし。

 それよりも何よりも、弓の場合、一人じゃ何もできないと思うんですよ。外してしまって詰められたらそんなにうまくない短剣で戦うことになっちゃうし」

 ケイちゃんの言葉を聞いた限り、その気がないわけじゃないようだ。脈はありそうだ。

 ここは予定通りこのまま話を進めても良さそうだ。


「ケイちゃん。俺は今二人チームでサクラダダンジョンに潜っているだけど、どうしてももう一人メンバーが欲しいんだ」

「モンスターが手強いんですか?」

「いや。俺たちまだ新人なんだけど結構強くてモンスターはほとんど脅威じゃないんだ。ただ、泊りがけでダンジョンに潜るとすると、二人で交代で寝ることになるんだけど、それだと睡眠時間が短くなってしまうんだよ」

「確かにそうですね。それでわたしに」

「正直、最初のうちは戦力としてそれほど期待してはいないけれども、ある理由でおそらくすぐに戦力になる」

「その理由って?」

「今は話せない。だけど本当の話だ。

 後、装備の話だけれど、装備は自前で揃えてもらわないといけないけど、矢はチームで負担しようと思っているんだ」

「そうですか」

「だめかな?」

 こういった店で引き抜きのようなことをしていると前世では怖いお兄さんが出てくることも十分あり得たんだが、今のところ何ともない。俺にはレメンゲンもあるし、少々の危機なら乗り越えられると思うんだが。


「少し考えさせてください」

 当然だよな。いきなりほぼ見知らぬ男に勧められるまま、自分の将来なんて即決できるわけがない。

 枝豆を摘まみながら、そんなことを考えていたら、いきなりケイちゃん。

「わたし決めました」

「なにを?」

「だから、わたしダンジョンワーカーに成ります」

「えっ! そんなに簡単に決めていいの?」

「はい。さっき少し考えた結論です」

 いや、そうかもしれないけど、そんなのでいいのか?


「この店のことはいいの?」

「はい。いつでも辞められます。今日は無理ですけど今日で辞めますって言えばそれだけですから」

「そんなのでいいの?」

「はい。そういう契約ですから」

 契約ならいいんだろうなー。ここが反社組織系でないことが前提だけど。その辺り聞いていいものか? いや、これから俺たちのチームの一員になるわけだから、聞くべきだ。問題が起きたらチームリーダーの俺が何とかしなくちゃいけない。リーダーとはそういうものだ。


「ケイちゃん、もし辞める時にトラブルになるようなら言ってくれよ」

「はい。でもそんなことはないと思います」

「それでも」

「分かりました。明日にでもうかがいます」

「それじゃあ、ダンジョンギルドに入ると左手に食堂兼酒場があるんだけど、俺と俺の仲間がそこで待っているから。そうだなー、時間はいつ頃なら来られるかな」

「そうですね。明日の朝8時にはダンジョンギルドに行けます」

「なら、8時ということで」

「はい」

「あと、武器とか防具を買うお金はある?」

「高級なものを買うことはできませんが、普通程度のものなら買うだけの蓄えはあります」

「もし足りないようならある程度は貸せるから」

「はい。でも足りないことはないと思いますから大丈夫です」


「明日8時に会ったらその足でダンジョンギルドの登録をしてしまおう。登録料はチームで払うから」

「それくらい自分で払えますけど」

「そこはけじめだから」

「分かりました」


「あと、新人登録すると1年間ダンジョンギルド内の部屋を借りられるんだ。借り賃は10日で銀貨1枚。朝食と夕食は定食だけどギルドの食堂兼酒場はタダで食べられる。飲み物は別料金だけどね。

 それで、俺と俺の仲間は、ちょっとしたことをやった関係でその借り賃が免除されているんだ。だから、ケイちゃんがダンジョンギルドの部屋を借りるならそれもチームとして支払うよ。俺たちとすれば、ケイちゃんにもギルドの部屋を使ってもらいたいんだけどな」

「分かりました。今の宿から引っ越します」

「引っ越しは手伝うよ」

「大きな荷物があるわけじゃないので一人で大丈夫です」

「分かった。それじゃあ、登録とか終わったら次は武器と防具を買いに行こう」

「はい」


「おっと、俺の名まえをちゃんと言ってなかったよね」

「はい」

「俺の名まえはエドモンド・ライネッケ。エドでもエドモンドでも好きな方で呼んでくれていいから。それで、ここにはいないけど俺の相棒の名まえはエリカ・ハウゼン。双剣使いだ。そして俺たちのチーム名はサクラダの星。いずれこのサクラダでトップチームになる」

 最後のひとことは余分だったかもしれないが、ケイちゃんは笑うことなく真面目な顔をして聞いてくれていた。


 まだチームの財布はないからギルドへの登録料と矢の代金は俺が立て替えておこう。

 しかし、こんなに話がトントン拍子に進むものなのだろうか? なんだか何かの作意を感じるほどだ。

 まてよ。まさかこれもレメンゲンの力? 可能性がないわけではない。依然としてレメンゲンは黙ったままだが、俺が往生する前にはいろんな真相を話してもらいたいものだ。




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