第20話 魔剣


 黒剣レメンゲンと契約を結んだことで、俺の能力は確かに上がった。

「エリカ。ここにはもう何もなさそうだし、ここから出て元の坑道に戻ろう」

「そうね」



 石室を出て壁の孔から這い出た俺は、今の長剣を剣帯から外してレメンゲンをそこに下げ、今の長剣は大きく膨らんだリュックのランタンを下げていない方の脇に括り付けた。

 リュックを背負ったところ、重くないわけではなかったが重すぎるという感じではなかった。レメンゲンを構えなくても、腰に下げているだけで能力値アップの効果が出るようだ。ありがたい。

 これなら歩き回るのにそれほど支障はない。


「エリカ、どうする? これからモンスターを探してみるかい?」

「でもエドはその荷物を抱えて歩き回れないでしょ?」

「レメンゲンの効果と思うけど、それほど重く感じないんだ。でも無理することもないから、一度ダンジョンギルドに戻って買い取ってもらって次のことを考えようか」

「そうしよ」


 話がまとまったところで俺たちは側道を引き返し始めた。

 側道から本坑道に戻り、モンスターにも他のダンジョンワーカーにも出くわすことなく来た時同様1時間ほどで渦のある空洞まで戻ってこられた。



 渦を出て、ギルドの買い取りカウンターに回ったところ、時間帯が早かったおかげか人は並んでおらずすぐに買い取り査定してもらうことができた。


「何だこれ!? こんな大きなウサギは見たことない。

 よくこんなのを新人でたおせたな。お前さんたち見たところケガもないようだし、大したものだ」

 巨大ウサギは、順当に銀貨2枚と小銀貨1枚で引き取ってもらった。

 受け取った2枚の銀貨のうち1枚と財布代わりの小袋から取り出した大銅貨5枚をエリカに渡した。


「なかなかモンスターに出くわさないけれど、いい稼ぎになったな」

「そうね。それはそうと、これからどうする?」

「今何時なんだろうなー?」

「7時前に渦に入って2時間半ぐらいで戻ってきたと思うからまだ10時前だと思うわ」

「それじゃあ、これからもう一度ダンジョンに入ってみようか?」

「そうね。別に用事があるわけじゃないから、そうしましょう」

「なら、2時間くらい新しい坑道を進んで、そこで一休みしてから引き返すくらいで行こうか」

「うん。それでいい」


 話が決まったところで、エリカのリュックに入れてもらっていた俺の荷物を俺の方に移し替え、俺たちは再度渦の中に入っていった。


 俺たちは地図を見ながら坑道を進んでいった。

 相変わらずモンスターに出くわさないまま1時間ほど黙々と歩いていったところで、俺はすぐ先に何かの気配を感じ取った。

「エリカ、何かいる」

 俺はそうエリカに告げて左の腰に下げた鞘からレメンゲンを引き抜いた。

 エリカはその場に手にしていたランタンを置いて両手に剣を構えた。


 俺が構えたレメンゲンの剣身から薄っすらと黒いもやのようなものがでていた。戦闘モードに入ったのだろうと俺は勝手に解釈した。


 目を凝らして気配がした方を見つめたら、2つの黒い目がこちらを向いているのが見えた。目を凝らしたら艶のある頭から胴体も見えてきた。大ムカデだ。


「大ムカデだと思う。気を付けて」

「うん。わたしにも見えた」


 大ムカデはほとんど音を立てず向かってきた。けっこう動きが速い。とは言っても俺にはちゃんと見えているし、エリカにもちゃんと見えている。油断さえしなければ楽勝のハズ。


 とはいうものの相手が近寄ってくるのを待っている必要はないので俺は大ムカデに向かって駆けだした。

 大ムカデは、ヘビのように鎌首をもたげて俺を威嚇しようとしたようだが、俺はそのまま近づいていきレメンゲンを横一閃に薙いだところ、大ムカデの頭が路面に落っこち、大ムカデの胴体も音を立てて路面に倒れた。倒れた胴体はしばらくうごめいていたが、そのうち動かなくなった。


