第28話 2階層3
地図を見ながら2階層の坑道をエリカと歩いていたら前方で新人らしきダンジョンワーカー3人が2匹の大ウサギと戦っていた。
かなり苦戦しているようだなかなか戦いが終わらない。
『早くしろ!』とも言えないし、引き返して他の通路を進む気にもならない。
「エリカ、どうする? なかなか終わりそうにないぞ」
「困ったわねー。
わたし思うんだけど、2階層でもわたしたちには楽過ぎるんじゃないかな?」
「確かに。
俺たちなら目の前の大ウサギくらい一瞬でたおせるものな」
「いったん階段下まで引き返して、3階層に下る階段まで行ってみない?」
「それもそうだな」
俺たちはUターンしてもと来た坑道を引き返していった。
5分ほど歩いていたら前方から近づくモンスターの気配を察知した。
また大ウサギだ。赤い目が4つ。
俺とエリカは黙って剣を引き抜いて構えた。俺はレメンゲン。エリカは双剣だ。
2匹の大ウサギが間合いに入ったところで俺とエリカはそれぞれ右と左に大ウサギをかわして各々剣を振るった。
レメンゲンが一閃して俺に向かってきた大ウサギの頭が路面に転がり、エリカの左右の剣が二閃してエリカに向かってきた大ウサギの首が路面に落ちた。
二匹とも先ほどのダンジョンワーカーたちが戦っていた大ウサギより一回り大きな個体だった。
いつものようにモンスターの死骸を首が下になるように坑道の側面にもたれるように斜めに置いて血が抜けるのを待ちながら。
「エリカの言う通り、この階層だと楽勝だな」
「エド、3階層には何が出るのか調べてる?」
「調べてる。1、2階層と同じモンスターにヘビとトカゲが加わったと思う。出てくるのは1匹から3匹」
「さすがはリーダー」
大ウサギの首から血が出なくなったところで2匹とも俺のリュックにしまった。それだけでリュックはパンパンに膨らんだので、次はエリカのリュックに入れないといけないが、エリカのリュックには俺の雑貨なども入っているので大ウサギなら1匹が限度だ。
「荷物が運べないところがネックだよな」
「そうねー。何か良い手があればいいんだけど」
「とりあえずはもっと大きなリュックを用意してみるか。そうしたらもう1匹大ウサギが入るだろう」
「そんなに持てる?」
「後1匹なら背負ったままでも戦えると思う。背負ってなんとか歩けるくらい重いなら、戦いの時だけ下ろして戦えばいいだけだしな」
「じゃあ、3階層への階段を見たら引き返してリュックを買いに行く?」
「そうだな。3階層で戦っていくなら必要だろう」
「そうだよね」
俺は歩きながらマジックバッグのようなものがあればなーとか考えていた。ファンタジー小説なんかだとよく出てきていたが戦記物小説には出てこなかった。
何となくだが、ダンジョンがあるくせに魔法のないこの世界って純ファンタジー世界ではなくて戦記もののファンタジー世界のような気がする。この関係の俺の勘は当たると思うぞ。
とはいうものの、このダンジョンではマジックアイテム的なものが見つかることがあるというのは事実で、現に俺は魔剣レメンゲンを腰に下げている。アイテムバッグが見つかってもおかしくない。
リュックを背負い直して階段下の空洞まで戻り、それから地図を見ながら3階層への階段に続く坑道に俺たちは入っていった。
時間が時間なので3階層に向かうダンジョンワーカーの数は限られているようで単純について歩けばいいようなものではなかったが、坑道そのものがそれほど曲がりくねっているわけでもなかったし、側道ははっきり側道と分かるので、地図がなくても道に迷うようなこともなさそうだ。
そんな感じで階段下の空洞から30分ほど歩いたら下り階段のある空洞にたどり着いた。
「初めてきたわけだけど、目新しい感じはないな」
「そうね。それじゃあ引き返しましょうか? エドは休まなくて大丈夫?」
「大丈夫」
俺たちはそれから1時間ほどかけてダンジョンギルドに戻ってきた。
時刻的にはまだ10時前のハズ。
先に今日仕留めた大ウサギを買い取ってもらい、そのあと部屋に戻って荷物を置きエリカと一緒に雑貨屋に向かった。
いちおう俺はレメンゲンを、エリカも二つの剣を腰に下げている。
雑貨屋に入っていき、二人でリュックを売っている一画に行き良さそうなリュックを探してみた。
「エド、これなんかいいんじゃない?」
エリカがかなり大きなリュックを手にして俺に見せた。
そのリュックの底に4カ所、左右にそれぞれ4カ所紐が付いていて、それを緩めれば畳み込まれたリュックの生地が広がり容量が最初の状態の1.5倍ほどになるというものだった。
元のリュックも大型なので、今の俺のリュックに比べれば2倍近い容量になる。
リュックの角などは革で補強してあるので丈夫そうだ。
店の人が言うには、ベテランダンジョンワーカーはたいていこのタイプのリュックを背負っているという。
トップダンジョンワーカーチームになる予定の俺たちにふさわしいリュックと言えよう。
きみに決めた!
