第31話 3階層3
3階層で青スライムに出くわした。
今までスライムに遭遇すると、回れ右していたのだが、試しに戦ってみたところ意外とあっさりとたおすことができた。その上、スライムが取り込んでいたらしい銀の指輪を手に入れてしまった。
ダンジョンで見つけた指輪なのでなにがしか特別な効用があると思い左手の中指にはめたら第1関節と第2関節の間で動かなくなり、抜こうとしても抜けなくなってしまった。
根っこが張って動かなくなった感じはしないのでそういった意味での呪いの指輪ではなさそうだが何の効用も感じられなかった。
「指輪の効用は全然分からないけれど、抜けない以上はめたままやってみるよ」
俺は外していた手袋をはめながらエリカにそう言った。
「きっと何かすごい効用があるはずだから」と、エリカが半分笑いながら答えた。
指輪をはめた指が痛いわけでもないし、今のところ何かの役に立っている感じはしないのだが、気になければ実害はない。
しかし、効能だか効用があるか調べるとなると気にしないわけにはいかないので、抜けないことが必要以上に気になってしまう。これも人の
なんであれ左の中指が気になるくらいで大きなマイナスではない。
「指輪のことはこれくらいにして、そろそろ行こうか」
「うん」
地図を見ながらの移動を再開して30分ほど進んだところで前方からモンスターが近づいてくる気配を察知した。この感じは大ムカデだ。
「エリカ、大ムカデだ」
「うん。見えてる」
エリカが長短の双剣を構え、俺もレメンゲンを構えた。
大ムカデは2匹いた。
「エリカは後ろの大ムカデを頼む」
「了解」
大ムカデはくねりながら俺たちに近づいてくる。鎌首を持ち上げてくれれば頭の付け根で容易に切り飛ばせるのだが、こいつは地を這うように近づいてくるので頭の付け根を狙うのは諦めて毒腺を傷めないよう額を縦割りにすることにした。
間合いに入った大ムカデの左右に揺れる額にレメンゲンを振り下ろす。突き抜けて路面にあたろうとレメンゲンの刃が欠けはしないのだろうが、刃先が大ムカデの頭を突き抜けてしまわないように最後の瞬間レメンゲンを引いた。
俺を追い越していったエリカは後ろから迫ってくる大ムカデに対して左手の短剣をワザと空振りして威嚇したところ、大ムカデが鎌首をわずかにもたげた。
その鎌首に向けてエリカは右手の剣を一閃して大ムカデの頭を斬り飛ばした。うまいものだ。
どちらの大ムカデもしばらく胴体がのたくっていたがそのうち動かなくなったところで俺は大ムカデの頭をレメンゲンで切り離し、エリカに渡されたボロ布にくるんでからエリカに渡した。
エリカは自分が切り飛ばした大ムカデの頭をボロ布でくるんで先に自分のリュックに入れており、俺の渡した大ムカデの頭も自分のリュックに入れた。俺のリュックは大物専門というわけだ。
頭部を失くした大ムカデの胴体は邪魔にならないように坑道の脇に寄せてやり俺たちは前進を再開した。
「3階層の大ムカデは1階層の大ムカデより大きかったな」
「そうね」
「さっきのエリカの剣さばきは見事だったな」
「あら、そうだった?」
「俺のレメンゲンだと、坑道の岩にあたっても欠けるようなことはなさそうなんだけど、エリカの剣だと欠けるだろ? そこをうまくカバーして一撃だもの大したものだ」
「ちょっとだけ大ムカデとの戦い方考えてたのよ。試してみたらうまくいったから自分でも驚いてるの」
「それはすごいな。思った通りの結果が出せたってことは剣のセンスがいいってことなんだろうな」
「そう思う?」
「思う、思う」
いちおう、前世では結果を出した部下に対してはべた褒めしてモチベをあげるようにしていたもだが、ここでもその方法は役に立つようだ。エリカは目を輝かせうれしそうにしている。
結果を出せない部下については、俺がさりげなくカバーしてやっていたが、エリカについてはその心配はなさそうだ。
大ムカデの次に遭遇したのは毎度おなじみの大ウサギだった。
一匹だったこともあり俺に向かって頭突きをかまそうと飛び上がったところを横にかわしてレメンゲンを振り下ろしたら首の根元で切断された頭部が胴体と一緒に坑道の路面に転がった。攻撃方法が一種類しかない大ウサギは実にありがたいお客さまだ。
首無し大ウサギはいつものように血抜きをして俺のリュックに入れた。今日の俺のリュックは新しい大型リュックなので、大ウサギなら後2匹余裕で入れられる。
大ウサギをたおした現場からしばらく進んだところで、俺たちは休憩に入った。
坑道の壁際にリュックを下ろし、レメンゲンを付けたまま剣帯を外して坑道の壁を背にしてエリカと並んで腰を下ろした。
俺は自分のリュックのポケットに入れていた干しブドウとプラムの入った布袋と干し肉の入っていた布袋を取り出し、エリカのリュックに入れてもらっていた水袋を渡してもらった。
炭水化物とタンパク質、それに繊維とミネラル。なかなかの取り合わせと思う。
エリカも同じように布袋と水袋を取り出した。
「ねえ、エド。わたしたち夜目が利くようになったからランタン使っていないけど、休憩する時はくらいはランタン点けてた方がいいんじゃない」
「うん?」
「だって、他のダンジョンワーカーが遠くから見て座っているわたしたちのことモンスターと勘違いするかもしれないじゃない? 弓とか持ってたら射かけてくるかもしれないし」
「確かにそうだ。今日は用意していないから仕方ないけど明日からは用意しよう」
「話変わるけど、今度辺境伯主催の武術大会の予選があるんだって。知ってた?」
「いや。初めて聞いた」
「サクラダでも予選があって優勝者は領都のブルゲンオイストで行なわれる武術大会に出場できるんだって。本大会での上位者は領軍に部隊長として採用されるそうよ」
「ふーん」
「なんだ、エドはそういった話に興味ないの?」
「興味がないわけじゃないけれど、俺じゃあ歯が立たないだろうし」
「そんなことないんじゃない?」
「俺って、俺の父さんに全く歯が立たなかったんだ。上に3人兄がいるんだけど、上の二人にも歯が立たなかったんだよ」
「それって、村にいたころの話じゃない。今のエドなら負けないんじゃないかな」
「そうかなー」
「だって、あの新人狩だって楽勝だったじゃない。ギルド長はあの新人狩は腕が立ったって言ってたし」
「確かにそうは言っていたけど。それはそうと、エリカは俺にその大会に出ろって言いたいの?」
「そう言う意味じゃなかったんだけど。そういった大会があるなら二人で見物に行ってもいいかなって思ってたの。エドが興味ないなら誘えないじゃない」
「一緒に見に行こうって話なら全然問題ないよ」
「じゃあ、一緒に見に行きましょうよ。
試合は5日後だったから、その日はダンジョンはお休みして見物ね」
「了解」
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