 手にしたレメンゲンを見たら黒いもやは収まっていた。


「エド、わたし何もできなかったんだけど。いいのかな?」

「全然問題ないよ。というか、あの位置からよく大ムカデが見えたな?」

「うん。わたしもそれは不思議。急に大ムカデが目に入ったの」

「なるほど。レメンゲンの効果が同行者にも及ぶのかもしれないな」

 エリカに言ってて俺もそんな気がしてきた。


「もしそうならありがたいけど、エドがこれじゃあ、わたしが出る幕全然ないよ」

「ごめん、エリカの剣を試すってことをすっかり忘れてた。次モンスターが出てきたらエリカに任せるから」

「危なくなったら助けてよ」

「もちろん」


 俺は大ムカデの頭を拾い上げ、ボロ布に包んでリュックに入れておいた。


「じゃあ行こうか」

「うん」


 俺たちは、そこから側道に折れることなく坑道を道なりに進んでいった。

 そろそろ1時間くらい歩いたから休憩しようかと思っていたら前方にモンスターの気配を感じた。目を凝らしたら赤い目が8個。こっちを見ている。大グモだ。

「エリカ、大グモだ」

「分かった。任せて」

 エリカはランタンを路面に置いて両手に剣を構えた。

 俺もレメンゲンを構えたがあくまでサポートだ。

 そのレメンゲンは先ほど同様剣身から黒いもやのようなものを出している。やはり戦闘モードに入ったってことなのだろう。


 大グモが15メートルくらいにまで近づいてきたところでエリカが大グモに向かって駆けだしたので、俺はエリカの後を追った。

 2本の剣が大グモの前で交差したかと思ったら、大グモは8本の足を全部斬り飛ばされて路面に腹を付け、その場で動かなくなってしまった。その大グモに向かってエリカが右手に持った剣を振り下ろし、大グモの頭が腹部から切り離されて路面に転がった。


 馬車で一緒になった頃のエリカはすごい自信家だと思っていたのだが、実力に裏打ちされた自信だったのだと分かった。

 大型のモンスターは苦手かもしれないが、こういった手合いには圧倒的な強さを見せるな。


「エリカ、スゴイ!」

「自分でもびっくりするくらい体が動いたわ」


 俺は路面に転がった大グモの頭を拾ってボロ布で包んでリュックに入れておいた。

「それじゃあ、少し休憩してからギルドに戻ろう」

「そうね」

「そういえば、新しく坑道を見つけたらギルドに報告しなければいけないとか規則ってあったかな?」

「そんな規則聞いたことない。それに新しい坑道を見つけたかどうかなんてギルドが知るわけないんだから、そんな規則作ったって意味ないわよ」

「それもそうか」

 そういった規則があるなら、レメンゲンの話まですることになるかもしれないのでないに越したことはない。もしそういった規則があってもエリカの言う通りギルドでは把握できないから無視すればいいだけだ。



 俺たちは現場から少し離れたところまで移動して、リュックを下ろして剣帯を外し、二人ならんで壁際に座った。

 俺は水袋から水を飲み、干し肉をかじった。

 エリカも水袋から水を飲んだが、干し肉ではなく干しブドウを食べ始めた。

 疲れた時には甘い物がいいかもしれない。俺も今度干しブドウを仕入れておこう。


 しばらくそうやって休憩してから、ランタンに油を補充し装備を整えて帰路に就いた。


 帰り道では今までと同じように何事もなく2時間弱で渦のある空洞にたどり着いた。


 買い取りカウンターで大ムカデの頭と大グモの頭を買い取ってもらったところ、大ムカデの頭は銀貨3枚、大グモの頭は銀貨1枚で買い取ってもらえた。どちらも大型だったうえ毒腺が全く傷んでいなかったので高評価だったそうだ。


 もちろん受け取った金は、エリカと折半した。



[あとがき]

この回でタグの『魔剣』を回収しました。残ったタグは『戦記』なんですが目途は立っていません。

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