値段は銀貨6枚したがいい買い物だった。エリカが代金の半分を出すと言ってくれたがもちろん断った。
リュックのほかに地図を描き写すために紙を5枚と例の鉛筆みたいな筆を1本予備に買っておいた。それ以外に買うものはなかったので、俺たちはダンジョンギルドに戻ったのだが時間はまだ昼前だ。
「俺は荷物を部屋に置いてくるから、エリカは食堂で何か摘まんで待っててくれ」
「分かったわ」
食堂兼酒場にエリカを残し俺だけ3階に上がって荷物を部屋に置いて、1階に戻った。
食堂兼酒場でエリカはいつものように4人席について揚げたイモを食べながらジョッキで何か飲んでいた。
そのエリカの向かいに俺は座った。
「エリカは何飲んでる?」
「エール」
「じゃあ俺もそれにするか。他には昼の定食だな」
「もう食べちゃうの?」
「エリカは、それだけでいいのかい?」
「昼からはもうダンジョンに入らないでしょ? ちょっと落ち着いて飲もうかなって」
「そうか。なら俺も付き合うか」
給仕のおじさんがやってきたので、俺がエリカと同じエールとソーセージ、それに枝豆を頼んだ。
注文した料理とお酒はすぐに届けられたので、エリカと軽く乾杯してから俺もつまみを食べながら飲み始めた。
「そういえば、ここって名まえないのかな?」
「どこにも書いてないからないんじゃない」
「そーかなー。次注文するときおじさんに聞いてみるか」
「そうね」
エールを飲み終わったところで給仕のおじさんにお代わりを頼みついでに店の名まえを聞いてみた。
「だれも呼んでくれないが
なかなかカッコいいな。朝早くから開いているからか付けらえた名まえか。
それで俺はつまみとして
エールが二つと鶏のから揚げが届けられた。鶏のから揚げは一皿に盛ってもらっている。
「エリカも食べてくれ」
「うん。じゃあ遠慮なく」
から揚げだとしてもこうやって女子と同じ皿のものを食べるのは新鮮ではあるな。俺が代金を払うことになるがこれからはこのスタイルで行ってもいいな。
俺もから揚げをフォークで突き刺して口に運んだ。日本で食べた鶏のから揚げと比べ衣の味は薄いようだが鶏自身の肉の味はこちらの方が上だ。ジューシーでコクがあるとでも言おうか。比内地鶏のから揚げを思い出してしまった。日本の食べ物は最高だと思うが今の俺にとっては金を出しても手の届かないものだ。それでもこういった料理をリーズナブルな値段で食べられる。しかもエリカのような美少女と一緒にだ。俺って本当にツイてる。
「エド、このフライドチキンおいしいね」
「うん。おいしい。エールにもよく合う」
「ホントだね」
エリカも幸せそうな顔をしている。エリカとチームになることができたこともツイてた。
「エド、何ニヤニヤしてるのよ?」
オット! これはいかん。ニコニコ笑いのつもりだったがニヤニヤ笑いになっていたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます