第24話 新人狩その後


 新人狩をたおした俺たちは、新人狩の犠牲者3名からギルド会員証を兼ねたタグを回収し、彼らと新人狩の死体を坑道の脇に寄せて、1時間ほどかけて渦を抜けダンジョンギルドに戻った。


「受付に行って報告すればいいのかな?」

「そうじゃない」


 ギルドの受付は午前8時から午後5時まで営業しているようで、たいてい二人カウンターの後ろに並んで座って仕事をしている。一人は俺たちのギルド入会時の手続きをしてくれたショーン・エルマンさんでもう一人はマリナ・クレイという名の女性だ。


 渦からダンジョンギルドに出た俺とエリカはまっすぐ窓口に歩いて行った。

 誰も並んでいなかったので、エルマンさんの前に行き、先ほどのことを報告した。

「1時間ほど前、2階層で新人狩らしい男と3人の男女が戦っていたので助けようと駆け付けたんですがその3人は新人狩にたおされてしまって間に合いませんでした。

 男は俺たちに襲い掛かってきたので返り討ちにしました。

 男に殺された3人のタグはこれです」

 そう言って俺は回収した3個のタグをカウンターの上に置いた。


「お二人だけで新人狩の男をたおされたのですか?」

「わたしは見ていただけで、たおしたのはエド、エドモンド・ライネッケだけどね」

「ありがとうございます。

 それで犯人をたおした場所はお分かりですか?」

「はい」

 エリカが2階層の地図をエルマンさんに見せ、俺が犯人をたおした場所を指で示した。


「まだ犯人をたおしてから1時間ですね。死体はあと半日はダンジョンに吸収されませんから、これから職員を向かわせ確認させます。

 午前中には確認が取れますから午後、ここにおいでください」

「何かあるんですか?」

「当ギルドでも内々に調査を進めていたのですが、進展がなかったため賞金をかける用意をしていたところです。そういうことですので、ギルドから報奨金という形で金一封が出るはずです」

「分かりました」



 受付での用事が終わった俺たちは買取窓口に回って今日の獲物の大ネズミ2匹を買い取ってもらい代金はいつも通り二人で折半した。

「二匹とも首を一撃か。お前さんたち新人とは思えないな」

「それほどでもありません」「フフフ」

 プロにほめられるとうれしいものだ。


 ネズミ2匹では大した金額にはならなかったが、それでも1日の稼ぎとすれば黒字になった。


「エリカ、これからどうする?」

「昼までまだだいぶ時間があるから、わたしは洗濯物を持ってうちのお店に行こうかな」

「じゃあ、俺も洗濯物が溜まってるから洗濯しておこう。昼の鐘が鳴ったらそこの食堂前に集合ということにしようか」

「了解」


 二人そろって3階に上がりエリカとは部屋の前で分かれた。

 俺は部屋に戻って装備を外し、下着とタオル、それにボロ布を桶に山盛りにして1階に下りていきホールを横切ってギルドから外に出て井戸に回った。

 洗濯物を持った男がギルドの玄関を出入りするとギルドとして見た目が悪いと思うのだが、体育会系のノリというかギルドはその辺気にしていないようだ。


 ダンジョンギルドの裏手に回って井戸のある水場に行ったところ、洗濯中の男女が数人いた。俺もその中の一人になって洗濯を始めた。


 新人狩を殺したのはほんの1時間ほど前。それなのにのんきに洗濯している自分って、日本では考えられない状況だ。人ひとりを殺したこと、それも自分の手にした剣で叩き斬って殺したことにほとんど何も感じないことが不思議ではある。

 妙に気に病むより何倍もいいのは確かだが、これでいいのか? と、考えないわけでもない。

 でも、やっぱり悩まないに越したことはないのでこれでいい。



 そういえば、俺が読んだ本で主人公が洗濯しているところを描写したものはなかったような。体感人生60年。俺が世界の中心で主人公だなんて思ってもいないが、この状況どうなんだ? もう少し主人公っぽくてもいいような。


