第18話 側道


 エリカと1階層の坑道を進んでいたら俺が描き写した地図にもエリカの地図にも載っていない側道の入り口を見つけてしまった。


 地図が作られたのが何年前だか分からないが、地図が作られてから今までにダンジョンが成長して新たな坑道が作られたということなのだろうか?

 それとも、たまたま地図作成者がこの坑道を見落としたのだろうか?

 そうだとしても、今まで1階層は何十年も新人ワーカーたちが歩き回っている階層だ。だれかが気付いて地図の修正くらいするだろう。そもそもプロがこんな大穴見逃すとも思えないし。

 やはり新たな坑道と考えた方が良さそうだ。


「エリカの地図にも載っていない新たな坑道みたいだ」

「どういうこと?」

「分からないけど、ダンジョンが成長して新しく坑道が生れたんじゃないかな」

「ダンジョンって成長するものなの?」

 ダンジョンが成長するというのはあくまで俺の前世でのラノベ知識なので全く当てにはならないが、俺の勘は当たっていると告げている。


「現にこうやって新しい坑道がある以上、ダンジョンは成長すると思ってもいいんじゃないか? 誰もまだ入ったことのない坑道だとすると、新しい発見があるかもしれない」

「発見?」

「例えばお宝とか」

「じゃあ、入ってみようよ」

「もちろんだ。この先がどうなっているかは分からないから慎重に地図を描きながら進んでいこう」

「分かった」


 エリカは俺が返した地図をリュックに入れて、リュックを担ぎ直してランタンを手にした。


 本坑道から側道に入っていったが、これまでの坑道と変わったところはなかった。バインダーとかあればいいが手に持った地図なので描きにくいことこの上ない。それでも何とか地図を延長しながら道なりに進むこと10分で側道は岩壁で塞がれているのが見えてきた。


「行き止まりみたいだ」

「結局何もなかったわね。残念」

「まあ、1階層なんかで大層なお宝が見つかっちゃそれこそ大ごとだし」

「そうかもね」


「せっかくここまできたから行き止まりの壁まで行ってみるか」

「うん」


 50メートルほど先の行き止まりまで歩いて行ったところ、カンテラの光を反射して壁がキラキラ輝いていた。

「これって黄金?」

「いや。これは金に見えるけど金じゃないな。ナイフで傷付けたら金に比べてよほど固いことがわかるから」

 薄黄色い立方体の結晶が壁一面を覆っているのだが、おそらくこれは愚者の黄金とも言われる黄鉄鉱だ。

 なんで俺がそんなことを知ってるかというと、そういったものを生前の会社で取り扱ったことがあるからだ。生前の知識が役だったと言えば役立ったのだろうが知識チートってわけじゃないので大した役立ちようではなかった。


 俺がそんなことを考えている間にエリカは短剣を鞘から抜いてその切っ先で結晶に傷をつけていた。

「傷が付かないわけじゃないけど簡単には付かない。金じゃないわ」

 思った通りだった。

「これって売れないの?」

「大きくてきれいな結晶は売れると思うけど、重さに比べてそんなに高くはないんじゃないかな」

「なんだ残念」

「そう簡単に大儲けはできないのが世の習いだ」

「それはそうね。汗水流して地道に働くのが一番よね」

「そういうこと」

「それで引き返す?」

「うん、記念に大きくてきれいな結晶を持って帰りたいけれど、刃物が痛みそうだからやめた方がいいだろうな」

「そうね。何か鉄の棒でもあればよかったけれど今は剣しかないし」

「引き返そう」

「うん」


 引き返そうと思ってUターンしたところで前方に何かがいる気配がした。

 エリカのランタンの明かりに2つの赤い目が光るのが見えた。今度もおそらく大ウサギだ。こいつら草もないのにどうやって生きているのか全くの謎だが、ダンジョンだからで済ますしかないよな。


 エリカはランタンを路面に置いて、昨日買ったやや細身の剣と短剣を引き抜き大ウサギに向かって一歩前に出た。


 腰の鞘から長剣を引き抜いた俺はエリカから少し離れて両手で中段に構えた。


 俺たちが構えるのを待ってくれたのか、俺たちが剣を構えたら大ウサギはエリカ目がけて走り出した。


 デカい。


 昨日俺が最初に倒した大ウサギの倍はありそうだ。エリカでは無理がある。俺でも無理があるのは明らかだが、エリカよりはタフなはずだ。

 俺はかまわずエリカの前に飛び出して剣を構えた。巨大ウサギは俺を主敵と捉えてくれたようでわずかに方向を変え俺に向かって突っ込んできた。


 俺の後ろは岩壁。

 俺はそのままエリカの前から少しずれて岩壁の近くまで下がり、巨大ウサギがとびかかってくるのを待った。


 巨大ウサギが俺に狙いを定めてジャンプ。

 その軌跡を眺めながら俺は体をずらして何とか巨大ウサギをかわすことができた。

 俺の立っていたところを通過した巨大ウサギは空中で止まることもできずそのまま後ろの岩陰に額から突っ込んでいった。


 巨大ウサギの額は黄鉄鉱の岩壁に激突して壁を盛大に崩し、体が半分埋まってしまった。俺は動きの止まった巨大ウサギの尻の穴に向かって後方から長剣を全力で突き刺した。


 ギーン!


 ウサギの悲鳴を初めて聞いた。巨大ウサギの体に3分の2ほど埋まった剣身をそのまま捻り上げてやったらまた巨大ウサギは悲鳴をあげた。それを何回か繰り返したら、ウサギは声をあげなくなった。知的勝利ってやつだな。


「エド、すごいじゃない。こんな大きなウサギをたおしちゃうなんて」

「ウサギが壁に突っ込んで動かなくなったのが良かった。

 それじゃあ血抜きしようか。内臓は半分くらい出てるけど買い取ってくれるよな」

「内臓は普通食べないから大丈夫じゃない」


 そういうことで巨大ウサギの後ろ足を片方ずつ二人で持って半分黄鉄鉱に埋まった体を引きずり出してやった。

 そのあとナイフで首筋に切れ目を入れて両足をある程度持ち上げて血抜きをした。俺の長剣の切っ先で内側から切り裂かれた孔からこぼれ出ていた内臓は孔に突っ込んでおいた。

「これ持って帰れるかな?」

「そうねー。エドのリュックに入れるとして、エドのリュックに今入っている物をわたしのリュックに移した方がいいと思う」

「そうだな。重いからといって半身にもできないしそれでいくしかないか」

 俺はリュックの中身を出していき、エリカがそれを自分のリュックの中に入れていった。


 準備ができたところで、空になった俺のリュックを先ほどの大ウサギにかぶせるようにして、それから全体をひっくり返してトントンしたら巨大ウサギをリュックに入れることができた。

 俺のリュックはパンパンに膨らんでしまったのだが、果たしてこれを背負うことができるのだろうか?


「エド、それ持ち上がる?」

 俺もそれが心配だ。試さないといけないなー。と、思いながらウサギが突っ込んで大きく抉れた穴を見たら、その先に空洞があるように見える。


「穴をもう少し広げたらこの先に進めそうだけど、行ってみないか? 何か面白いものが見つかるかもしれないし」

「見つかるかな?」

「それは分からないけど、何かあればしめたものだろ?」

「そうね。何かあることを期待しましょう」


 手袋をした手で穴の縁をガシャガシャと擦ったらボロボロと黄鉄鉱の結晶が崩れてきた。これなら簡単に穴を拡げられそうだ。



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