第25話 報奨金の使途


 新人狩をたおしたことでダンジョンギルドから報奨金が出るという。

 期待しながらエリカと昼食を摂り最後に薄めたブドウ酒を飲み干して俺たちは席を立ち、窓口に向かった。


 窓口ではエルマンさんとクレイさんが俺たちが食べていた食堂の定食を二人揃ってカウンターの後ろで食べていた。ちょっと間が悪いのでどこかで時間を潰そうとエリカに言おうかと思っていたら、エルマンさんが俺たちを見つけて食事の手を止めて声をかけてくれた。

「ライネッケさん、ハウゼンさん、どうぞこちらにおいでください」


「食事中なもので失礼しました。ギルド長室にご案内します」


 エルマンさんがカウンターの横の辺りを持ち上げてホール側に出てきて、そのまま俺たちを案内して階段のほうに歩いて行き階段を上っていった。


 エルマンさんに案内されたのは2階の奥の方にある扉の前だった。

「失礼します。ライネッケさん、ハウゼンさん、お二人をお連れしました」

 扉越しにエルマンさんが声を掛けたら部屋の中から野太い声が返ってきた。

『おう。二人に入ってもらってくれ』

「お二人とも中にどうぞ」


 エルマンさんが扉を開けてくれ、俺とエリカは部屋の中に入っていった。

 エルマンさんは部屋の中に入ることなく、帰っていった。俺とエリカだけではギルド長を相手にするのはちょっと心細いぞ。ショーン、カムバーク!(注1)


 部屋の奥には大きな机が置いてあり、机の後ろで大柄のいかついおっさんが椅子から立ち上がったところだった。


 机の手前には応接セットが置いてあった。

「二人とも、座って楽にしてくれ」


 おっさんに勧められるままにソファーに座った。エリカは衣類の入っているはずのリュックを持っているのでリュックは足元に置いた。

 この世界で転生して初めて座ったソファーは思った以上に硬かった。いいけど。

「ふたりともよくやってくれた。

 お前たちがたおした男の着ていた胴着の内ポケットの中から新人のタグが多数見つかった。ほとんどがここの住人で、部屋は空だ。

 それで男の身元だが、以前ここに勤めていた男だった」

「ギルドに対する私怨ということですか?」

「おそらくそうだったんだろう。腕は立つやつだったが、博打にはまってギルドの金を持ちだしたんだ。その時ヤツは諸々を残したまま雲隠れしたんだ。ヤツの残した私財を売り払ったものの回収できた金はわずかだった。

 今いる職員でヤツを知っている者は1階には少なくなっているから、ヤツがダンジョンの渦を通っていたことに全く気付けなかった。

 これは俺たちの落ち度だ。

 なんであれ、よくやってくれた。ヘルメットごとかち割られたヤツの頭を見たが、ベテランでもあそこまでの一撃は難しい。ライネッケ、見事な一撃だ」

「ありがとうございます」

「それで、これが報奨金だ。金貨20枚入っている」

「「ありがとうございます」」

 ギルド長から渡された小袋はずっしり重かった。

「二人ともここの寮に住んでるそうじゃないか。これから先、寮を出るまでの寮費は免除してやる。二人ともこれからも頑張ってくれ」

「「頑張ります!」」


「ところで、二人はチームで活動しているそうだがチーム名はあるのか?」

「はい。『サクラダの星』という名前です」

「ほー。なかなかいい名まえじゃないか。来年の今頃には、トップチームの一画を占めていそうだ。頑張れよ」

「「はい!」」


 ギルド長室から退出したところで、俺はエリカに俺の部屋に行こうと声をかけた。エリカは?の顔をしたが黙って俺の後についてきて俺の部屋に入った。そこで俺は内側から部屋のカギをかけた。


「カギかけて、なに?」

「いや、わかってるだろ。人に聞かれちゃまずいし」

「えっ? 何よ」

 そりゃあ、男の部屋に入って扉の鍵を掛けられたら気になるよな。残念だけど、そういう意図じゃないし、もしそんな意図があっても俺じゃ無理だから。


 俺は何も言わずギルド長からもらった小袋から金貨10枚を取り出してエリカに渡した。

「エド。これってあなたが全部もらっていいんじゃない?」

「最初の約束は折半だ。気にするなよ。これからも一緒に頑張るための投資と考えてくれよ」

「分かったような分からないような。とにかくありがたくいただいておくわ」

「それでいい。

 実は俺、ここに来るとき父さんに金貨5枚借金してたんだ。これで返せたうえに貯金までできてしまった」

「それはよかったじゃない」

「借金を父さんに返すためそのうちロジナ村に帰らなくちゃいけないけど、妹がロジナ村から出たいって言ってたから、借金を返しに家に帰ったら村から連れ出す約束してたんだ。借金を返した後に金貨5枚もあればここじゃなくて二人で住める部屋も借りられる」

「じゃあ、すぐにでもロジナ村に帰るの?」

「いやー、さすがにまだ帰らないよ。1年くらい先でいいんじゃないかな」

「わかった。それまでせいぜい稼ぎましょう。その時はわたしも実家に帰ってもいいし」

「うん。さっきギルド長が言ってたけど、1年でトップチームになろうぜ」

「うん」


 文字通り現金な話で、俺たちのモラールは今や天をも衝く勢いだ。やってやるぞ!

 これも、元をただせばレメンゲンのおかげだ。レメンゲンは悪魔の化身の可能性大だが、約束はキッチリ守ってくれているし、今の俺たちにとっては神さまだな。


 その日俺たちのやる気は爆上がりしたのだが、午後からダンジョンに入る気はさすがに起きなかったのでそこで解散し、その日の残り時間は夕食も各自で摂ることにして自由時間とした。



 懐に十分余裕ができてしまった俺は、夕方から夜にかけてあっち関係の店を物色するつもりだ。素人童貞卒業の前に玄人でウォーミングアップは必須だからな。

 時刻はまだ1時くらい。さすがにこの時間では、そういったお店は準備中というか寝静まっているだろう。英気を養うためにベッドに横になった俺は、恒例の魔力操作を始め、気付かぬうちに眠ってしまった。


 ベッドの上で街の鐘が3回鳴るのが聞こえた。

 俺はむっくり起き出し、胴着姿に剣帯を締め、レメンゲンを腰に下げてウキウキ気分で部屋を出た。この季節、まだ外は明るい。


 目指すはこの街の歓楽街。情報収集しているわけではないので正確な位置は分からないが、生前の俺はこういうことにかけてだけ**は勘がさえた。

 この夕べも勘がさえるに違いない。


 ウキウキルンルン。足どりも軽く大通りに出た俺は、通りを横切って勘を頼りに裏通りの方に歩いて行った。


 裏通りの人通りはそれほどなかったが、人が通っていないわけではない。

 そんな道を勘を頼りに歩いて行く。

 もちろんこの世界にけばいネオンの明かりがあるわけでもないので勝手は違うが、俺の嗅覚が今夜の敵の痕跡を発見したようだ。俺は勘と嗅覚を頼りに敵を求めてさらに奥地に足を踏み入れていった。まさに秘境探検隊の気分だ。


 ついに俺は都会の秘境、サクラダの風俗街を発見してしまった。まだ確証はないのだが、俺の勘はそう告げている。


 そもそも、この世界の風俗についての情報をいっさい持っていない俺は全くの素人。しかもこの世界では素人玄人しろくろ関係なく未経験者だ。

 そんな俺でも安心して遊べる店をこの秘境の中で探さなければならない。



注1:

シェーンの女性形は一般的にはショーナらしいんですが、それでは遠かったのでエルマンさんの名まえをショーンにしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る