 俺が洗濯していたら、女子同士で洗濯している二人組が井戸端会議をしていた。

 俺と同じで下着やタオルを洗濯しているのだろうからじろじろ見ないように意識していたら、二人の会話が耳に入ってきた。レメンゲンのおかげで今の俺って耳がいいし。


『カニス達まだ帰ってきてないって。もう3日だよ』

『新人狩にやられたんじゃないかってフェリクスたちが言ってたよ』

『やっぱり凶悪なモンスターじゃなくて新人狩だったのかな?』

『そうなんじゃない』

『どっちがいいかは分からないけど、どっちにも出くわしたくはないわよね』

 ……。


 フェリクスって聞いたことがある名まえだなと思ったら、今日新人狩に殺された3人のうちのひとりのタグに刻まれていた名まえだった。

 今の話の本人である可能性は高いんだろうけど、確定ではないから何も話さないでおこう。


 ということなので、俺は下を向き黙って洗濯を続けた。

 しかし、実数は分からないがかなりの数の新人が新人狩にやられた感じだ。

 いったい新人狩は何のために新人たちを襲ったのか?

 謎ではあるが、俺がこの手で犯人を殺してしまった以上謎は謎のままで幕引きだ。


 俺の洗濯がいい加減なせいか、洗濯は結構早く終わってしまった。石鹸も使っていないわけだから当たり前だ。

 石鹸欲しいなー。どこかに転生者が現れて知識チートで石鹸作ってくれないかなー。


 なるべく洗濯物を固く絞って桶に入れた俺は、その桶を持ってギルドの玄関からホールを横切っていき階段を上って部屋に戻った。


 俺は部屋の窓を開けて、洗濯物を物干しロープにかけてていった。洗濯物の量が多かったせいで一部重なってしまったが、そのうち乾くだろう。

 一仕事は終わってスッキリした。これで、あと4、5日は洗濯しないで済む。


 12時の鐘が鳴るまでベッドに横になっていよう。


 ベッドに横になって半分寝ていたら、街の鐘が6回鳴るのが聞こえてきた。

 いちおう戸締りして部屋を出た俺は1階の食堂兼酒場に向かった。


 まだエリカは来ていないようだったので、俺は食堂兼酒場の手前でエリカを待つことにした。


 そうやって店の前で突っ立っていたら、俺の前を横目で見ながらダンジョンワーカーたちが通り過ぎて店の中に入っていった。先ほど洗濯していた二人組も俺の前を通って店の中に入っていった。

 考えたら、この二人組も俺が新人狩をたおしていなかったら、そのうち新人狩の犠牲になっていたかもしれなかったわけだ。大いに俺に感謝していただきたい。なんてな。


 店の前に立ってバカなことを考えていたら、いつもの外行き用のリュックを担いだエリカがやってきた。リュックの中身は洗濯済みの衣類だろう。

 それはどうでもいいけど。


「待った?」

「今来たところ」

「エドならそう言うと思った」

 まるで恋人同士のデートの待ち合わせ場所での会話だな。玄人さんとは同伴の待ち合わせで経験あるけれど素人さんとは初めての経験だ。また俺の初めてが失われてしまったー!



 食堂兼酒場に入った俺たちはいつものように4人席に二人で座って、給仕のおじさんに昼の定食と飲み物として薄めたブドウ酒を注文した。

 昼食は宿泊費に入っていないため、定食代と飲み物代を一緒に払っている。


 定食と飲み物はすぐにテーブルに運ばれてきた。

 俺だけ心の中で『いただきます』

 飲み食いしながら、いただけるという報奨金について二人で盛り上がった。

「懸賞金の代わりの報奨金って言うくらいだから金貨10枚くらい出ないかな?」

「10枚は多すぎないか?」

「そうかなー」

「新人がどれくらいやられたのかは分からないけれど、トップクラスのダンジョンワーカーならあの新人狩だって簡単にたおせそうだろ?」

「トップクラスのダンジョンワーカーが1日どの程度稼ぐか分からないけれど、懸賞金はその数日分の金額じゃないと誰も相手にしないんじゃない?」

「そう言われればそうか。

 トップクラスのダンジョンワーカーだってチームで行動するんだろうし、そう考えればかなり高額になる可能性もあるな」

「でしょ?」

「いずれによ、窓口に行けば分かることだから、食べ終わったらさっそく行ってみよう」

「うん。そうね」


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