第27話 2階層2


 新人狩をたおし、ギルド長から多額の報奨金を頂いてこの世界のキャバクラを見学した翌日。


 いつものように4人席にエリカと二人で座って朝食を摂りながら、エリカに耳が横に長い種族のことについて聞いてみた。


「辺境伯領の北西に広がる大森林の中にそういった種族がいるって聞いたことがあるわ。確か種族名はそのまんま耳長族だったかな。自分たちのことをエルフって呼んでるみたいだけどこの国では耳長族って呼んでるみたい」

 エルフ来たー! ってところか。ところ変われどそういった文化的共通項があると何気にうれしい。しかし、それってたまたまなのか? 謎ではあるよな。この世界と地球が繋がっていたりして。

 さすがにそれはないにしても、この世界の誰かが地球に転移転生してそういった名まえを広めた可能性はある。俺がその逆の生きた証拠なんだから十分あり得る。


「どうしたの?」

「昨日耳の長い女性を見たんだ」

「そうなんだ。珍しい」

「その耳長族がどれくらいの数いるのか分からないけれど、将来的に辺境伯領は大森林方向に広がっていくわけだし、エリカの実家でエルフたちと交易とかすれば面白いんじゃないか?」

「そうね。今度うちに帰ったら父さんに言ってみる」

「商売がうまくいったら、新しく支店ができるかもな。ひょっとしたらエリカが支店長になるかも?」

「よしてよ」

「アハハハ。

 さて、今日から本格的に2階層だな」

「きのうギルド長に言われたけど、頑張ってトップチームになろう。わたしたちならきっとトップチームに成れるよ」

「うん。頑張ろう」


 俺たちが決意も新たにしていたら、俺たちのテーブルの隣に座っていたおそらく新人ワーカーの3人組が、俺たちに向かって話しかけてきたというよりバカにしてきた。

「何バカなこと言ってるんだ。お前たちみたいなお子さまチームが100年経とうが間違ってもトップチームになりゃしないよ」

「そりゃそうだ」

「アハハハ」


 俺は彼らの言葉を聞いても、子どもの戯言ざれごと程度にしか感じなかったので無視を決め込んだのだが、エリカは違っていた。

「あんたたち、いい気になってるけど新人狩怖くないの?」

「怖いわけないだろ。昨日新人狩の犯人は手練れのダンジョンワーカーに討ち取られてるんだよ。フン。そんなことも知らなかったのかよ。そんなんでトップチームを目指すってー」

「「アハハハ」」


「あんたたち、その犯人を討ち取ったの誰だと思ってるの? それってここにいるエド。エドモンド・ライネッケなの」

「なにウソこいてるんだ?」

「いうに事欠いて」

「バカじゃなーい」


「あっ、そう。それなら受付のエルマンさんに聞いてみなさいよ。わたしたち『サクラダの星』のことを教えてくれるはずだから」


「ああ、わかったわかった。後でエルマンさんに聞いといてやるよ。その後で『サクラダの星』って大層で恥ずかしい名まえ言いふらしてやるよ」

「「アハハハ」」


 確かに『サクラダの星』は名前とすれば大層だし、実力が伴わなければ相当痛い名まえであることは事実なのだろう。しかし、俺たちには実力があるんだなー。これが。

 俺自身は連中の言葉を鼻で笑っていたのだが、顔にも出ていたようだ。


「エド、何笑ってるのよ?」

「こいつら、エルマンさんから事実を知るだろうからその時が楽しみだろ?」

「確かに」

「その時のこいつらの顔が見たいが見られないのが残念だ」

「うん。そうね」

 エリカも俺の言葉を聞いて悪い笑顔を見せた。

 俺の自信に満ちた言葉を耳にした連中はエリカの笑顔と反対に顔を見合わせていた。何か気づくことでもあったかな?


「エリカ、そろそろ行こうか」

「そうね」

 あらかた朝食を食べ終えた俺たちはまだ何か言っている連中を放っておいて席を立った。


 俺たちは一度部屋に戻って装備を整えてから二人揃って1階に下りて渦を通り、そこから2階層に向かった。



 2階層では、地図を見ながら昨日とは違う坑道に入っていった。俺の描き写した2階層の地図は完ぺきではないのでエリカの地図と俺の地図を照らし合わせながら進んでいる。


 新人なのだろうが2階層ともなるとダンジョンワーカーの数も多いようで、今日も地図を見ながら30分ほど進んでいたら前方にランタンらしき明かりが見えてきた。

 ダンジョンワーカーは3人でチームを作ることが多いのか見えてるランタンの数は3つ。一つは路面に置かれ、残りの2つは激しく揺れ動いているのでモンスターと戦っているようだ。

 おそらく今戦っているのは俺たちより少し早くダンジョンに入った連中なのだろう。


 俺たちは夜目が利く関係でランタンに火を点けていない。俺たちの気配で戦っている連中を驚かせては悪いと思った俺は彼らの近くまで行って、そこで声をかけることにした。

「エリカ、邪魔にならない範囲で近づいて声をかけておこう」

「うん」


 戦っていたのは、3人のいずれも若そうに見えるダンジョンワーカーで、一人は短槍と盾を構え、もう一人はメイスと盾を構え、最後の一人が短剣を構えていた。その3人目のワーカーは腰にクロスボウを下げている関係で動きづらそうだ。クロスボウがメイン武器なのだろうが、接近されたためやむなく予備の短剣で戦っているのだろう。残念なことにそのワーカーは遊兵化しているようだ。連携がへたくそな新人の場合、よくあることなのだと思う。


 彼らの手前10メートルほどまで近づいたところで声をかけた。

「俺たちここに二人いまーす。みなさんは俺たちのことは気にせず戦ってくださーい」

 この声掛けの文言もんごんでいいのか分からなかったが、これで言いたいことは伝わったはずだ。


 当たり前だが戦いに集中している3人からは返事はない。

 彼らが相手していたモンスターは2匹の大ウサギだった。かなり大きな個体だが、いつぞや俺が仕留めた巨大ウサギにはもちろん及ばない。

 大ウサギは今の俺たち二人にとってお客さまと言っていいモンスターだが、目の前の3人は結構苦戦していた。レメンゲンがなければ俺たちだって苦戦していただろうし、新人たちならこれが普通なのだろう。少々時間がかかろうがこの2匹をたおせば、3人であれ1日の黒字達成だ。


 ただ、俺たちがここで待っていることは認識してちゃっちゃと戦いを終わらせてほしい。

 少し戻って側道に入っていく手もあるのだが、まだ2階層の2日目なので、階段下から伸びる本坑道を地図と照らし合わせて確かめながら歩きたいんだよなー。

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